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14.疑惑の旅人

 月見丘にて奇妙なものを見たせいで、ビスもクルトンも夜道が怖くなってしまったため、その日は《のねずみ隊》の秘密基地に戻って、せめてフールと同じ場所で夜を明かす事に決めました。もともと、この基地は《のねずみ隊》のものですので、フールには拒否する権利などありません。しかし、フールは心配そうに、二人に訊ねました。

「家の人は心配しないのですか?」

 二人は悩みました。けれど、夜道を見ていると、あの踊っていたサルか何かを思い出して、とても怖くなってきます。その怖さと家の人に怒られる事とを比べたら、断然、怒られる方がマシです。それに、明日の朝早く帰って、夜道で危険だったから安全な場所に友達と一緒にいたと伝えればいいだけです。

 なので、二人は安心して眠りに着くことが出来ました。

 さて、その翌朝、ビスは奇妙な物音で目を覚ました。こつん、と何かを小突くような音です。小鳥が木の実を割ろうとして固い地面に落としている時に音にも似ていますし、何か軽くて固いものを地面に落した時の音にも似ています。ノックではないと気付いたのは、物音がどこか無機質的なものだと感じたからです。

 もう一度、こつんと音がしたので、ビスは起きあがって窓へと近づきました。まだクルトンも寝ています。フールもまた、テーブルの上で作業したままの状態で眠りこけていました。ビスは二人を起こさないように、そっと窓から外を眺めてみました。そして、はっきりと目が覚めるくらい驚愕しました。

「え?」

 思わず声をあげてしまったので、クルトンもフールも目を覚ましてしまいました。けれど、ビスはそんなことにも構っていられないほど、信じられない光景を目の当たりにしていました。ビスの覗く窓には、さっきからこつん、こつん、と、小石が当たってくるのです。それも、そのうち窓ガラスを割ってしまうんじゃないかというくらいの強さで、当たったらたんこぶでは済まなそうなほどの小石が、今も投げられてきています。

「どうしたの?」

 クルトンがビスの傍により、共に窓から外を見降ろします。そして、ビスと同じく、その光景に固まってしまいました。クルトンが固まってしまったことで、ビスの意識は、はっと目が覚めました。そして、ビスは、クルトンを振り返り、言いました。

「フール、中にいてください。絶対に、外には出ないで」

 そうして、固まったままの相棒を揺さ振って、ビスは言いました。

「とにかく、下に降りてみよう」

 ビスの提案に、クルトンは何度も頷いて、震えあがりました。

 そうして、二人が《のねずみ隊》の基地の梯子を降りた先で出会ったもの。それは、確かに花の町に住んでいる大勢の人々でした。ビスとクルトンも知っている顔もあれば、よく知らない顔もあります。でも、彼らが皆、花の町の人々であることは確かでした。

 何故なら、先頭にいたのは、お揃いの立派な制服を身に付けている、警察の人々だったからです。降りてきたビスとクルトンをまっさきに出迎えたのは、かの正義感の強い《雪狼》のお姉さん、フレイズ・ベリーでした。

「君達に危害を加えるつもりはない」

 フレイズ・ベリーは強い口調でそう言いました。

 その迫力たるや、どんな人も彼女の前では隠し事一つ出来ないほどです。少なくとも、ビスとクルトンは、お菓子を盗み食いした事や、宿題を流行っているカードゲームのレアカード一枚で頭のいい子にやらせてしまったことなど、各々の罪を今すぐに吐き出してしまいたいくらいでした。しかし、フレイズ・ベリーがそんなことを望んでいないことは、しっかり分かっています。

「君達の立派な《お屋敷》に住みこんでいる男に話を伺いたいんだけれどね……」

 その矛先が、フールに向いていることが、はっきりとしました。ビスとクルトンの顔に嫌な汗が浮かんできます。彼らがどういう理由で、どんな話を、フールに聞きたいのか、問い質してからじゃないと、フールを引き合わせる気にもなりません。しかし、あまりに躊躇えば、彼らを下手に刺激することになって、ビスとクルトンまで酷い目に遭わされるのではないかという奇妙な不安が湧きおこってきたのです。

