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3.完成パーティ

 完成したばかりの基地の中で、《のねずみ隊》のメンバーはさっそくパーティを開きました。秘密基地は、無造作に小枝を縛り集めた小屋でしたが、一番大きなサーモンが入ってもびくともしないほどしっかりとしていて、クルトンはそれだけで舞い上がりそうになりました。ここにさらに、おとなの一人や二人が入ったとしても、この基地は壊れたりしないでしょう。クルトンは、初めて自分たちの手で作った基地がこんなにも丈夫だということが誇らしくなりました。同時に、そんなに立派な基地の完成に立ち会えなかったことを、残念に思いました。

 基地の中は広々としていて、長机まで置かれています。まず、この基地を支えている木が、しっかりしていて、とても大きいのです。だから、組み立てながらこの長机を入れ込むことが出来たのです。これを入れる時は、クルトンもいました。まったく、サーモンがいなかったらどうにもならなかったでしょう。そう思うと、おとな顔負けの力持ちのサーモンが、頼もしくて仕方ありません。

 さて、その長机に今日は色取り取りのお菓子やら、ジュースやら、ご馳走やらが載っています。クルトンはその美味しそうな光景を見るなり、もうわくわくして仕方無かったのですが、パーティの始まりは、ナッツ隊長の演説に始まりました。ナッツの話といったら、学校の校長先生の話並みに長いのです。さすがは《のねずみ隊》の《火ネズミ》と呼ばれているだけあります。一度熱して燃えあがったら、なかなか消えないと、ビスは半ば呆れ気味です。クルトンはというと、ご馳走を目の前にしてのお預けに、もう涎が滴りそうでした。しかし、何よりも、隊長の演説です。規律を重んじるラムネを、背筋をぴんと伸ばしてナッツの演説を聞いています。クルトンは我慢に我慢を重ね、お行儀よく演説を聞いていました。ところが、クルトンの隣にいるビスはというと、なんと余所を向いています。半ば所か全く聞いていないそぶりに、クルトンはちょっと憤慨しました。けれども、ビスが聞いているかどうか気にするあまり、彼もあっという間にナッツの演説に追い付けなくなっており、一人赤面しました。

 他人のことなんて言っていられないな、なんてクルトンが考えているうちに、演説は終わりました。ラムネの拍手で伝わったのです。他の《のねずみ隊》のメンバーも、ラムネの拍手にやや遅れて賛同しました。クルトンは内心それにくすりと笑いましたが、すぐに、ラムネとナッツが気付いていませんように、と祈りました。すぐに、この基地を完成するにあたって、もっともたくさん働いた力持ちのサーモンが、乾杯の音頭をとりました。その際、クルトンは自分の木の杯に酌まれたものを見て、仰天しました。

「これは、お酒かい?」

 それは、黄色くて、白い泡がぷかぷか浮いた飲み物だったのです。匂いを嗅いでみますが、甘い匂いが広がるばかりでした。匂いはさておき、見た目は大人のよく飲むあの飲み物にそっくりです。

「ううん、まさか」

 そう答えたのは、自ら皆に酌をして回る隊長のナッツでした。彼は堂々と茶色い瓶を抱えながら、今度はビスの杯にそれを注いでいます。

「でも、すっごくそれっぽいんだけど……?」

「《こどものおさけ》でしょう?」

 注いでもらった杯を片手に持ちながら、ビスが一言挟みました。クルトンとナッツの両方を冷静な目で見据えて、ちらりと杯の中の液体を見つめています。その綺麗な目が見据える通り、ナッツは見ていて気持ちいいほどしっかりと頷いて、飲み物の入った瓶を皆に見せました。茶色の瓶に黄土色のラベル。そこにはしっかりと、《こどものおさけ》と記されていました。大人達がよく美味しそうに飲んでいるお酒については、クルトンもやっぱり気になっていました。どうしてあんなに楽しそうになるんだろう? 不思議だな? と思っていました。でも、あの飲み物は、子どもは飲んじゃいけないものだと言われたので、クルトンがその謎を解き明かすことは到底先の事のはずでした。なのでますます、大人になってお酒を飲めたら、どんなに楽しい気持ちになるのかが気になっていたのです。

 そんななかの《こどものおさけ》です。

「こんなのがあるなんて知らなかったよ!」

 クルトンは驚きを隠せないまま叫びました。だって、これだったら、子どもが飲んだって構わないし、お酒を飲むという不思議も体験できてしまうのですから!

