5.ごきげん
少しだけ夜更かしをしてしまったものの、ビスの部屋の窓から入り込んでくる気持ち良い太陽の光のおかげで、次の朝も早くに起きる事が出来ました。家族の誰よりも早く起きて、ポストを確認するというのが、《のねずみ隊》の中で流行っていることだったので、今日も誰よりも早くポストを確認出来そうな事が、ビスにとっては嬉しい事でした。まだ寝ている家族もいるので、こっそりこっそり歩いて、ポストを確認して見ると、幾つかの郵便物の他に、自分宛の手紙が二通入っていました。手紙というのは不思議なもので、いつでも直接会う事が出来る人からの手紙でも、遠くに住んでいたり、忙しかったりして、あまり会う事が出来ない人からでも、貰うと心が躍ってしまうほど嬉しい魔法のようなものがこめられています。どうしてそんな魔法がこめられているのか、花の町の大学でよく研究されているのですが、この魔法はとても複雑なもので、大まかにしか分かっていないそうです。でも、謎は謎のままのほうが、魔法の恵みを一杯受けれそうでいいなとビスは思っていました。きっと、手紙に魔法を込めた魔法使いは、とてもいい人だったのでしょう。だから、たまに不幸の手紙とかも入っていたりしても、一瞬手紙が入っていることを嬉しく思う気持ちが湧いてくるのかもしれません。そう、ビスが貰った二通の手紙は不幸の手紙ではなかったのですが、楽しい気持ちになる普通の手紙ではなくて、ちょっぴり面倒なことや、寂しい事が書いてありました。
一通目はとても短い手紙でした。
親愛なる《小ネズミ》君へ
休暇中は町であまり会わないけれど元気しているかな?
学校が始まるまで君たちのようなネズミ君たちと遊べないのは少し寂しいところもあるもんで、どら猫仲間で早く学校が始まるといいなとか言っているもんだ。
さて、突然で申し訳ないのだけれど、あまりに《木ネズミ》野郎がルーズなもんで、とても困っている。手を貸してほしい。伝えてくれるだけでいいんだ。
「俺の漫画を返せ」
悪いけれど頼む。きっと《小ネズミ》君の声なら届くと思うんだ。
《山猫》 サーバル・ペシエ
追伸
ちょっと小耳にはさんだのだけど、奴と《姫ネズミ》がつき合っているって本当?
これを見て真っ先に思った事は、クルトンってば、なんて図太い人なんだという事でした。《山猫》のサーバルと言えば、町の学校で、年の近い子達誰もがびびって道をあけるような人でした。少し上の学年に《ケンカ鳥》のお兄さんがいるのですが、サーバルは、そのお兄さんぐらい怖がられているガキ大将でした。そんな怖い友達でも、やっぱり玩具や漫画の貸し借りとかはします。ただ、皆いつも以上に借りた物を大切に保管し、絶対に汚さない、絶対に傷つけない、を必要以上に緊張しながら心がけるのですが、クルトンのすごいところは、相手が誰であろうと、そういう心配をしないということでした。よく言えば、態度を変えないということで、皆に平等なことなのですが、サーバルのものをずっと借りっぱなしというのはとても危険な事です。クルトンも、サーバルが怖くないわけではないので、いつも怯えながら借りた物を返しています。今回もそうなるのでしょう。手土産を持って、サーバルの住んでいる街中の豪邸へと謝りに行くのは、もはやビスには慣れっこの事でした。
さて、二通目の手紙はこんな内容でした。
《のねずみ隊》メンバーの皆さんへ
おはようございます。《のねずみ隊》隊長のナッツです。「おはようございます」と書きましたが、これを書いている今は夜中です。手紙の中のあいさつって面白いですよね。相手がいつ見てもいいように書かないと、となると、全部のあいさつを載せなきゃならなくなります。この手紙も、朝に見ない人がいるかもしれないので、そうしましょう。
おはようございます、こんにちは、こんばんは、《のねずみ隊》の隊長ナッツです。……これで完璧ですね。さて、昨晩の秘密基地完成パーティはとても楽しかったですね。皆集まれて本当によかったです。あんな立派な基地も出来た事だし、これからの《のねずみ隊》の活躍がとても楽しみです。
