↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/41

【第22話】咲き誇る気品、凛とした反論

 透き通るような秋晴れの日、王宮の庭園に設けられた東屋(あずまや)には、色とりどりのドレスを纏(まと)った令嬢たちが集っていた。

 テーブルには最高級の紅茶と色鮮やかな焼き菓子。表向きは和やかなお茶会であったが、ロゼリアが席に着いた瞬間から、周囲の視線には刺々しい冷ややかさが混ざり込んでいた。

「よくお越しくださいましたわ、ロゼリア様。ルディアスお兄様から『くれぐれも失礼のないように』ときつく言われておりますの。……どうぞ、お口に合えばよろしくてよ」

 主催者であるクリスティーナは、極上の微笑みを貼り付けながら紅茶を勧めてくる。その声には、他国から来たロゼリアを試すようなニュアンスが含まれていた。

「お招きいただき、ありがとうございます。クリスティーナ様」

 ロゼリアは穏やかに微笑むと、カップを手にして一口、紅茶を含んだ。

 ギルベール夫人の指導の成果もあり、その一連の動作は指先の角度から背筋の伸びに至るまで、洗練された美しいものだった。同席していた令嬢たちが思わず息をのむほど、隙のない淑女(しゅくじょ)の所作である。

 その完璧な立ち振る舞いを目にして、クリスティーナの貼り付けた笑顔が一瞬だけ引き攣(つ)った。

(なんなの……? 一度捨てられた田舎の女のくせに、どうしてそんなに堂々としているの……!?)

 自分よりも劣っているはずの存在が完璧な所作を見せ、しかも愛するルディアスから溺愛されている。その事実が、クリスティーナのプライドをじわじわと苛(さいな)んでいく。

 表面的な世間話が数分ほど続いたのち、耐えかねたクリスティーナは、扇子で口元を隠しながら嘲笑を孕んだ声を漏らした。

「それにしても……ロゼリア様は本当にお幸せそうですわね。前のお立場ではさぞかし大変な思いをなさったのでしょう? 一度男性に捨てられた身で、まさか当国の正妃の座を狙えるなんて……夢にも思わなかったでしょうに」

 チクリと刺すような、明らかな皮肉(ひにく)。周囲の取り巻きたちも扇の陰でクスクスと下劣な笑いを漏らし始めた。

 だが、ロゼリアは表情一つ変えず、静かに視線を合わせた。

「私を温かく迎えてくださったルディアス様や皆様には、感謝の言葉もございませんわ」

 一切卑屈にならず、堂々と感謝を口にするロゼリアの態度。それが、かえってクリスティーナの怒りに火をつけた。

 自分の皮肉がまったく効いていないどころか、ルディアスとの絆を見せつけられたと感じたクリスティーナは、ついに扇子をパチンと強く叩きつけ、感情を抑えきれずに立ち上がった。

「……よくそんな平然(へいぜん)としたお顔でいられますことですわ! 一体どんな手を使ってルディアスお兄様を誑(たぶら)し込まれたのかしら!? 聞けば、前の旦那様もご自身のお姉様の恋人だったそうではありませんか! ……とんだ男たらしですのね!」

 仮面を脱ぎ捨て、隠そうともしない悪意と嫉妬をむき出しにして叫ぶクリスティーナ。

 あまりにも無礼な暴言に、東屋の空気が凍りついた。

 そのとき、静かに紅茶のカップを置いた人物がいた。

「クリスティーナ。……根拠のない臆測(おくそく)で物事を言うものではないわ」

 凛とした鈴の音のような声。佇んでいたのは、絶大な気品を纏うシルビアだった。彼女は紫水晶の瞳を冷ややかに細め、静かに、しかし厳しくクリスティーナを諫(いさ)めようと口を開いた。

 だが――その言葉が続く前に、ロゼリアがすっと立ち上がった。

「シルビア様、ありがとうございます。……ですが、私は大丈夫ですわ」

 ロゼリアは深く息を吐くと、助けに入ろうとしてくれたシルビアへ向けて、柔らかく、けれど揺るぎない笑みを向けた。

 思いがけない言葉に、シルビアは驚きで紫水晶の瞳を大きく見開いた。ロゼリアの瞳に宿る毅然とした強い光を確かに見て取ると、シルビアは悟ったように小さく頷き、静かに身を引いた。

 ロゼリアはゆっくりと視線を巡らせ、クリスティーナと、周囲で自分を冷笑していた令嬢たちを正面から見据えた。

「クリスティーナ様。たしかに私は、アクアクリスタ王国の将軍の元妻でした。その事実が変わることはございません。……しかし、私は何一つとして、己の生き方に恥じるような行いはしておりません!」

 東屋に響き渡る、凛とした美しい声。

「過去に何があったとしても、それだけで私の人柄や生き方まで決めつけられる筋合いはないはずですわ」

 守られるだけの儚げな女性だと思い込んでいたクリスティーナたちは、ロゼリアから放たれる圧倒的な気迫に気圧され、思わず息をのんだ。

「で、ですがっ……! 事実は事実じゃない! 一度捨てられたような女が、お兄様の正妃になろうなんて、図々しいにも程がありますわ!」

 顔を真っ赤にして叫ぶクリスティーナに対し、ロゼリアは一歩前へ踏み出し、冷ややかなほど静かな眼差しで問いかけた。

「クリスティーナ様。……私に対するその侮辱(ぶじょく)は、私を信じて手を取ってくださったルディアス様への侮辱ですわ」

「っ……!? な、なによそれ……ッ! 私がお兄様を侮辱しただなんて、そんなこと――」

「では、どちらなのですか」

 見苦しく言い訳しようとするクリスティーナの言葉を、ロゼリアは静かに、けれど強く遮った。

「貴方様は、ルディアス様がそのような浅はかな噂話に惑わされるような、愚かなお方だとお思いなのですか? ……あのお方のお心やご決断を軽んじ、目の前の噂だけに踊らされているのは、一体どちらでしょうか」

「あ……う……っ」

 ぐ、と言葉を詰まらせるクリスティーナ。

 敬愛してやまないルディアスを自ら愚弄した形になってしまい、顔からスーッと血の気が引いていく。震える唇からは、もはや反論の言葉一つ出てこない。

 周囲の取り巻きたちも互いに顔を見合わせ、気まずそうに視線を逸らした。誰一人としてクリスティーナに助け船を出せる者はいない。

 ロゼリアは背筋を真っ直ぐに伸ばし、一分の隙もない美しい淑女の礼を捧げた。

「お茶会へのお招き、ありがとうございました。……それでは、失礼いたします」

 静かに、しかし圧倒的な威厳を残して東屋を後にするロゼリア。その背中を、シルビアは胸を突かれたような感嘆の眼差しで見送っていた。 

ご覧いただきありがとうございます!

ロゼリア、前を向いて毅然と反撃してくれました……!

「スカッとした!」「ロゼリアかっこいい!」と思ってくださった方は、ページ下部の【★★★★★】やブックマークで応援していただけると執筆の励みになります!

次回(明日10/26)より、物語のクライマックスに向けて【朝8:00】と【夜18:00】の1日2回更新にペースアップいたします!


ロゼリアたちの物語もいよいよ大詰めを迎えていきますので、ぜひ朝と夜のお楽しみにしていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。