7-2
「筆頭騎士の俺が、新人中心の訓練に毎回顔を出してたら、みんな、やりにくいだろ」
そのくらい、ちゃんと空気を読んでいるのだ。
「でも合同訓練の時は本気出すよ? 弱いと思って舐められたらいけないし、お前だってそうだろうけど、必要な時には力を示さないと、尊敬を得られない」
「それもそうだな」
同じ立場であるローランは、そこは素直に同意してくれた。そして彼は、ほっと一息つく。
「何にしても、問題はなさそうだな」
明らかに安堵した様子である。
主君カミーユ王子の弟であるシリル王子からの依頼であるからなのか、ローランは、思いのほか、アンリのサポートに真面目に取り組んでくれている。
しかし、本当に良かったのだろうかと、今でも考える。
もちろん、ローランにとっても利点があるからこそ、手伝ってくれているのだろう。
騎士の中に女がいることが、いかに危険なことであるか。それについては、男の時から中性的であるがゆえに、良からぬ目で見られることが多かったアンリは、痛いほどに理解している。
そしてローランは、この組織の中で余計なトラブルを発生させないためには、アンリに協力することもやむを得ないのだと割り切っているのだろう。
それを考慮しても、正直なところ、借りを作りまくっている状態だ。
(こうやって俺のために時間を取ってくれているんだよな)
借りはいつか、しっかり返さなければならないだろう。
⭐︎
そうして合同訓練の日が訪れた。
ローランと綿密に打ち合わせをし、万全の態勢で臨んでいるアンリは、何の憂いもなく従騎士と共に軽い運動で体を温めていた。
が。
想定とは敢えなく崩れるものである。
「今日は抜き打ちで、着衣による溺者の救助訓練を行うことにする!」
ーー脳まで筋肉でできていると専ら評判の教官が、唐突にそう宣言した。
「……」
なんじゃ、そりゃーーっ!!
と絶叫したくなったのを何とか堪える。
打ち合わせた計画が、頭の中でがらがらと音を立てて崩壊した。
「最近、王都で水難事故が多くてな。今まで泳法訓練を取っていなかった者も、今年から、この訓練だけは年に一度、参加してもらうことになった!」
「……」
ローランに説明したとおり、体術訓練であれば、魔力を帯びたサラシを巻くことにより他の騎士にうっかり触れられても、線が細くなったことや胸があることは決してばれないはずだった。
しかし水に浸かり、サラシが水分を多量に含むことによって魔法の性質がどう変化するか、アンリには予測ができない。
そんな不確かな状態で人と接触するのは、流石にまずいのではないか。
(着衣って言ってたから、脱ぐ必要がないのがせめてもの救いだけど……)
ここは腹を括るしかないのか、と悲壮な覚悟をしたところ、
「教官。一つよろしいでしょうか」
と涼やかな声が聞こえた。ローランの声だ。
「この合同訓練は、騎士の能力の向上と各陣営の融和を図るために、定期的に行われているものです」
彼は恐らく、アンリ以上に「なんだ、それは!」と思っているだろうが、それをおくびにも出さない落ち着いた声で、
「その融和を皆に示すため、第一陣営筆頭騎士の私は、第二陣営筆頭騎士のアンリと組みたいと思います」
と提案した。
別に悪気などない脳筋教官は、純粋にローランの申し出に感銘を受けたらしい。
「おう、それはいい考えだな! 筆頭騎士二人が組めば、他の皆も別陣営と組みやすくなるしな! アンリも、異存はないよな!?」
いちいち言葉の終わりに感嘆符が付くような威勢の良い声で、脳筋教官はアンリの意向を問うた。アンリに勿論、否やはない。
「はい」
また借りができてしまったが助かった。アンリはこっそり安堵の息をついたのだった。