さて、そんな状況の中、急なのですが、今回お手紙を出しましたのは、《のねずみ隊》の活動欠席のお知らせです。隊長のぼくが休むなんて事は避けたかったのですが、つい先ほど、母方のおじいさんが足を追ったという電報が届きまして、家族中大騒ぎになり、お見舞いと看病のために北の町、ガラまで行かなくてはいけなくなったのです。《のねずみ隊》に参加できないのは残念ですが、やはりおじいさんも歳だし、心配なので、家族のみんなと一緒にガラまで行く事にしました。
とりあえず、今日はお休みという事にして、明日からの《のねずみ隊》の活動については、皆さんにお任せします。皆で集まるもいいし、それぞれの別活動という事にしてもいいでしょう。適当に話し合ってください。それでは、急な事で申し訳ありません。行ってまいります。
《火ネズミ》 ピスタチオ・ナッツ
町の学校は一昨日からお休みでした。ずいぶん長いお休みだったけれど、どうせ《のねずみ隊》の活動に明け暮れるうちに終わるんだろうなと思っていたので、このお知らせはなんだか拍子抜けしてしまう内容でした。ナッツ家族のおじいさんが早くよくなるといいなと思うと同時に、友達が少しの間遠くに行くのは寂しいものです。帰ってくるといってもそうなのだから、もしも遠くに引っ越すとかなってしまうと、本当に悲しいだろうなとビスは思いました。
それにしても、《のねずみ隊》の活動がお休みというのは久しぶりの事です。どうやってこの休みを過ごそうかな、と思い悩もうとしたものの、すぐにやることを思い出しました。そう、一通目の手紙の通りです。そうと決まれば、さっさと朝の支度を済ませて、ご飯を食べたらクルトンの所に行こう、そうビスは考えて、家の中に戻りました。
朝の支度を終えて、クルトンの家に向かい、クルトンにサーバルからの手紙を見せたところ、絵に描いたように、クルトンの顔は真っ青になっていきました。気の毒なほどに顔の色が変わったと思うと、雷にでも撃たれたようにいきなり家の中に飛び込んでいき、ものの数秒で漫画を抱えて出てきました。
「お願い、一緒に来て!」
涙目で訴える親友の頼みを断れるわけもなく、ビスは一緒にサーバルの住まいへと向こうことにしました。とはいえ、ビスもまた、サーバルの事は怖いと思っていたので、これからどんな未来が待っているのかを考えると、冷や冷やしてきます。前にも一緒に漫画を返しに行って、自分が怒鳴られているわけではないのに、とても怖い思いをした経験があります。仲のいい人がすぐ傍で怒られているのですから、当然かもしれません。それに、どんな状況にせよ、怒っている人がいる空間というのはとても怖いものです。
しかし、今日は《のねずみ隊》の活動もお休みなわけですから、長い休みの間、そんな怖い想い出もまたいいものかな、と自分に言い聞かせて、ビスはクルトンと共に、街中のサーバルの住まいを目指して歩き出しました。クルトンの住まいや、ビスの住まいがある地域は、花の町の街中から少し外れたところにあるので、朝の散歩としてはとても快適です。これから思いっきり怒られるわけですから、今のうちに清々しい空気をたくさん吸っておくのもいいかもしれません。
やがて街が見えてきて、朝の賑やかな光景が見えてきた頃、いよいよ二人は覚悟を決めました。サーバルの住んでいる豪邸は、街の中心部にあります。街の真ん中には派手な噴水があるのですが、その噴水から北に行った高台の一角に、どでかい門を構えた立派な家があるのです。街に入ってしまえば、すぐにその場所へと迎えるので、もう残された時間があまりありません。
しっかり怒られる準備をし終えた時、ビスは、道端に人が一人ぽつんと立っている事に気付きました。街までの一本道に、左右に広がる野原をぐるりと見渡すひょうひょうとした青年。仕草だけでそれが誰か、よく分かりました。
「あれ、あの人」
クルトンも気付き、目を凝らしてその人を見つめて言いました。その時、彼もこちらに気付き、こちらに向かって、
