六-1 第二王子の勅命
「俺の相手はレノーか。よろしく」
「お手柔らかに頼むよ、アンリ」
ローランは、アンリとレノーが訓練場で対峙する姿を、固唾を飲んで見守る。
さて、騎士は大きく、カミーユ第一王子付きの第一陣営とシリル第二王子付きの第二陣営に分かれている。普段は業務・訓練共に陣営単位で行われるが、定期的にこういった合同訓練も開催されている。
この訓練の中には試合形式のものもあるが、筆頭騎士同士ーーつまりローランとアンリのことだがーーは対戦しないように調整されている。
が、筆頭騎士は皆に力を示す必要があるため、このように他の騎士と対戦することは多々ある。
というわけで、ローランはあらかじめ、アンリとレノーが当たるように対戦表を調整していた。
(レノーなら、万が一アンリのことがバレても、大事にはしないだろう)
という算段だ。
そうして大きなトラブルもなく、アンリは第一陣営のレノーと訓練試合を行い、女になる前と同様に、レノーを圧倒していた。その戦い方に違和感はなく、訓練の成果が出ていると感じた。
(さすがだな)
細身なせいでひ弱に見えがちだが、筆頭騎士なだけはある。
無駄のない洗練された動き。魔力の乗せ方も完璧で、上手く攻撃力を補っている。
女になったアンリの特訓に付き合わされたが、短期間の訓練にも関わらず、これだけ対応できるのだ。抜群の身体能力の持ち主であることに間違いない。
そんなふうに感心していると、試合に負けたレノーが戻ってきた。そして、
「くっそー。アンリのやつ、あんな細っこいくせして、強すぎだろ」
とぼやきながら、手が痺れているのか、軽く振った。
「まあ、ああ見えて第二陣営筆頭だからな」
当たり前だが、アンリは美貌で筆頭騎士になったわけではない。第二陣営の中で一番強く、また第一陣営を合わせた騎士全体の中でも、アンリに勝てる人間は自分くらいだろう。
そうでなければ、気性の荒い人間が集まる軍事組織を束ねることはできない。騎士が尊敬を集めるための絶対条件は、圧倒的な強さである。
しかし、ふとレノーが首を捻った。
「でも、なんか、いつもと違うんだよなぁ」
その言葉に、ぎくっとしたが、表情には出さず冷静を装って尋ねる。
「どういうところだ?」
「なんか間合いが取りにくいというか。アンリも、いつもより戦いにくそうだったような気もするけど……まあ、気のせいだよな」
いつもどおり、ぼっこぼこにやられた訳だし、とレノーはからからと笑った。友人がこういう人間で助かったと、改めてほっとしたところで、レノーがしみじみと言葉を続けた。
「でも、あいつ、別陣営とはいえ本当に強くて良かったよなって思うわ」
ローランが目を向けると、レノーは苦笑いを浮かべた。
「いや、この間も話題に出たけど、アンリはやっぱり綺麗だろ? お前もむかつくくらい面がいいけど、あいつはまた、ちょっと違うというか……中性的なんだよな。こういう男所帯の騎士団では、目の毒というか。つい、視線が引き寄せられるんだよなぁ」
とレノーはぼやいた。
「まあ、お前はそんなことないだろうけどな!」
「中身は野獣だからな」
そう答えたものの、レノーの言葉は理解できてしまう部分がある。
例えば儀式用の剣舞を舞っている時のアンリは神秘的で、男女の枠を超えた魅力があるのは事実であり、ローランでさえ、一瞬目を奪われることがある。
「まあ、でも、本人も気を遣ってる感、あるよな。人目があるところでは着替えたりしないらしいぞ」
そこはローランが苦情を述べたせいだろう。
ちなみにそれ以降、自分たちには筆頭騎士専用の更衣室を一室ずつ用意されることになった。
「まー、あっちの陣営の筆頭だし、第二王子のお気に入りだし、そのくせ狂犬みたいに強いし、普通変に近寄ろうなんて思わないもんなんだよ。でも、身の程をわきまえない馬鹿がいるだろ? 襲われて返り討ちにしたことも何度もあるみたいだし。ちなみに大体、第一陣営の末端。嘆かわしい」
「……」
シリル王子にも指摘されたことである。ローランは頭を押さえながら、アンリの様子を窺った。
アンリは双子の従騎士ーーテオとイオというのだが、ローランにはどちらがどちらか見分けがつかないーーの一人から差し出されたタオルで汗を拭いていたが、もう一人の従騎士に何か耳元で囁かれたのち、こちらを見た。
究極に嫌な顔をしている。
「……」
その顔を見て、ローランもまた、嫌な予感がしたところに、
「ローラン様……」
と困惑した顔をした自分の従騎士フレッドが、近寄ってくる。その騎士が声を潜めてローランに告げた内容は、とんでもないものだった。




