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竜に選ばれなかった日【竜の子】〜誰にも選ばれなかった少年、謎の声に導かれ世界を選び直す〜  作者: 心瑛タケハル


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第66話 届かない半歩

 二人が。


 同時に地を蹴った。


 ガギィィン!!


 刹那丸とザーファルの剣がぶつかる。


 火花が散った。


 間を置かず。


 もう一撃。


 ギンッ!


 ベルクが受ける。


 流す。


 返す。


 ザーファルもすぐに斬り返す。


 速い。


 重い。


 そして。


 無駄がない。


 元・水の国護衛団団長。


 その肩書きが飾りではないことは。


 数合も打ち合えば十分に分かった。


「なるほど」


 ザーファルが薄く笑う。


「口だけではないようですね」


「そりゃどうも」


 ベルクが刹那丸を振るう。


 ザーファルが受ける。


 ギィン!!


 刃が滑る。


 そのまま。


 ベルクは横へ回った。


 ザーファルの肩が動く。


 次は右。


 ベルクは半歩ずれる。


 予想通り。


 剣が鼻先を通り過ぎた。


「っ!」


 ザーファルの懐が開く。


 今だ。


 踏み込めば。


 届く。


 ベルクの右足が。


 前へ――


「……っ」


 止まった。


 ほんの。


 半歩。


 その一瞬。


 ザーファルの剣が戻る。


 ギィン!!


「くっ!」


 ベルクはとっさに受け。


 大きく後ろへ下がった。


 靴底が床を擦る。


 ザーファルが目を細めた。


「……どうしました?」


「何がだ」


「いえ」


 ザーファルは剣を構え直す。


「随分と慎重だと思いまして」


 ベルクは答えない。


 刹那丸を握り直した。


 もう一度。


 二人がぶつかる。


 ギンッ!


 ガギィン!


 ザーファルの剣が下から迫る。


 ベルクは刃の腹で受け流す。


 一歩。


 横へ。


 ザーファルの身体が流れた。


 今度は。


 完全に脇腹が空いた。


「もらった!」


 ベルクが踏み込む。


 だが。


 また。


 足が止まった。


 ほんの少し。


 最後の。


 半歩だけ。


 ザーファルの目が動く。


「……なるほど」


 ベルクの背筋に。


 冷たいものが走った。


 ザーファルが。


 逆に踏み込む。


「っ!」


 ザシュッ。


 刃が。


 ベルクの肩を浅く裂いた。


「ぐっ!」


 血が飛ぶ。


「ベルク!」


 サフィラの声。


 ベルクは数歩下がる。


 傷口を押さえる。


 深くはない。


 だが。


 ザーファルはもう。


 ベルクの顔ではなく。


 足元を見ていた。


「そういうことですか」


「……何がだ」


 ザーファルが笑う。


「あなた」


 一拍。


「最後の一歩が踏み込めないのですね」


 ベルクの表情が固まる。


 サフィラも。


 何も言わなかった。


 ザーファルは。


 確信したように剣を構える。


「技量はある」


「判断も悪くない」


 一歩。


 迫る。


「なのに」


 ギィン!!


 ベルクが受ける。


「決める時だけ」


 もう一撃。


「足が止まる」


 ベルクは弾く。


「黙れ」


「違いますか?」


 ザーファルの剣が。


 鋭く突き込まれる。


 ベルクがかわす。


 その瞬間。


 また。


 隙。


 斬れる。


 だが。


 ザーファルは。


 わざと作っている。


 分かっているのに。


 ベルクの足は。


 前へ出ない。


 ザーファルの口元が上がった。


「怖いのですか?」


 その言葉に。


 ベルクの呼吸が止まった。


 一瞬。


 景色が変わる。


 崩れる足場。


 伸ばした手。


 届かなかった指先。


 落ちていく背中。


 刹那丸の柄で。


 小さな妖精が、揺れた。


「……黙れ」


 ベルクが低く呟く。


「図星ですか」


 ザーファルが踏み込む。


 ガギン!!


 ベルクが受ける。


 一歩。


 下がる。


 さらに斬撃。


 ギィン!!


 もう一歩。


 下がる。


「どうしました?」


「先ほどまでの威勢は」


 ザーファルは止まらない。


 ベルクが受けるたび。


 一歩ずつ。


 押し戻されていく。


「踏み込まない」


 ギンッ!


「決めきれない」


 ギィン!