 ビスは落ち着いて深呼吸してから、フレイズ・ベリーを始めとするここに集まっている人達すべてに問いました。

「ひとつ、聞いてもいいですか?」

 フレイズ・ベリーの無言の肯きに、ビスはほっとして続けました。

「皆さん、何の用事があって、ここに来たんですか?」

「それはもう言っただろう?」

 野次を飛ばすようにそう即答したのは、《たてがみイノシシ》のおじさんだった。彼のことはいままで知らなかったビスでしたが、彼が血の気の多いことは今の一瞬で分かりました。《たてがみイノシシ》のおじさんも、フレイズ・ベリーと同じ制服を着ています。彼も警察なのでしょう。

「俺達は、数日前からこの町へやってきたという男に問い質しに来たんだ」

「どうしてですか? 何を問い質すんですか?」

 ビスは負けじと訊ね返しました。ここで引き下がっては、後悔するような気がしたからです。

「彼が来てからなのよ」

 答えたのは、《赤ヤマアラシ》のおばさんでした。一般市民のようだけれど、限りなく警察に賛同しているのはこの場に来ていることからもよくわかりました。

「この町がおかしくなったのは!」

「そうだ」

 と、《赤ヤマアラシ》のおばさんに賛同するような声が飛び交いました。

「とにかく、彼を出してくれ。彼に問い質したいんだ」

「だから、何を問い質すんですか?」

 フレイズ・ベリーの鋭い視線に負けないように、必死になってビスは訊ね続けました。

 彼らが町の異変とフールとをこじつけていることは分かりました。ビスもクルトンも、フールが何者かなんて深くは知らないし、この町の異変に関与しているかどうかなんて知る由もありません。けれど、ビスもクルトンも、この場に限っては、この人達にフールを引き渡してはいけないような気がしました。それくらい、彼らは、理性を失っているようにみえたのです。

「いいから、彼を出しなさい」

 フレイズ・ベリーがついに吠えました。狼の唸り声は、小さなネズミにとってはとても怖いものです。けれど、そんな怖さにも負けてはいけないと、ビスとクルトンは必死に耐えて、首を横に振り続けました。その時です。

「もうやめて」

 透き通るような声が、その場の問答を伐り裂いていきました。

 ビスとクルトンは、その声が誰のものなのかすぐに分かりました。地声でさえも聞く者をうっとりとさせるようなその声。ちょっとでも歌えば、この場にいる者の荒ぶった心を落ち着かせるくらいの力はあるでしょう。

「なんの根拠もないくせに、こんなことして何になるの?」

 それは、ヒー・ポゥの店の《歌姫》リィでした。

 フレイズ・ベリーは、思わぬリィの登場に少し勢いを削がれたらしく、苦笑いを浮かべてリィを見つめて言いました。

「その根拠を探すために、質問をしたいのだよ」

「でも、こんなのおかしい」

 リィがあまりに悲しそうに言うものですから、集まった群衆の中には、罪悪感を覚えてしまったのか、困ったような表情で辺りを見渡し始める者も現れました。リィはじっとフレイズ・ベリーを見つめて、なおも言い続けました。

「もう少し調べてからにしたっていいじゃない。じゃないと、まるで、何にも知らない旅人さんを晒し上げているようよ」

「別に、そんなつもりじゃないんだが……」

 悲しそうなリィの声に、すっかりこの場は持っていかれてしまいました。フレイズ・ベリーは面倒くさそうに頭をかくと、短く溜め息をつき、真っ白な尾をひるがえして、一人だけ先にその場を後にしました。しばらく歩いてちらっと振り返ると、フレイズ・ベリーは同じ警察の人達を見やりました。

「もうちょっとだけ証拠を集めて考えてみる。あたしは署に戻るよ」

 そう言って、フレイズ・ベリーはさっさと帰っていきました。

 フレイズ・ベリーの離脱で、この場の空気は一気に醒めていきました。その上、リィの甘い声がかぶさっているのです。さっきまで好戦的だった人々の勢いはどこへやら、少しずつ、少しずつ、町の人々は家へと帰って行きました。

 リィはその様子をじっと見つめると、ほっと溜め息を吐いて、とぼとぼと帰って行きました。ビスとクルトンは、まださっきまでの空気にあてられていて、リィの白い背中をぼうっと見送る事しかできません。

 はっと二人が我に返った時には、もう半数以上が家に帰った後でした。


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