【第13話】途絶えぬ文通と、忍び寄る影
アクアクリスタ王国へ帰国したディアブロスとの間で、約束通り月に一度の文通が始まった。
最初に届いた手紙には、過去の愚かな行いに対する切々とした謝罪と、ロゼリアの体を気遣う不器用な言葉が綴られていた。
ロゼリアは何度も推敲を重ね、過度な感情を交えずに、けれど丁寧な言葉で返信を出した。
孤児院での穏やかな日常。子供たちの成長。そして――ルディアスという心優しい男性の温もりに支えられ、自分の心が少しずつ前を向いていること。
手紙の往復が重なるにつれ、文面から滲み出るロゼリアの充実した日々は、受け取るディアブロスの胸を鋭く抉った。
『……君が今、どれほど穏やかな時間を過ごしているかが手紙越しに伝わってくる。そして……その隣にいるのが俺ではないことも。俺は今更、君の幸せを喜ぶ資格すらないのだろう。だが……胸が千切れるほどに苦しい』
返信の中に混じるディアブロスの葛藤と後悔。
彼は己の愚かさを噛み締めながら、ロゼリアの心が完全に自分から離れつつある現実に、一人静かに打ちひしがれていた。
一方、ロゼリアの心は手紙を書くたびに澄み渡っていた。
過去の傷を覆い隠すのではなく、向き合って言葉にすることで、長年自分を縛り付けていた呪縛が解けていく。
(私はもう……過去ではなく、今を生きているんだ……)
隣で優しく微笑むルディアスの顔を思い浮かべ、ロゼリアの胸は温かな愛おしさで満たされていくのだった。
◇
だがその頃、サルベール王国の華やかな都の裏側で、一筋の陰湿な嫉妬が渦巻いていた。
かつてアスタリスタ王国で罪を犯し、貧民街へ身を落としたロゼリアの異母姉――エリス。
執念深く這い上がった彼女は、サルベール王国の公爵家当主である五十過ぎの男に見初められ、その愛人という立場を手に入れていた。
贅沢なドレスに身を包み、優雅なティータイムを楽しんでいたエリスの耳に、ある不快な噂が飛び込んできた。
「……何ですって? あのロゼリアが、この国ののどかな街外れの孤児院で、聖女のように慕われて幸せに暮らしている……!?」
カチャン、と高級な磁器のカップが音を立てて揺れた。
「許せない……! 私がどれほどの思いをしてここまで這い上がったと思っているの!? あんな地味で取り柄もない女が、私より幸せそうに笑っているなんて……絶対に認めないわ!」
嫉妬と憎悪で顔を歪ませたエリスは、真っ赤な口紅を塗った唇を不敵に吊り上げた。
「……公爵様の権力を使えば、あんな女、どうとでも潰せるわ。二度と立ち上がれないように……徹底的に地獄へ落としてやる」
黒い陰謀が、静かにロゼリアの足元へと忍び寄っていた。




