24.温かな風
クルトンは珍しく早起きしました。
小鳥たちのさえずり声と、朝の薄い寒さが、彼のよき睡眠を邪魔したからです。仕方なく彼は伸びをして、家族に朝の挨拶を告げに行きました。けれど、家族すらもまだ起きていないということを知って、とてもささいな優越感に浸りました。クルトンはポストへと向かいました。もしかしたら、郵便すらまだ届いていないんじゃないかと心配しましたが、郵便屋さんはクルトン達よりも遥かに早起きだったようで、ぎっしりつまっていました。
その中で、クルトンは手紙を見つけたのです。
《のねずみ隊》メンバーの皆さんへ
おはようございます。《のねずみ隊》隊長のナッツです。「おはようございます」と書きましたが、これを書いている今は昼間です。前も書きましたが、手紙の中のあいさつって面白いですよね。相手がいつ見てもいいように書かないと、となると、全部のあいさつを載せなきゃならなくなります。この手紙ももしかしたら、朝に見ない人がいるかもしれない人もいるかもしれませんので、今回もこうします。
おはようございます、こんにちは、こんばんは、《のねずみ隊》の隊長ナッツです。……これで今回も完璧ですね。さて、まずは長い間の不在をお詫びさせてください。おじいさんは大丈夫です。家族のみんなとガラでおじいちゃん孝行をしないとだねって話になって、のんびりガラ観光なんかをしていました。お土産もあるので、今度の集会の時に持っていきます。その時に、僕が不在だった間のことを教えていただければと思います。
帰還はこの手紙を書いている日の明日なので、順調についたとして、この手紙が届く三日後くらいにはボクも戻っていると思います。ボクの計算が正しければですが……。
ともかく、長く休んでしまってごめんなさい。また皆で活動できることを楽しみにしています。それでは、花の町で会いましょう。
《火ネズミ》 ピスタチオ・ナッツ
クルトンは目をぱちくりとさせてこの手紙を見ました。そうです、《のねずみ》隊には集会があるのです。今の今まで忘れていたことに気付いて、クルトンは恥ずかしくなりました。それにしても、とクルトンは疑問に思いました。ここ数日の花の町の騒動は、ガラの町には知られていないのでしょうか。本当に、ナッツは知らないようです。帰ってきてびっくりするでしょうし、傷つくしょう。そう思うと、クルトンはとても可哀そうな気持ちになりました。
しかし、クルトンはその後、家族とご飯を食べていて、驚きました。
「星が落ちる? なにそれ」
最初に言い出したのは、クルトンの姉でした。家族の誰もが触れないから、耐えきれなくなって自分から切りだした結果が、この状況です。クルトンの姉は馬鹿にするようにクルトンに問い返し、頬杖をつきました。
「あんた、そんなことばっかり言ってると、おとなになれないわよ」
「星が落ちるか……なかなか面白い空想だね」
そう呟いたのは、クルトンのお父さんでした。
「みんな、忘れちゃったの? 星が落ちるってあんなに騒いだのに……」
「そんな話、後でいいから、早くご飯を食べなさい」
そうお母さんに怒られて、クルトンは戸惑いながらご飯を食べたのでした。
昼になってクルトンは街へと出ました。そして、驚きました。人通りがとても多いのです。そして、街並みの全てが美しいのです。それは、クルトンがかつて知っていたそのものの風景でした。けれど、今のクルトンからしたら、非常に美しく、非常に洗練されていて、非常に整った、完璧なものでした。まるで、夢の世界に迷い込んだような、幻想のような理想的な世界が、そこに広がっていたのです。
クルトンは広場を歩いて行って、噴水の傍に、それを見つけました。
「さあ、よい子も悪い子もよっといで」
語っているのは、いつもの奇術師、《道化イタチ》のサバレイの通る声。だけど、少し前の彼の声とは、何かが違いました。クルトンはその何かがとても気になって、何度も何度も考え続けました。そして、考えた結果、お腹が空いて、また家へと戻ったのです。
家に戻る間も、クルトンにとって美しすぎる世界が、広がっていました。
そして、家のポストを開けた時に見つけたもので、その美しさも、クルトンの見ていた夢も、すべてが本物であることを確信したのです。
それは、ビスからの手紙でした。