「おおい」
と、手を振ってきました。
昨日会った青年です。名前は確かフール。えらく機嫌がいいみたいで、大手を振ってこちらに近づいてきました。
「やあ、君達、昨日の子達だね」
「フールさんでしたね、こんにちは」
「こんにちは」
そういえば、昨日はどう過ごしたのだろう、とビスは思いましたが、たずねる前に、フールが答えてくれました。
「実はですね、昨日の夜、素敵な小屋を見つけて、その中で寝泊まり出来たんですよ」
すぐにどこの事か分かりました。念のために、
「小屋?」
と、たずね返すと、フールは笑顔で、
「そうです、木の上に立っていた小さいけれど、とても過ごしやすい立派な小屋です」
と、言ったので、間違いありません。《のねずみ隊》の秘密基地です。さっそく見ず知らずの旅人を泊めてしまったらしく、ビスもクルトンも少し複雑な気持ちになりましたが、あまりにフールの機嫌がよさそうなので、わざわざとがめたりすることは止めにしました。
「もしお暇でしたら、町の案内を頼みたいのですけれども……」
フールが窺うようにきいてきました。旅人を案内して休みを過ごすのもいいかもしれません、と思ったのですが、これから、盛大に怒られるという波乱のイベントが待っているので、そうもいきません。残念ですが、と断ろうとビスは口を開いたのですが、その口から言葉が飛び出す直前、ふと、ある事を思いつきました。怒られるというのは、たった一人よりも、たくさんの人がいる方が楽なものです。それに、知らない大人がいるところでは、サーバルも少しは加減してくれるということをビスは知っていました。
「いいですよ」
ビスがそう即答するものですから、同じく断ろうとしていたクルトンは驚きました。しかし、そんなクルトンの驚きもかえりみず、ビスは言葉をつなぎます。
「今からちょっと肝試しをした後、街を回ろうと思っていたんです」
別に利用するわけではなく、あくまでついでです。ビスはそう誰かに言い訳して、フールの申し出を受け入れました。クルトンはなんでビスが承諾したのか分からなかったのですが、ビスに考えがあるのだろうと思っていたし、何しろ、自分の怒られるイベントに付きあってくれることを申し訳なく思っていたので、何も言わずに見守っていました。
そういうわけで、ビスとクルトンと何も知らないフールの三人は、サーバルの元へと向かいました。道中、何もしらないフールだけが能天気な表情で、ビスとクルトンは重たい表情で、とぼとぼと歩いていました。
だんだんと案内する場所がサーバルの住処に近くなってくると、その温度差がさらにけんちょになってきました。しかし、引き返すなんて出来ません。冷や冷やしながら歩みを進め、とうとうサーバルの住処へとたどり着いてしまったのです。
フールはその屋敷をみた瞬間、目を丸くしました。
「いやあ、これはでかいお屋敷だ。どんなお偉いさんが住んでいるんだろう」
「ぼく達と仲のいいお友達が住んでいるんです。クルトンがモノを借りているので、返さなきゃってここに寄りました。ちょっとだけ失礼しますね。それとも一緒に来ますか?」
ビスの巧妙な言葉の罠に、フールはまんまとひっかかりました。
「ちょっとだけお邪魔してもいいですか? とても興味がある」
フールがそう返事をしたので、ビスとクルトンはすごくほっとしました。なんせ、今から始まるのは、考えるだけで手汗足汗が出てしまうほど怖い、サーバルへの漫画返却というイベントです。そこに何にも知らないお気楽なフールがいるのといないのとでは、雰囲気が全く変わります。
「じゃあ、ちょっとピンポン押しますね~」
と、軽い口調で、でも、内心びくびくしながら、ビスはサーバルのお屋敷のベルを鳴らしました。
「はい、どちらさま?」
しばらくして、出てきたのは、サーバルのお母さんでした。
