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2.のねずみ隊

 花の町の片隅、緑のじゅうたん、常春の地と呼ばれる、クルトンの住む地域からちょうど反対側に、ススキが一面に生える一帯があります。ススキだけでなく、麦類が各々に生えているので、秋になるとまるで黄金を敷きつめたかのような輝きを見せます。土ですらも金色に見えるため、そこは、黄金の眠る場所などと呼ばれていて、よその土地から来た人をよく誤解させるとか言われています。

 さて、そこは常春の地とは違って、あまり住宅がありません。ほとんど木やらススキ、麦などばかりで、静けさの中で歌を練習したい小鳥などがふらりとやってくる以外、あんまり人は訪れません。なので、空き地ばかりで、手入れもされておらず、黄金の眠る地とは名ばかりで、背丈ほども緑の雑草が伸びてしまっているところもたくさんでした。

 そんな空き地の中に、少年が数人たむろしていました。彼らこそ、《のねずみ隊》の精鋭たち。毎日集ってすることといえば、探索に、探索に、探索。つまり、探索しかしていません。町中をくまなく歩き回り、日々、新しい何かを求めている彼ら。その目的を、クルトンは、実は、分かっていません。目的など無いという説もあるくらいです。しかし、七不思議を解いたり、おとな達の知らないたくさんの事を探したりと、やることはたくさんあるので、みんな、それで満足してしまっています。隊長のナッツによれば、「《のねずみ隊》の目的、それは夢にある」そうです。夢とロマンを求めて、日々身近な旅をするということで、クルトンは、それだったら素敵じゃないかと思ったのですが、クルトンの親友であるビスは、それを聞いた途端、鼻で笑っていました。つまり、《のねずみ隊》の活動目的は、人それぞれなのです。そんな感じで不透明なまま、《のねずみ隊》は集い、毎日毎日活動しているわけです。規律まで守って。そうしてついに、秘密基地まで手に入れてしまったのです。

 空き地の中にて、伸びに伸びた雑草に囲まれながら、三人の《のねずみ隊》員の少年たちが、一人を囲んで立ちすくんでいました。

「十三……十二……」

 彼らは数を数えています。中央に立つ、眼鏡をかけた細身の少年ネズミが持っている懐中時計。それを見つめているのです。

「八……七……」

 皆、真剣に針を見つめています。ぼそり、ぼそりと数を唱えて、ぎらぎらと目を光らせて時計を見つめています。

「六……五……四」

 段々となくなっていくカウントダウンに、皆が息を呑みました。

「さ――」

「こんちわ!」

 カウントダウンが阻まれました。クルトンです。クルトンが息をぜいぜい言わせながらどうにか辿り着きました。

「遅い」

 すぐにカウントダウンしていた三人が噛みつきましたが、クルトンはお茶を濁すように笑うと、悪びれた様子もなく言います。

「でも、ほら、時間には遅れてないしさ」

 しかし、いくらクルトンが笑っても、懐中時計を持った眼鏡の少年ネズミはとても怒った顔をしています。彼の名は、ラムネ。《のねずみ隊》で一番、規律を重んじる少年で、自分はもちろん、他の隊員の規律を乱す行動を毛嫌いしています。彼が睨むからには、クルトンも何か規律を乱したようです。

「《のねずみ隊》の鉄則その一!」

 ラムネが威勢よくクルトンにふりました。なるほど、クルトンはそうふられてやっと、自分のなにがいけなかったのかを知りました。クルトンは咳払いをしました。

「約束の五分前には来られたし」

 平然とそう答えたので、ラムネの隣にいる、がたいのいい少年に苦笑いされてしまいました。彼の名は、サーモン。そう、ビスの手紙にあったように、この秘密基地を作れたのも、半分以上は彼のおかげです。そういえば、ビスはどこだろう、と、クルトンが見渡そうとすると、サーモンが言いました。

「これでブラックシール贈呈だな」

 クルトンの表情が苦いものになりました。

 ブラックシールとは、集めたら何か起こるという点では、商店街のシールやポイントによく似ていますが、起こる事の種類が違います。商店街では、思わず人が(とくに、おとなが)嬉しくなってしまうおまけ付きですが、こちらは違います。分かりやすく例えてみると、ブラックシールというのは、無理やり作らされたお手伝い券や、肩たたき券によく似ています。七つ集めると願いがかなうのではなくて、七つ集めると不幸になる、そんなある意味で魔法のアイテムです。ついこの間は、ラムネを挟んでサーモンと反対側にて、他人事のように笑っている少年、ガムが不幸にも三つ集めてしまいました。

