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第39話 亡霊船長

 ギィ……


 船の奥。


 巨大な扉がゆっくりと開いた。


 霧が濃くなる。


 その奥から、影が現れる。


 鎧をまとった男だった。


 体は半透明。


 海水に濡れたような鎧が、鈍く光っている。


 その手には――


 巨大な鎖。


 錆びついた鉄の鎖が、船の奥へと繋がっていた。


 男が低く言う。


「……竜」


 その視線は


 エリオではない。


 霧の奥――


 亡霊竜へ向けられていた。


「まだ生きていたか」


 空気が凍る。


 ベルクが剣を構えた。


「船長……か」


 ルルカが小さく呟く。


「亡霊船の主ね」


 船長の目が光る。


「竜は裏切る」


 低く、重い声。


「金になると思った」


「だが最後に笑ったのはあの竜だった」


 鎖が動く。


 ギィィン。


 船長がエリオを見る。


「竜は裏切る」


 そして


 蒼刃を見る。


「……その竜もな」


 亡霊竜が鼻で笑った。


「違うね」


 エリオの頭の中に声が響く。


「こいつら」


「俺を捕まえようとしてた連中だ」


 霧の中。


 船員たちの亡霊が現れる。


 無数の影。


 ベルクが言う。


「来るぞ」


 亡霊船員が襲いかかった。


 ベルクの剣が閃く。


 だが


 刃は霧をすり抜ける。


「ちっ」


 リュカが矢を放つ。


 ルルカが光を放つ。


 亡霊が消える。


 だが次の瞬間。


 鎖が唸った。


 ドォン!


 巨大な鉄鎖がエリオへ振り下ろされる。


 亡霊竜が叫んだ。


「それやばい!」


 次の瞬間。


 霊体の竜が飛び出した。


 ドン。


 霧が散った。


 鎖が亡霊竜を貫いていた。


 エリオが叫ぶ。


「子竜!」


 亡霊竜は少し笑った。


「大丈夫」


「幽霊だから」


 しかし


 少し顔をしかめる。


「でも」


「腹立つ」


 エリオを見る。


「その剣」


「貸してくれない?」


 エリオが眉をひそめる。


「貸すって?」


「お前霊体じゃん」


 亡霊竜が言う。


「俺の居場所にする」


「ルミスって呼べ」


 エリオ


「は?」


 ルミス


「竜守り人なら」


「誠の名で共鳴できる」


 エリオ


「わけわからねぇ」


 鎖が再び動く。


 船長が迫る。


「竜は裏切る」


 エリオが叫んだ。


「ルミス!」


 ルミスが笑う。


「ああ」


「それで十分だ」


 次の瞬間。


 霊体の竜が蒼刃へ吸い込まれた。


 蒼刃が光る。


 竜の紋様が浮かぶ。


 ルミスの声。


「力借りるぞ」


 エリオが剣を振る。


 蒼い斬撃。


 空気が裂ける。


 亡霊船員が一瞬で消えた。


 船長の鎖が止まる。


 エリオが踏み込む。


 蒼刃が閃く。


 斬撃。


 船長の体が崩れた。


 霧が散る。


 船長は静かに言う。


「竜は……裏切る」


「いつか必ずな」


 蒼刃が光る。


 ルミスの声。


「違う」


「邪竜だけだ」


 船長は何も言わない。


 体が霧になり


 消えた。


 霧が晴れる。


 船が大きく揺れた。


 ミシミシミシ……


 崩れ始める。


 その時。


 頭の中に声が響く。


「なあエリオ」


 エリオがキョロキョロする。


「どこ⁉︎」


「目の前」


 蒼刃が少し光る。


 ルミスの声。


「このまま」


「エリオが望むなら」


「ここにいてもいいぞ」


 その瞬間。


 プルが叫んだ。


「おい!」


「ルミス!」


「俺のエリオ取るな!」


 全員が固まる。


 エリオ


「え?」


「プル聞こえるの?」


 プル


「うん!」


「聞こえる!」


 ルミスが言う。


「お前」


「グルの息子だろ」


 プルが目を見開く。


「なんで」


「行方不明の父ちゃん知ってるんだよ!」


 ルミスは少し黙った。


「……やっぱ、そうか」


「グルか」


「懐かしい名前だな」


「俺の先生のとこで、

 一緒に邪竜の倒し方を学んでた」


 プルが身を乗り出す。


「父ちゃんと知り合い!?」


 ルミスは少し笑った。


「知り合いっていうか――」


「無茶する男だった」


 プルが固まる。


「え?」


「……?」


 ルミスが続ける。


「お前、どことなくグルに似てるな」


 プルが胸を張る。


「仕方ないな!」


「父ちゃん探し、手伝わせてやるよ!」


 ルミス

「……何その上から」


 そして


 プルはエリオを見る。


「エリオ!」


「邪竜探しに行こうぜ!」


「父ちゃんに会えるかも!」


 エリオは少し笑った。


「お前ら……」


「面倒な相棒だな」


 ルミスの声が、蒼刃の奥で響く。


「俺はあの邪竜を倒したい」


 蒼刃が微かに熱を帯びる。


「……ま、よろしく」


 エリオは小さく息を吐いた。


「全く」


 ルルカが首をかしげる。


「何話してるかわからないけど」


「まとまったみたいね」


 船が大きく揺れる。


 崩れる。


 ベルクが言う。


「脱出だ!」


 エリオたちは海へ飛び込んだ。


 その時。


 蒼刃が小さく光った。

 

 刃の奥で、

 小さな竜がニヤッとした。


 幽霊船は


 静かに沈んでいった。

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