サーバルのお母さんは、とても綺麗で優しそうな《白猫》です。今はもちろん、ビスもクルトンもうなずくくらいとても綺麗ですが、もっと若い頃は、《白猫》のベラ・アプリコットといえば、花の町全体でも知らない人がいない程、美人の歌い手さんだったらしいのです。サーバルやサーバルの妹のリィが生まれてからは、もう、滅多に歌わなくなりましたが、そのリィがお母さんの才能を受け継いだのか、とても美しい歌声と容姿を持って生まれてきたので、お兄ちゃんのサーバルはいつも自慢気に妹を紹介するのでした。
さて、サーバルのお母さんに、訪問した理由を言うと、サーバルのお母さんはビスとクルトンどころか、何となくついて来ただけのフールまで見惚れてしまうくらい綺麗な笑顔でぺこりと頭を下げて言いました。
「まあ、それはそれは。わざわざありがとうね。今、サーバルを呼んでくるから、ちょっと待っていてね」
サーバルのお母さんが扉を閉めて、家の中へと戻って行きました。中からはサーバルを呼んでいる声が聞こえてきます。もう一回この扉が開いた時、分かりきったことですが、そこにいるのはサーバルのお母さんではなく、サーバル本人です。いよいよ、ビスとクルトンの心臓がバクバクいいはじめました。
時間というものは不思議です。いつも平等に流れているはずなのに、こういう時だけ早く感じたり、逆に、遅く感じたりします。
ビスにとってこの瞬間は、とても長いものでした。それは、ビスが早くサーバルが出てきてほしいと思っていたからでしょう。早くこのおっかないイベントを終わらせてしまいたいという気持ちが、ビスの体感する時間の流れを遅くしているのです。
しかし、クルトンにとってこの瞬間は、呆気なく早く終わってしまいました。何故、ビスと逆になってしまったのでしょうか? それは、クルトンが、出来るだけサーバルに会う時間が遅く来ればいいのにって思っていたからです。サーバルに会うのが怖いという気持ちが、クルトンの体感する時間の流れを速くしてしまったのです。
では、フールはどうでしょう?
これも、お話を読んでいる皆さんには、分かりきった事でしょう。フールには、さっきからずっと同じ時間の流れを感じ続けています。ただ、ひとつ言えることは、もっと長くサーバルのお母さんを見ていたかったという気持ちが、さきほどのサーバルのお母さんにあっていた時間を、短くて足りないものに感じさせていたかもしれません。
さて、そんな事を言っている間に、ビスとクルトンの前で、かちゃり、と、扉が開きました。
「あ、あの、遅くなって、あの、その、……ごめんなさい!」
クルトンがぐだぐだと謝りをいれながら、借りていた漫画を出てきたばかりのサーバルにつきつけます。何百回、何千回と心の中で練習したはずの理想のやりとりは、ついに出来ないまま、クルトンが出来る全ての弁解の時間が、一瞬で終わってしまいました。ビスはびくびくしながら、サーバルを見つめていました。フールはなにも分からないので、のんびりとその様子を見学していました。
サーバルはゆっくりと、クルトンの差し出す漫画を見ると、特別に何も言わずにあっさりと受け取り、ぱらぱらと漫画をめくり始めました。しばらく、紙が磨れる音だけが、響き渡ります。その音は微かな物のはずなのに、ビスとクルトンの耳には、とても大きくてうるさいものでした。
「あ、あの……」
クルトンが申し訳なさそうにサーバルに話しかけようとした時、サーバルが細い目をクルトンに向けて、ぼそりと言いました。
「おう、今度からもっと早くなー」
ビスとクルトンは耳を疑いました。二人とも、思わず「え?」と聞き返そうとするのを飲みこむほどです。頬をつねったほうがいいのだろうか、と迷いましたが、二人ともつねるのはやめておきました。その代わり、ビスが、言いました。
「じゃ、じゃあ、この辺で、ボク達は失礼を……」
「あ、待て待て」
素早く身をひるがえしたビスとクルトンに、サーバルが短く声をかけます。速やかに帰りたい二人にとって、それは、一番受けたくない呼び止めの言葉でした。けれど、無視なんて出来るはずもありません。クルトンが出来るだけ平静を装って、サーバルに聞き返しました。
「何かな?」
