10.旅人のいる秘密基地
キャンディちゃん一家の花壇が踏み荒らされたその日、ビスとクルトンは二人で話し合って、とりあえず、秘密基地に集まると言う事だけを決めて、ケンカまっただ中のラムネとガム、そして、何故か、キャンディちゃん一家の花壇を踏み荒らした疑いをかけられているサーモンに、それぞれ手紙を書きました。内容はもちろん、《のねずみ隊》の活動に関しての事だけです。
けれど、時間になっても集まったのは、やはり、ビスとクルトンだけでした。
「はあ、どうしてこんなことになっちゃったんだろう」
クルトンが肩を落として言いました。
《のねずみ隊》の秘密基地の広さはたった二人には広すぎます。といっても、今は、フールも居座っていて三人です。彼は、自分が無銭で寝泊まりしているのがビスとクルトン達の敷地だと知り、驚きましたが、それでもなかなか図々しい態度で居座り続けています。これも、旅人としては、ないよりもあった方がいいスキルなのかもしれない、と、ビスはぼんやりと考えながら、秘密基地の真ん中に座っていました。
フールは、おとなです。ネズミでもありません。だから、ネズミ用に作ったこの秘密基地は小さめになっているはずなのですが、それでも、まだまだフールくらいの大きさのおとなが一人はいれるくらいのスペースはありました。
それだけ長い時間かけて作った証拠です。
そんな立派な小屋に、隊長不在とはいえ、まったく集まれないどころか、トラブルだらけになってしまっているのです。ビスもクルトンも、溜め息が絶えません。
「あんまり、溜め息をしてしまうと、幸せが逃げていきますよ」
テーブルについて、手帳に何やら書き込んでいるフールが、同時に溜め息を吐いたビスとクルトンに言いました。
クルトンは、少し首を傾げて、フールに訊ねました。
「フールは何をしているの?」
「私ですか?」
フールは眉をあげ、作業を止めて、ビスとクルトンに向き直りました。
「ちょうどいいです。ひとつ旅人の話でも聞きますか?」
「何か聞かせてくれるんですか?」
ビスは少し身を乗り出しました。いやなこと続きで退屈していた所です。それに、旅人の話なんてそうそう聞けるものでもありません。ビスはわくわくしながらフールの反応を待ちました。フールはそんなビスを見て、笑みを浮かべました。自分の話をわくわくしながら聞いてくれる人がいると、話し手も嬉しいものなのです。
フールは旅人用のバッグから、大きな紙を引っ張り出すと、テーブルの上にそれをひろげました。
「では、今、私が何をしていたのか、についてお話します」
フールはそう言うと、鉛筆を手に取り、テーブルの上に広げた紙の右端に、印をつけました。ビスとクルトンは、その紙をよく見て、気付きました。それは、地図でした。花の町周辺だけでなく、その他の遠い町の位置も分かる、大きな地図です。
「今、印をつけた場所が花の町の場所です」
大きな紙の右端にぽつんと書かれた星の印。こうして見てみると、ビスにとっての花の町も、クルトンにとっての花の町も、世界にとってみれば、ものすごくちっぽけなものになってしまうのだなと、二人ともが思ってしまう程、消え入りそうな小ささでした。
フールはさらに、花の町の周辺に、ぽつん、ぽつんと星の印をいくつか書いていきました。水の町、猫の町、雨の町、夢の町、それらは、フールが説明しなくても、普段、花の町の学校に通うビスとクルトンならば、知っている町ばかりでした。
フールは周辺の町々の場所に印をつけきると、今度は、その星の印を線で繋ぎ始めました。
「何をしているんです?」
ビスの問いに、フールは笑みを浮かべただけで何も答えません。しかし、すぐに答えは出ました。フールが星の印をすべて線でつなぎ合わせてしまうと、ビスとクルトンにもそれがはっきりと見えてきたのです。
「これは……なんだろう?」
ですが、ビスにも、クルトンにも、それが何なのかは分かりませんでした。たしかに、存在していて、たしかに何かを模っているのは分かる。そして、それが、とても身近であるのに、いつも忘れてしまうようなものであることも、分かりました。
フールはビスとクルトンの顔を見ると、やっと口を開きました。
「この町に来て、気付いた。前にもここへ来た事があるって、言いましたっけ? その時には、〈これ〉は、あった。けれど、今回来てみたら、なくなっている。だから、妙な気配がしていたんです。でも、リィさんの歌を聞いていたら、分かってしまった。だから、私は、リィさんの歌を必死に読み解いていたところだったんです」
非常に残念なことに、フールの言葉は、ビスとクルトンにとって、何もかもが分からないようなことでした。理解しようと頭を働かせても、何を言っているのか意味が分からないのです。ただ、いくつか分かったことがあります。地図に現れたこの〈なにか〉の形と、リィの歌っている歌に関係があって、それにフールが興味を持っていると言う事です。
「フールは明日もヒー・ポゥの店に行くんですか?」
ビスの問いに、フールは頷きました。
「ええ、行きますよ」
フールは簡単に答えた。
「明日も、明後日も、行こうと思っています」