「結構美味しいんだよ。さ、これで乾杯です!」

 こうして、サーモンが乾杯の音頭を取ったというわけです。

 お酒はとても美味しいものでした。林檎の味がしたので、林檎のお酒だったのでしょう。炭酸が入っていて、口の中で小さく弾けるような味がとても素敵でした。それはまるで、この小屋を建てている時にお八つとして食べていた林檎を齧っている時のしゃりっとした感覚にも似ていて、飲めば飲むほど建てていた頃の思い出が甦ってきます。まさにここに秘密基地を立てるまでの労いとして最高のものだとクルトンは思いました。だから、秘密基地が完成した日に、皆に黙ってキャンディちゃんと映画に行ってしまった事が、本当に悪い事だったと思えてきて、飲んでいくうちに、ぽろぽろ、ぽろぽろ、気付けば涙が出てきていました。堪らなくなったクルトンは、すぐに皆に平謝り。勿論、《のねずみ隊》の皆は軽く囃しましたが、それでも、クルトンがぽろぽろ、ぽろぽろ泣くものですから、しまいには茶化したりせず、ちゃんと話を聞いて、その上でちゃんと許してあげました。

 こうして、完成パーティの雰囲気はさらに盛り上がり、《こどものおさけ》のおかげなのか、五人の乗りは最高潮。深く心に刻まれる、想い出の一ページとなりました。その大盛り上がりのざわめきの中で、ビスがこっそりクルトンに言いました。

「ちゃんと謝ったのは偉いね」

 ビスの声はいつもの通りでしたが、それでも沢山、沢山、心がこもっている事を、クルトンは知っています。

「クルトンのそういう真っ直ぐな所、すごく好きだよ。ボクは同じ事はしないと思うけど、でも、ボクだったらって考えると、たぶん、ばれなきゃいいだろうなって思っちゃう。だから、クルトンが潔く謝る事が出来るのがすごく羨ましいんだ」

 クルトンはビスがそんなに褒めてくれるなんて、とても意外でした。でも、もしかしたらこれも、この《こどものおさけ》の力なのかもしれません。どんな理由にせよ、褒められたのが素直に嬉しかったのか、クルトンが、じゃあ、と調子に乗って、ビスの杯に残った《こどものおさけ》の残りをおねだりし、あっさり断られてがっくり肩を落としているあたりを見ると、やっぱりいつものクルトンのままか、とビスは自分の杯を飲みほしながら思ったのでした。

 いつも《のねずみ隊》について力説を続ける隊長のナッツ。規則についてせかせか注意するラムネ。この秘密基地を立てるのにとても活躍した力持ちのサーモン。ラムネと何故か仲が良くて、誰よりも(と、思っているのはクルトンだけですが)規則にルーズなガム。そのガムと同じく規則にはルーズだけど、隊長のナッツぐらい熱い心を持っているクルトン。そして、そのクルトンの傍に静かに座り、冷静に《のねずみ隊》に参加している、クルトンの親友、ビス。

 この六人がこの空き地を見つけた時、ここは静かな風がいつも吹いている、とても落ち着ける場所でした。誰もがここがいい、と口をそろえる事なんて、きっと滅多にないことでしょう。だから、秘密基地を作る場所は、あっという間に決まりました。一から組み立て始めて、サーモンの力を頼りつつも、皆で頑張って力を合わせる秘密基地づくり。その作業が、ついに成果となって、今、その内部で打ち上げをしている。

 木の床を撫でてその事を一つ一つ思い出しながら、クルトンは、こっそり笑むのでした。


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