19.夜空
空を埋め尽くす星達は煌々と輝き、花の町の全ての人々を見下ろすように暗い空を彩っています。ビスはその夜空を見上げていました。頭に浮かんで離れないのは、昼間、花の町の広場でコスモス爺さんが話した言葉です。
――今夜、星を眺めてみるといい。
あの後、いつも通り昼食を食べて、いつも通りクルトンと散歩し、いつも通り夕食を食べたビスでしたが、夜になって、星達が顔を出しておしゃべりを始めた途端、急に、朝見たコスモス爺さんの姿を思い出し、ふと夜空を見上げに散歩に出たのでした。
いつもは広大で真っ青で深海のような青の夜空のその片隅を、赤くて美しい渦のような光が侵食し始めています。
どうして、どうしてこれにこんなにも気に留めなかったのだろう。そうビスは疑問に思いました。それくらい、空の赤い痣は、非常に目立つ存在だったのです。そして、うっとりするくらい美しかったのです。自然と涙が出るくらい美しかったのです。
ビスは夜空を見上げ続けて思いました。
――もうすぐ、あの星が落ちてくる。
そうなれば、この花の町がどうなるかってことぐらい、皆さんもお分かりいただけますでしょう。ビスもまたそんな恐怖を感じていました。けれど、その恐怖すらも超えた美しさが、空に瞬いているのです。
メドサ。そうコスモス爺さんは呼んでいました。女神のような名前を持つその星は、まさに生きている女性のようでした。今までビスは、星のひとつひとつに意識があるだとか、心があるだとかを真面目に考えたことはありませんでした。しかし、こうしてメドサに心を奪われてみると、今まで考えなかったことが恥ずかしいくらい、彼女は生き生きと空の青を侵食しているのです。
ビスはこの世の終わりを前に、涙を流しました。
けれど、その涙は、自分の死への涙ではなく、また、恐怖の涙でもなく、ただの感動でした。本当に美しいものを初めて味わった時の、感動の涙でした。




