↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死に戻ったら前世で私を殺した宿敵が溺愛してきます if  作者: しののめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/27

7-3

 着衣による溺者救助訓練。

 意識を失った要救護者の元へ泳いでいき、それを救助し安全な場所まで泳いで戻る水難救助訓練だ。


 騎士関連の敷地内にある、成人男子の身長二倍程度の深さのプールに移動し、


「まずは第二陣営の者を要救助者、第一陣営の者を救助者とする!」


という教官の合図と共に、訓練が始まった。

 最初はアンリが溺れる役でローランが救助役である。


 救助者は、浮きを装備し要救助者の元へ泳ぐ。辿り着いたら救助対象者の背中を引き寄せ、仰向けの状態で抱え込み、その状態で陸地に泳いで戻る。

 なお、溺れる側は、静かに仰向けに浮いているだけで良い。


 というわけで、アンリがぷかぷかと水に浮いていると、救助者役のローランが泳いでやって来る。

 彼は手際良くアンリに浮きを装着させ、抱え込んだ。


 密着したところから、その体の逞しさを感じる。着痩せするタイプだろう。明らかに男だった時の自分より体格が良く、羨ましく思った。


(いいなー)


 自分ももう少し背が高く、手足が長く、もっと筋肉が付きやすい体だったなら、舐められることはなかったのかもしれない。


 ーーローランにも勝てたかもしれない。


(でも筋肉付かなかったんだよなぁ)


 しかも、今は女になって筋肉量が落ちるという有様である。

 そんな、ローランに対する羨望と、自分の体質に対する不満とで複雑な気分に陥りながら、一回目の救助を終えた。


 次はローランが溺れる役で、アンリが救助する役だ。


 一瞬、ローランは複雑そうな顔で自分を見たが、アンリは力強く頷いてみせた。


(女の体だからって気にするなよ!)


という意味を込めて。

 躊躇(ためら)われると、逆に周囲から不審がられる。


 水に入ったローランが中央で仰向けに浮かぶのを確認して、アンリもまたプールに入って泳ぎ出す。

 あとは、基本のとおりである。

 ローランの体に浮きを装着させつつ、相手の体全体を引き寄せ胸元に抱え込んだ。


 密着した瞬間、ローランの体が緊張からか一瞬だけびくっとした。


 しかし筆頭騎士の彼は、それ以上、動揺する様子は見せず、うまくアンリに救助させられたのだった。


⭐︎


 救助訓練が終わると、いつになく疲れた様子のローランが、ぼそりと呟いた。


「………君が、豊満な体付きじゃなくて良かった」


 アンリ以外に聞かれないような、ごく小さな声だ。


(いや、そもそも救助用の装備を着込んでるし)


 直接触れることはなかったはずだ。


 いや、自分にむらむらした、とか言われても困るが、暗に胸が小さいと言われ、それはそれで屈辱を感じたアンリだった。




ーーーーーーーー




(何とか、やり過ごせたな)


と先に着替え終えたローランは息をついた。


 プールの更衣室は共同だが、アンリが他の騎士たちと一緒に着替えられるはずもなく、全員が出て行くのを待った。

 そして今はアンリが中にいるので、ローランが見張りをしている。


 やがて更衣室から出てきたアンリは、


「ありがとな。お前のおかげで、何とか無事に済んだ」


と、いつになく素直に礼を言って微笑んだ。その穏やかな態度に、色々と言いたかったことが消し飛んでしまう。


(調子が狂うな……)


と思っていると不意に、


「あ……」


とアンリが短く声を上げる。と同時に突然走り出し、浮きを抱えると躊躇(ためら)うことなく水に飛び込んだ。


 その理由はすぐに知れた。プール内で誰かが溺れていた。

 静かに溺れていたようで、よくアンリはその気配に気づいたものだ。


 アンリが器用に溺者を引き上げる。


 早速訓練が役に立ったなと思いつつ、この顔には見覚えがあることに気付く。今日の訓練で要救護者役を引き寄せた時に、一緒に沈んでいた第一陣営の新米の騎士だ。

 恐らく今日の失態を恥じて、一人で居残り訓練をしていたのだろう。


 アンリは横たえた青年の頰を叩いて、意識の有無を確認する。


「おい、しっかりしろ!」


 しかし、全く反応はない。青年はぐったりしたままぴくりとも動かなかった。


「くそっ!」


 アンリは意識のない新米騎士の気道を確保し、その口元に顔を近づける。彼ーー彼女が大きく口を開け、息を思い切り吸い込んだところでーーローランはアンリの動きを制した。


「ちょっと待て。何をしている?」

「何って……人工呼吸」


 アンリは事もなげに答えるが。


「いや、君は今は女だろう」


 人工呼吸とはいえ、異性相手だ。ためらいはないのか。ーーと考え、はっと我に返る。


(いや、何を言っているんだ、俺は……)


 救護に男も女もないだろう。時は一刻を争う。自分だって、必要であれば男女問わず人工呼吸をするだろう。

 しかし、なぜかモヤっとした思いが胸に凝る。多分それは、


(俺はこんなに気を回しているのに、こいつは何でいつも無頓着なんだ?)


という理不尽さである。


「いや、そうは言うけどさ」


 アンリが困ったように首を傾けた。


「ここ、俺とお前の二人しかいないんだけど」

「……」

「人を呼びに行く時間はないよな」

「…………」


 アンリが何かを言いたげに、じっと自分の顔を見た。


 じーーーっと、見られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。