22.目撃した少女
フールはこの世の終わりを迎えてしまったかのような町を走っていました。手に持っているのは、赤い花です。しかし、ただの花ではありません。月見丘で幽霊から授かった花でした。その赤色は、真っ暗な町の中で浮き上がる様に光っていて、見る者に気味の悪さと色っぽさを同時に与えてくるような、そんな妖艶さがありました。
フールはどこへ行けばいいかを知らずに走っていました。ただ、この町の中にこの花を持って来なくてはならないということだけを頭に入れていたからです。だから、人気のない町中の向こう側から、ひとりの少女が助けを求めるように走ってきた時に、ためらわずに立ち止まることができたのです。
フールめがけて走ってきたのは、野ネズミの少女でした。
「た、た、たたた旅人さん! た、たいへん、たたた助けて!」
少女の慌てぶりは尋常じゃありません。フールにもその慌てぶりが伝染しそうになりそうなくらい、少女は慌てていましたが、フールは、まずはゆっくりと深呼吸してから、少女に落ち着いた口調で声をかけました。
「どうしたんだい? ゆっくり話してごらん。君は誰?」
「あ、あたしは、キャンディ! 《姫ネズミ》のキャンディ・ロ・リポップ。ビスとクルトン達のともだちなの!」
少女はキャンディちゃんでした。彼女は旅人のフールがビスやクルトンと親しいことを知っていたのです。名乗ることが出来て、キャンディちゃんは少し落ち着いたようでした。そして、フールがもう一度訊ねる前に、自分から話しだしたのです。
「一緒に来て! とにかく一緒に来てちょうだい! 来てくれたら一発で分かるから!」
「来てって、どこにだい?」
「壊れた塔よ!」
「壊れた塔ってどこなんだい?」
フールは壊れた塔のことはまだ知りませんでした。奇術師のサバレイの人形劇よりも、ヒー・ポゥの店のリィの歌のことしか頭になかったからです。花の町の子どもなら誰でも知っている壊れた塔でしたが、旅人のおとながそれを知らないということに気付いて、キャンディちゃんは力強い溜め息をついてしまいました。
「ともかく来てちょうだい!」
叫ぶようなキャンディちゃんの声に、フールは従うほかありません。野ネズミとは思えないほどの力で引っ張られて、フールはキャンディちゃんの後を追う事となったのです。




