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15.歌の謎

「なるほど、そんな事が行われていたのですか」

 昼過ぎのこと。朝っぱらに《のねずみ隊》の秘密基地の下で繰り広げられた出来事を聴いて、フールは他人事のようにそう言いました。ビスとクルトンはその能天気な声に、やれやれ、と呆れましたが、リィのおかげで能天気なままでいられる展開となったことを感謝しました。

 そして、ふとビスは疑問に思ったので、フールに訊ねました。

「ところで、今日はお仕事しないの?」

「お仕事?」

 フールに訊ね返されたので、ややおずおずとなりながらも、ビスは答えました。

「いつも手帳に書き込んでいる、あれです」

「ああ、調べものですね?」

 フールは納得したような笑顔を見せると、ひょいっとマントから手帳を取り出しました。いつも何かを書き込んでいるあの手帳です。フールはその手帳をぱらぱらと開いて、とあるページで止めて、ビスとクルトンに見せました。

 そのページには何やら文字列が書かれていました。でも、それだけでは、ビスにもクルトンにも何なのかさっぱり分かりません。ビスとクルトンのすがるような目線に、フールは自ずと口を開きました。

「これは、リィさんがよく歌っていたという歌から導き出した文字列なんです」

「リィの歌?」

 ビスもクルトンも同時にそう聞き返しました。どう見ても、これが歌の詩がもとになっているとは思えません。しかし、フールの自信たっぷりな態度に、ただただ説明を待つばかりでした。

「ええ、リィさんがよく歌うという五つの歌、『竜の歌』、『洞の泉』、『日照りの歌』、『めぐむ』、『ノロの者』から導き出した文字列なんです。こうやって、歌の詩を節ごとに並べて」

 と、フールは手帳のページを変えて、それぞれの歌の詩が書いてあるページをビスとクルトンに見せながら説明しました。

「節の頭の文字だけを抜き出したものが、この文字列達です」

 ビスとクルトンは、手帳を覗きこみました。一杯書き込んでいて、何が何だかわかりません。そこで、ビスは試しに、『ノロの者』とメモされた文字列を見てみる事にしました。ノ、ワ、ロ、タ、イ、リ、ノ、シ、ツ、ト、エ、キ、ガ……。何が何だか、やっぱり分かりませんでした。

 きょとんとしている二人を見て、くっくと笑いながらフールはさらに説明し始めました。

「このままだと、意味のない文字列ですね。でも、この歌、実は共通点がありまして、『世の行く末を知りたい者、交差する道を選べ』っていう「ことわり」が記された石像にまつわる話なのですが……」

 その石像なら、ビスもクルトンも知っていました。花の町の隅の公園にひっそりと建っている巨人の像です。あまり遊具もなく、違うグループの子ども達の縄張りなのであまり行かない場所なのですが、石像のことはよく知っていました。

「歌を聞いてから、この町に伝わる話や歴史をいっぱい調べましてね、それで、ぴんときたのですよ」

 そう言って、フールは手帳のページをめくりました。

「こうして」

 と、また文字列が書かれたページが現れます。

「それぞれの歌から抜きだした文字を、交差させてみると」

 ビスとクルトンは、そこに書かれている文字を見つめ、はっとしました。そこには、こう書かれていたのです。


「ノロの者」:ノ、ロ、イ、ノ、ツ、エ、ガ、ワ、タ、リ、シ、ト、キ

「洞の泉」:ホ、シ、ノ、ラ、ツ、カ、ウ、ナ、ガ、サ、レ

「竜の歌」:ヨ、ノ、オ、ワ、ル、ト、キ、シ、ノ、ビ、ヨ、リ、テ

「日照りの歌」:ヨ、ノ、オ、ワ、リ、ト、メ、ル、ノ、ハ

めぐむ」:オ、カ、ノ、モ、ノ、ヒ、カ、リ、ノ、モ、ノ


 ――呪いの杖が渡りし時、星の落下促され、世の終わる時忍びよりて、世の終わり止めるのは、丘の者、光の者。

「なんですか、これ」

 ビスは震えあがりました。その文章を読んだ瞬間、全身の毛がよだつようなぞっとした感覚に包まれたからです。まるで、自分のようなちっぽけな存在が知るには大きすぎることを知ってしまったかのような感覚。ビスはそっとクルトンの手を握りました。

「この五つの歌は、実は、作者が同じなんです」

 フールは手帳を閉じて、じっとビスとクルトンを見つめて言いました。

「昔、この町が巨大な王国の一部だったことは、もう習いましたか?」

 フールに問われ、ビスとクルトンは、学校の歴史の授業を思い出しました。

 今でこそ、平和な花の町ですが、その昔、ここは巨大な王国の一部で、雄大なその国は次々に領土を広げ、きちんと土地を管理するために厳しい掟が定められていたという歴史があります。ビスとクルトンどころか、彼らのおじいさんおばあさんが生まれるよりもずっと前の話です。そんな昔の事を、突然旅人に問われて多少戸惑いましたが、ビスもクルトンもどうにか肯きました。

「この歌が作られたのは、その時代です。この作者はもっともっとたくさんの歌を残していたようですが、もうこの五曲しか残っていなかったようです」

「なんで?」

 クルトンが訊ねると、フールはまるで自分の身に起こったことのように悲しげな表情を見せて、答えました。

「燃やされてしまったからです。この作者は、偉大な預言者でした。けれど、その思想は当時の国王が放っておけないようなもので、やがて、彼は危険思想の持ち主として拘束されて、彼の作ったモノはことごとく破棄されました」

「危険思想?」

「この歌たちの作者は、『国王も民衆も同じ魂を分け合ったきょうだいであり、死後は皆平等である』という思想を持っていたのです」

「それのどこが危険なの?」

 ビスは疑問に思いました。自分の作ったモノが勝手に壊されてしまうほど危険な思想って何なのかが気になったからです。それに、ビスにとって、その歌の作者の思想は、当り前の事でした。しかし、フールは何故か苦笑いを浮かべ、ビスの頭をぽんと撫でました。

「それは、もっと大きくなったら分かる時が来ますよ」

 そして、さっと表情を変えて、話を続けました。

「つまり、この文は、預言者の残した文です。それを何故か、リィさんと《黒猫》さんは自然に選び出して、毎日のように奏で続けているのです」

 確かにそれは、ビスにとってもクルトンにとっても不思議な話でした。そして、とても不気味で不安な話でした。この文が予言だとすれば、何が起こるか想像できるからです。なんせ、文には星が落ちるとはっきりと書かれているのですから。

「……本当に、星が落ちるの?」

 クルトンがわなわなとふるえながら呟きました。フールは静かに、ゆっくりと首を横に振り、答えます。

「私には分かりません。ただ、もしそうだとしたら、この文に書かれている「丘の者」、「光の者」を探さなくてはと考えています」

 フールは溜め息混じりにそう言うと、《のねずみ隊》の秘密基地の窓の外を見つめました。今朝はこの窓に小石が投げられたのです。その傷が少しだけ、窓枠についていました。

「私は、この地方に訪れる度に、この町を訪ねていました。この町の自然が、今はもう山火事で消えてしまった故郷によく似ているからです」

 哀愁漂う彼の表情に、ビスとクルトンは口籠ります。フールはしばし俯き、何かをぐっと堪えるように深呼吸すると、続けました。

「……だから、この町が危機に瀕しているのなら、救いたい。そう思うんです」

 そのフールの口調の確かさが、ビスとクルトンの心に残りました。


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