五-2
最近、浅慮な家族は性懲りも無く、第一陣営の筆頭騎士となったローランの評判を利用して、再起を図ろうと目論んでいるようだった。
その手段は、ローランに自分たちの息がかかった娘をあてがって、思うままに操ろうというもののようだ。彼ららしい、その場しのぎの浅はかな考えである。
(馬鹿らしい)
と思うが、そんな邪な魂胆を持つ実家にとって、ローランのパートナーは排除すべき存在だ。
相手の身の安全が保障できないため、今は特定の相手を作らないことにしている。
「今は、一人の方が気楽なんだ」
ーー相手がいないならいないで、言い寄られることが多くなり、それも煩わしいのだがやむを得ない。
「まあ、お前の場合、そうかもな」
「心中、お察しします」
レノーは空気を読む男だ。ローランの置かれている状況を察し、これ以上深くは追求してこなかった。
一方、フレッドはシャルトル家の親族なので、内情は知っているだろう。痛ましげに目を伏せた。
ちなみにフレッドの実家であるラフォレ家は、昔気質の騎士道を重んじる一族であるため、横暴で浅慮な本家とは距離を置いている。
少し重い空気になりかけたところで、レノーが話題を変えた。
「お前はどうなの? 気になる官女とかいねーの?」
レノーがからかうように水を向けた先はフレッドだ。
「あの、私は……」
突然、話を振られた従騎士は顔を赤く、そして青くする。こんな表情をする騎士の答えを、ローランは概ね知っていた。
フレッドは昔、少し粋がっていたところもあるが、今では立派な騎士だ。しかし時折ふと、何かに目を奪われていることがある。その視線の先にはあるのはいつも、アンリの姿だった。
レノーにつつかれたフレッドは、話を逸らそうと試みる。
「そ、それより官女が嘆いているという話も聞きますね。最近の騎士は、目が肥えすぎていると」
……率直に、話の逸らし方が下手だと思った。
「ああ、アンリがいるからなぁ」
この話の流れとしては当然だが、とうとうレノーがその名を出してしまった。
第二陣営筆頭騎士であるアンリとは、王立学園に入学した十二歳の頃からの腐れ縁である。
学生時代はもっさりしており、きゃんきゃん吠える子犬のような鬱陶しさだったが、騎士になってからは表面上は落ち着き、見違えるようになった。……筆頭騎士なので当然と言えば当然だが。
彼は頭も良く、武にも秀で、優秀な男だが、それ以上に特筆すべきは、その美しさだ。
誰をも目を止めずにいられない美貌は、しかしどこかあどけなさを残す童顔で、それが絶妙に調和して中性的な美をつくりあげている。
中性的な美しさというのはつまり、男であるアンリについては女性的な美しさがある、ということであり、どうしても騎士たちの心を揺さぶってしまう。
ローランでさえ、その心情は理解できる。あれは、その辺の美しい女性では太刀打ちできないだろうと。
「もしアンリ様が女性でしたら、競争率が凄かったでしょうね」
「顔だけならなぁ。でも性格がなあ。暴れん坊だろう」
「レノー様! その言い方はセネヴィル家のご子息に失礼ですよ! アンリ様は乱暴者じゃありません! ただ勇敢なだけです!」
「えー、おれ、乱暴者とまでは言ってないしーーそれにお前、アンリに心酔しすぎだろ」
レノーとフレッドのくだらない言い争いも、今のローランは軽く受け流せなかった。
(そのアンリが、本当に女になってしまったんだが)
そしてローランは、とても面倒なことに巻き込まれてしまったのである。
しかし冷静に考えると、シリル王子の選択は正しい。自分以外にアンリの美貌に心乱されず、かつ彼の秘密を死守できる人間はいないだろう。
「でも、アンリ様が女性だったら、本当にローラン様とお似合いだと思います」
うっとりと語るフレッドに、ローランは辟易しながら答える。
「………やめてくれ」
アンリが女性だったら、という想定は、最早想定ではなくなった。
学生の頃から、あの男ーー今は女かーーは、いつも唯一、自分を悩ませる存在だ。
みなさま、ヒーローに振り回されるTSっ娘も良いですが、TSっ娘に振り回されるヒーローも良くないですか?
私はーーどっちも良いと思います!
TS男女好きさんが増えますように……!
※話数が漢数字の時はローラン視点になっています。
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