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着衣による溺者救助訓練。
意識を失った要救護者の元へ泳いでいき、それを救助し安全な場所まで泳いで戻る水難救助訓練だ。
騎士関連の敷地内にある、成人男子の身長二倍程度の深さのプールに移動し、
「まずは第二陣営の者を要救助者、第一陣営の者を救助者とする!」
という教官の合図と共に、訓練が始まった。
最初はアンリが溺れる役でローランが救助役である。
救助者は、浮きを装備し要救助者の元へ泳ぐ。辿り着いたら救助対象者の背中を引き寄せ、仰向けの状態で抱え込み、その状態で陸地に泳いで戻る。
なお、溺れる側は、静かに仰向けに浮いているだけで良い。
というわけで、アンリがぷかぷかと水に浮いていると、救助者役のローランが泳いでやって来る。
彼は手際良くアンリに浮きを装着させ、抱え込んだ。
密着したところから、その体の逞しさを感じる。着痩せするタイプだろう。明らかに男だった時の自分より体格が良く、羨ましく思った。
(いいなー)
自分ももう少し背が高く、手足が長く、もっと筋肉が付きやすい体だったなら、舐められることはなかったのかもしれない。
ーーローランにも勝てたかもしれない。
(でも筋肉付かなかったんだよなぁ)
しかも、今は女になって筋肉量が落ちるという有様である。
そんな、ローランに対する羨望と、自分の体質に対する不満とで複雑な気分に陥りながら、一回目の救助を終えた。
次はローランが溺れる役で、アンリが救助する役だ。
一瞬、ローランは複雑そうな顔で自分を見たが、アンリは力強く頷いてみせた。
(女の体だからって気にするなよ!)
という意味を込めて。
躊躇われると、逆に周囲から不審がられる。
水に入ったローランが中央で仰向けに浮かぶのを確認して、アンリもまたプールに入って泳ぎ出す。
あとは、基本のとおりである。
ローランの体に浮きを装着させつつ、相手の体全体を引き寄せ胸元に抱え込んだ。
密着した瞬間、ローランの体が緊張からか一瞬だけびくっとした。
しかし筆頭騎士の彼は、それ以上、動揺する様子は見せず、うまくアンリに救助させられたのだった。
⭐︎
救助訓練が終わると、いつになく疲れた様子のローランが、ぼそりと呟いた。
「………君が、豊満な体付きじゃなくて良かった」
アンリ以外に聞かれないような、ごく小さな声だ。
(いや、そもそも救助用の装備を着込んでるし)
直接触れることはなかったはずだ。
いや、自分にむらむらした、とか言われても困るが、暗に胸が小さいと言われ、それはそれで屈辱を感じたアンリだった。
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(何とか、やり過ごせたな)
と先に着替え終えたローランは息をついた。
プールの更衣室は共同だが、アンリが他の騎士たちと一緒に着替えられるはずもなく、全員が出て行くのを待った。
そして今はアンリが中にいるので、ローランが見張りをしている。
やがて更衣室から出てきたアンリは、
「ありがとな。お前のおかげで、何とか無事に済んだ」
と、いつになく素直に礼を言って微笑んだ。その穏やかな態度に、色々と言いたかったことが消し飛んでしまう。
(調子が狂うな……)
と思っていると不意に、
「あ……」
とアンリが短く声を上げる。と同時に突然走り出し、浮きを抱えると躊躇うことなく水に飛び込んだ。
その理由はすぐに知れた。プール内で誰かが溺れていた。
静かに溺れていたようで、よくアンリはその気配に気づいたものだ。
アンリが器用に溺者を引き上げる。
早速訓練が役に立ったなと思いつつ、この顔には見覚えがあることに気付く。今日の訓練で要救護者役を引き寄せた時に、一緒に沈んでいた第一陣営の新米の騎士だ。
恐らく今日の失態を恥じて、一人で居残り訓練をしていたのだろう。
アンリは横たえた青年の頰を叩いて、意識の有無を確認する。
「おい、しっかりしろ!」
しかし、全く反応はない。青年はぐったりしたままぴくりとも動かなかった。
「くそっ!」
アンリは意識のない新米騎士の気道を確保し、その口元に顔を近づける。彼ーー彼女が大きく口を開け、息を思い切り吸い込んだところでーーローランはアンリの動きを制した。
「ちょっと待て。何をしている?」
「何って……人工呼吸」
アンリは事もなげに答えるが。
「いや、君は今は女だろう」
人工呼吸とはいえ、異性相手だ。ためらいはないのか。ーーと考え、はっと我に返る。
(いや、何を言っているんだ、俺は……)
救護に男も女もないだろう。時は一刻を争う。自分だって、必要であれば男女問わず人工呼吸をするだろう。
しかし、なぜかモヤっとした思いが胸に凝る。多分それは、
(俺はこんなに気を回しているのに、こいつは何でいつも無頓着なんだ?)
という理不尽さである。
「いや、そうは言うけどさ」
アンリが困ったように首を傾けた。
「ここ、俺とお前の二人しかいないんだけど」
「……」
「人を呼びに行く時間はないよな」
「…………」
アンリが何かを言いたげに、じっと自分の顔を見た。
じーーーっと、見られた。