「ちぇ、ちぇ、分かったよ。貰えばいいんでしょ!」

 クルトンはふてくされたように言うと、服のポケットからカードを取り出しました。これは、《のねずみ隊員証》といって、身分証明書のようなものです。《のねずみ隊》の隊員しか持つ事が許されないもので、テレビなんかでやっている人気ドラマの捜査官が持っているものによく似ています。作ったのは、隊長のナッツと、クルトンの親友ビスですが、こんな上等なカードをくれたのは、花の町の文房具屋のおじさんでした。花の町の人たちはとても礼儀正しく、とても親切なので、クルトンたち《のねずみ隊》のことをちゃんと認めていて、この《のねずみ隊員証》を学生証のように扱ってくれるのです。カードの表には、隊員の基本的なデータが書き込まれていますが、裏返すと、七つの円が描かれています。これは、シールを貼る場所です。今、クルトンのカードにはブラックシールが貼られましたが、シールには二種類あって、他にホワイトシールというものもあるのです。こちらは、隊員が、《のねずみ隊》に貢献したときに贈呈されるいいシールで、こちらこそは、七つ集めると良いことが起きます。ホワイトシールとブラックシールは、七つジグザグに並んだ円の両端から対抗するように貼られていき、互いを打ち消すことができます。二つがぶつかった後にいいことをすれば、ブラックシールの上にホワイトシールを貼ることができますし、その後にわるいことをしてしまえば、せっかくホワイトシールになった場所の上に、またブラックシールが貼られることになるのです。だから、ブラックシールがだんだん集まってきてしまった隊員は、率先して皆の集まる部屋の掃除をしたり、町のごみ拾いをしたり、町の人々のお手伝いをしたりして、いい噂を流して貰おうと必死です。だから、町の人たちは、《のねずみ隊》を快く思っているのかもしれません。

 それはそうと、ブラックシールをばっちり貼って貰ったクルトンは、皆に深く頭を下げました。ここで謝っとかないわけもありません。

「うーん、悪かった、ホント御免なさい」

 ところで、クルトンのカードの裏には、ブラックシールが二つ貼られている他に、ホワイトシールが一つ貼られています。これは、前にも遅刻してブラックシールを貰ってしまった後に、慌てふためいて、早起きし、一週間、町の噴水の掃除を続けたことで貰ったホワイトシールです。またなにか、いいことをしなければ、とクルトンはぼんやりと思いました。そこへ、クルトン達のすぐ傍、秘密基地を作った木の上から、声がかかりました。さっと上を見ると、完成したばかりの基地の入口に、二人の少年がいました。一人はナッツ。《のねずみ隊》の隊長である、かしこくて、たくましくて、やさしいネズミです。

「クルトンも反省しているし、勘弁してあげて」

 爽やかにそう声をかけたのは、ナッツではなく、その隣にいる少年でした。クルトンの秘密を全部知っていて、含み笑いをしながら見下ろしてくる、クルトンの大親友。《小ネズミ》の、ビス。名前の通り、結構小柄です。

「うーん、遅刻はシール二枚だった気がするんだけど、ビスもそう言ってるし、一応間に合ってはいるし、許してやるか」

 サーモンが腕を組み、ラムネの様子をうかがいました。ラムネは少々渋い顔をしましたが、すぐに笑みを作ると、クルトンの肩を叩いて、言いました。

「いい親友がいてよかったじゃないか。ビスに感謝しろよ」

 ラムネにそう言われ、クルトンは心底安心しました。隊長はナッツですが、規律違反を取り締まるのは、いつからなったのか、ラムネの仕事なのです。だから、ラムネがそう言うのならば、もう一つ多くブラックシールを貰ってしまう心配は、もうありません。

「ほら、早く始めちゃいましょう。ケーキがぱさぱさになっちゃう」

 ナッツの言葉に、クルトンはさっそくお腹が空いてきました。

 小風が吹くと、小枝がゆさゆさと揺れて、ナッツとビスの後ろに、微かに完成したばかりの秘密基地が見えました。はしごを登りながら、クルトンは今から食べる御馳走を思い浮かべて、わくわくしていました。


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