「そのくせ」


 ザーファルの剣が大きく振り下ろされる。


 ベルクが刹那丸で受け止める。


 腕が痺れる。


「一人で前に立つ」


 ザーファルが笑った。


「随分と中途半端な剣ですね」


 ベルクの顔が歪む。


「……てめぇ」


「その程度で」


 一拍。


「誰を守るつもりです?」


「黙れぇ!」


 ベルクが踏み込んだ。


 刹那丸を振り抜く。


 ザーファルは半歩下がるだけでかわした。


 その顔には。


 もう余裕しかない。


 ヒュン!!


 その横から。


 円月輪が飛んだ。


「っ」


 ザーファルが剣で弾く。


 ギィン!


 円月輪は弧を描き。


 サフィラの手へ戻った。


「ベルク!」


 サフィラが前へ出る。


「来るな!」


 ベルクが叫んだ。


 サフィラの足が止まる。


「何言ってるの!」


「俺がやる!」


「今のあんたが?」


「うるせぇ!」


 ベルクはザーファルから目を離さない。


「こいつは強ぇ」


 一拍。


「お前まで巻き込めねぇ」


 サフィラの表情が変わった。


「……は?」


「下がってろ」


「俺が――」


「勝手に決めないで!」


 鋭い声が響いた。


 ベルクが振り返る。


 サフィラは怒っていた。


「もう巻き込まれてるわよ!」


「これは私の問題でもある!」


「でも――」


「また一人で背負う気?」


 ベルクが言葉を失う。


 サフィラは円月輪を握りしめた。


「守ったつもりで」


「勝手に遠ざけて」


 一歩。


「それで最後に止まる」


 ベルクの瞳が揺れる。


「……サフィラ」


「私を見捨てたのは」


 一拍。


「ザーファルだけで十分よ」


 ベルクの胸が。


 強く鳴った。


 ザーファルが小さく笑う。


「感動的ですね」


「ですが」


 剣を構える。


「二人まとめて消えれば」


「何も変わりません」


 サフィラがザーファルを見る。


「黙ってなさい」


「あなたとは話してない」


「……」


 ザーファルの笑みが。


 僅かに引きつった。


 サフィラは円月輪を構える。


「私も戦う」


「サフィラ――」


「文句は勝ってから聞くわ」


 ベルクは。


 一瞬だけ黙った。


「……勝手にしろ」


「最初からそのつもりよ」


 二人が。


 同時に前へ出る。


 ガギィィン!!


 ベルクが正面から斬り込む。


 ザーファルが受ける。


 横から。


 円月輪。


 ヒュン!


 ザーファルが首を逸らす。


「くっ!」


 ベルクがさらに踏み込む。


 刹那丸。


 ザーファルは後退。


 サフィラが回り込む。


 もう一つの円月輪が低く飛ぶ。


 ザーファルが跳ぶ。


 そこへ。


 ベルク。


 刃が。


 ザーファルの肩へ迫る。


 あと。


 半歩。


「……っ」


 足が。


 止まった。


 ほんの一瞬。


 だが。


 ザーファルは見逃さない。


「やはり」


 着地と同時に。


 剣を振るう。


 ギィィン!!


「ぐっ!」


 ベルクの刹那丸が大きく弾かれた。


 そのまま。


 ザーファルが一気に距離を詰める。


「ベルク!」


 サフィラが円月輪を投げる。


 ザーファルは振り返りざまに弾く。


「邪魔です!」


 ギンッ!


 円月輪が床へ落ちた。


 サフィラの援護が。


 潰される。


 ベルクが構え直す。


 だが。


 ザーファルはもう。


 完全に弱点を掴んでいた。


 わざと。


 懐を開く。


「来ないのですか?」


 ベルクの目が細くなる。


「……」


「ここですよ」


 一歩。


 誘う。


「斬れるのでしょう?」


 ベルクの足が動く。


 でも。


 また。


 止まる。


 ザーファルが笑った。


「遅い」


 剣が。


 下から跳ね上がった。


 ガギィィィィン!!


「っ――!」


 衝撃。


 刹那丸が。


 ベルクの手から離れた。


 くるくると。


 宙を舞う。


 青い刀身が。


 遠くへ落ちる。


 カラン――。


 柄についた。


 小さな妖精が。


 床の上で、一度だけ跳ねた。


 音が。


 妙に大きく響いた。


 ベルクの手には。


 もう。


 何もない。


「……しまっ」


 ザーファルは。


 目の前。


 剣を振り上げていた。


「終わりです」


 刃が。


 無防備なベルクへ振り下ろされる。


「ベルク!!」


 エリオの叫びが。


 世界の耳に響いた。

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