サーバルは、じっとビスとクルトンを見ると、突然にやりと笑いました。すごく恐ろしい笑顔だと思ったのは、二人とも同じです。ただ、フールだけがこの場で能天気でいるわけです。今だけ代わりたいなと、クルトンは思いました。
「もしもヒマがあったら、ヒー・ポゥの店に行ってくれよ」
ビスとクルトンは、呆気に取られました。無意識のうちに予想していたさまざまな展開にも当てはまらない、よく分からない展開でした。
ヒー・ポゥの店なら、ビスもクルトンもよく知っています。むしろ、これからフールに紹介でもしようかというような店です。そこは、簡単に言うとレストランですが、夜中もやっていて、どちらかと言えば、バーみたいなところです。音楽の堪えない店で、いまは、町でも有名なピアニストの《黒猫》がいることなら、ビスも知っています。ビスとクルトンのような子どもが入っていいのかと迷う事もありますが。店のオーナーは、快く子ども達を受け入れてくれる優しいおじいさんです。
「ヒー・ポゥの店?」
「ああ、そうだ」
ビスが訊ね返すと、サーバルは笑顔のままでしっかりとうなずきます。恐ろしいくらい嬉しそうにうなずいているのですから、ただごとではないのでしょう。
どうしても気になったので、クルトンが訊ねました。
「どうして?」
すると、サーバルは、今度は照れ臭そうな表情を見せました。サーバルがこんな表情をする時を、ビスとクルトンは知っています。今回も、ピンときました。
「いやねぇ、俺の妹が、ヒー・ポゥの店の《歌姫》に抜擢されたんだよ! だから、もしよかったら、妹の歌声を聞いてやってくれよ」
なるほど、とビスとクルトンは納得しました。同時に、驚きました。
ヒー・ポゥの店の《歌姫》といえば、たしかに、サーバルとサーバルの妹リィのお母さんも過去にやっていたという話を、ビスとクルトンは聞いた事があります。けれど、それは大変名誉なことであって、その子どもで歌が上手いからというだけでなれるものでもないのです。それほど、リィの歌が上手であるという証みたいなものです。町一番といってもいいくらい、すごいことなのです。
だから、サーバルの事が怖いという気持ちも、すっかりふっとびました。むしろ、二人とも、サーバルと漫画の貸し借りをするくらい仲良くしてくれているのがありがたいくらいの心持ちです。二人は元気よく、そして、嘘いつわりのない素直な気持ちで、サーバルに答えました。
「すごいね! ホントすごいよ!」
と、クルトン。
「ボク達、ぜひ行くよ! これから、このお兄さんを――旅人さんでね、フールさんっていうのだけどね――町案内するんだ! その時に案内がてら行ってみる!」
と、興奮気味にビス。
すると、サーバルは、上機嫌になって、両手で、二人の頭をわしゃわしゃと掴みながら、フールに目をやりました。
「おおう、そうなのか! 旅人さん、ぜひ、俺の妹の歌を楽しんでくださいね。真っ白で赤いドレスを着ている娘が俺の妹なんで」
サーバルは自慢気にそう宣伝すると、
「じゃあ、漫画は確かに受け取った。町案内頑張れよな」
と、家の中へと引っ込んでいきました。ビスとクルトンは扉が閉まるやいなや、すぐにフールを連れてお屋敷の敷地外へと抜け出して、ほっと息をつきました。怒られるどころか、頭を撫でられて、緊張もすっかりほぐれて、今度は、安堵の汗が流れてきます。
「いやぁ、実にたくましい青年だったねぇ。あんなに頼りがいのある《山猫》も久しぶりに見たよ。妹さんのことが本当に好きなんだねぇ。ヒー・ポゥの店とやらもすごく気になるよ」
フールはのんきにそんな事を言います。
けれど、ビスとクルトンには好都合なことです。フールがもし、ヒー・ポゥの店に行きたくないとか言いだして、サーバルの妹のリィの歌を聞かずに今日が終わってしまうようなことがあれば、また悩みの種が増えてしまうだけです。
「じゃあ、さっそくそのヒー・ポゥの店に行きますか!」
ビスがそう言うと、フールは柔らかな安心感のある笑顔でうなずいた。
「はい、お願いします」




