7-1 君の唇の甘い罠
「次の合同訓練は体術訓練だが、大丈夫なのか?」
とローランに尋ねられたのは、二週間後に行われる次の合同訓練に備え、アンリが王城内の私室にローランを招き、擦り合わせを行っていた時のことだった。
ローランが懸念するのも無理はない。体術訓練は剣術と違い、対戦相手と組み合うーーつまり密着する頻度が高いため、通常の訓練以上に気を払う必要がある。
なお、現在のアンリには筆頭騎士としての仕事があり、その大半が机仕事である。決して新人の頃のように訓練漬けの生活をしているわけではない。
しかし、あくまで騎士という職業は軍人だ。重要な訓練ーー特に合同訓練は避けて通れない。
まあ、アンリとしても無策でそれらに臨むつもりは毛頭ない。色々と対策はしているのである。アンリは自分の胸を指差した。
「準備は万端だよ。ちゃんと胸に布ーーうちの領ではサラシって言うんだけど、それをしっかり巻いているから、触られても平気なはず」
しかしローランが、サラシの効果について疑わしげな目で見てきたので、
「直接、見てみる?」
と尋ねてみると、
「見ない」
と即答された。何を考えているんだ、という非難がましい視線を喰らったので、もっと詳しい説明を試みる。
「いや、お前の目には男の俺がサラシを巻いているようにしか見えないよ? それに、このサラシには魔法がかけてあって、筋肉っぽい触り心地になってるんだ。ーー触ってみろよ」
と言って服を脱ぎかけると。
「触らない……脱ぐな!」
強く拒否された。
このサラシにかけた魔法の効果を確認して欲しかったのだがーー残念だし不満である。
(こういう、男と偽る魔法の成果は、他の人に確かめてもらうことも大事だと思うんだけどなあ)
アンリは魔法を専攻してきたわけではない。ゆえに魔法の効果については、色々と手探りの状況なのだ。自分では上手く発動したと思っていても、端から見ると穴があるかもしれない。そういう部分をしっかり指摘してほしいのだが。
しかしローランは、この話題をさっさと切り上げたいらしく、
「……体術訓練の方は大丈夫だと仮定するが、泳法訓練の方はどうする?」
と話を変えられた。
まあ、次の訓練は泳法訓練ではないが、今後を見据えると重要な確認事項ではある。仕方ないので触って確認してもらうことは諦めて、
「泳法訓練の参加は任意だから基本、不参加だな。今までもそうしてたし」
と答えた。
なお、騎士として登城して一年目は真面目に参加していたが、第二陣営の仲間たちが自分を見て妙に落ち着かない雰囲気になることに気付き、従騎士であるテオとイオに相談すると、
「……アンリ様。泳法訓練は控えましょう。みんな、気もそぞろになっちゃいますから」
「それに、第一陣営が混じった時に、どんな不埒な目で見られるか分かりませんよ。必須ではないので、今のうちからやめておきましょう」
と言われたので、以降、どんなに誘われても辞退することにしている。
(泳ぐの、結構好きなんだけどな)
考えてみれば、女になる前も、結構さまざまな制約があったアンリである。
ちなみに体術訓練については今でも参加しているが、最近は専ら、指導し監督する立場に回っているため、実際に組み合うことは稀だ。筆頭騎士かつ十分な力を示すアンリには、それが認められていた。
「そうか。……体を動かすことが好きな君のことだから、訓練には積極的に参加しているのかと思っていた」
ーー暗に脳筋と言われているような気がする。というか、ローランの言葉がいちいち皮肉っぽく聞こえるのは、気のせいだろうか?




