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【第27話】交差する書簡と、決着への誓い

 サルベール王国の王宮。木漏れ日が差し込む穏やかな執務室で、ロゼリアは一通の手紙を手に取っていた。


 差出人は、アクアクリスタ王国の皇太子であるリカルド。


 封を切り、そこに記された美しい羊皮紙の文字を、ロゼリアは静かに読み進めていく。


『拝啓、ロゼリア。


 君が今、サルベール王国で穏やかで幸せな日々を暮らしていると、アデルマリアから聞いている。僕も嬉しく思うよ。


 来週行われるハロルド王太子の結婚式には、僕もアデルマリアを伴って参列するつもりだ。彼女も君との再会を心から楽しみにしている。


 ……ところで、君にとってはもう聞きづらい話かもしれないが、ディアブロスのことで話がある。


 彼はこれまで君に与えてしまった傷と罪の重さをようやく認識(にんしき)し、己の過ちを深く反省したようだ。そして今の彼は、君の幸せを心から願っていると言っていた。


 彼は一度だけ君に直接謝罪したいと願っている。だが、君が望まないのであれば、面会を強いるつもりはないと約束した。


 ……ハロルド王太子の結婚式に、彼を随行員として同行させてもいいだろうか?


 もちろん、君にはすべてを拒絶(きょぜつ)する権利がある。断られたなら、彼も君の意思を尊重し、引き下がる覚悟だ。


 だが……ディアブロスの友として、彼が最後に踏み出そうとしている贖罪(しょくざい)の道を、手助けしてやりたいとも思っている。


 君の返事を待っている』


 読み終えたロゼリアは、手紙を胸に抱きしめたまま、そっと瞳を閉じた。


(ディアブロス様が……反省を……?)


 脳裏に蘇(よみがえ)るのは、冷たく蔑(さげす)まれていた記憶。そして、雨の中で惨(みじ)めに縋(すが)りつかれ、泥を払った日の感触だった。


 彼に対する情や愛恋は、すでに欠片(かけら)も残っていない。


 だが――胸の奥に、どこかすっきりとしない澱(おり)のようなものが残っているのも事実だった。


 過去をうやむやにしたまま逃げ続けるのではなく、一度しっかりと対峙(たいじ)し、完全に区切りをつけなければ、自分は本当の意味でルディアスと共に歩んでいけないのではないか。


(……逃げちゃ駄目だわ。一度きちんとお会いして、過去のすべてに決着をつけなければ……)


 静かな覚悟(かくご)を固めたロゼリアは、その手紙を携(たずさ)え、ルディアスの執務室へと向かった。


     ◇


「――そうか。リカルドから、そのような申し出が……」


 手紙に目を通したルディアスは、深く椅子に腰掛け、エメラルドの瞳を陰(かげ)らせた。


 その美貌には、隠しきれない不快感(ふかいかん)と苦々しさが滲(にじ)み出ている。


「僕の個人としての感情を言わせてもらうなら……君を激しく傷つけ、泣かせたあの男を、君の視界にすら入れさせたくない。……できることなら、二度と関わってほしくはないんだ」


 ルディアスの声には、抑えきれない怒りと、愛する人を守りたいという強い独占欲が籠(こ)もっていた。


「……分かっております、ルディアス様。ですが……」


 ロゼリアは真っ直ぐに彼を見つめ返し、自らの心情を率直に打ち明けた。


「私はもう、ディアブロス様を愛してはいません。ですが、傷つけられた過去を曖昧(あいまい)なままにしておきたくないのです。一度だけきちんと向き合い、自分の中で終わらせてから、ルディアス様と未来を歩みたいのです」


 凛(りん)とした言葉と、揺るぎない眼差(まなざ)し。


 ルディアスはしばらく沈黙を守り、やがて敗北を認めるように静かにため息を漏(も)らした。


「……君のその強い決意と意思を、僕は尊重(そんちょう)するよ」


 ルディアスは立ち上がると、ロゼリアの前に歩み寄り、彼女の華奢(きゃしゃ)な肩を両手で優しく包み込んだ。


 だが、その瞳には決して譲れない強い光が宿っている。


「……けれど、これだけは約束してほしい。絶対に、彼と二人きりにはならないこと。対面する時は、僕も必ず傍(そば)に同席させること」


「ルディアス様……」


「いくら彼が改心したと言っても、君を奪われそうになった男だ。何が起こるか分からない以上、君を一人で危険に晒(さら)すわけにはいかない。……いいね?」


 真剣な面持ちで懇願(こんがん)してくる彼に、ロゼリアの胸は甘い愛おしさで満たされた。


 自分をどこまでも大切にし、守ろうとしてくれる優しさと情熱。


 ロゼリアは破顔(はがん)し、そっとルディアスの手を両手で包み込んだ。


「……はい、もちろんです。ありがとうございます、ルディアス様。……愛しています」


「……ッ!?」


 真(ま)っ直(す)ぐに放たれた、ロゼリアからの心からの愛の言葉。


 ルディアスはハッと息を呑(の)むと、みるみるうちに頬(ほほ)を朱(しゅ)に染め、瞳を歓喜(かんき)で輝かせた。


「……ずるいな、ロゼリア。そんな可愛い顔でそんなことを言われたら……抱きしめずにはいられないだろう……?」


 耐えかねたように、ルディアスはロゼリアの細い身体を力強く、けれど大切に腕の中へと抱き寄せた。


 ロゼリアもまた、彼の温かな胸に顔を埋(うず)め、深い安らぎを感じるのだった。


     ◇


 ――こうしてロゼリアは、ディアブロスとの最後の対面を受け入れる旨を、アクアクリスタ王国へと書き送った。


 執着(しゅうちゃく)を手放し、贖罪(しょくざい)を望むディアブロス。


 そして、新たな愛を得て未来へと歩むロゼリア。


 二人の最後の決着の時が、刻一刻と近づいていた。

ご拝読いただきありがとうございます!


逃げずに過去と向き合う決意をしたロゼリア。

そして、そんな彼女を全力で守り、愛するルディアス様。


二人の信頼と絆が、また一歩深まった回でした♡


次回、いよいよアクアクリスタ王国から使節団が到着!

ロゼリアとディアブロス、過去との最後の対峙が近づきます――。


少しでも「キュンとした!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、作品ページ下部の【ブックマーク登録】や、評価の【☆☆☆☆☆→★★★★★】で応援していただけると嬉しいです!


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