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タウラとリフレイン〜古の大英雄はマジで勇者を再現したい〜  作者: 2nd kanta


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22/24

初めての人斬り

僕たちは、盗賊たちの拠点を見下ろせる高台に身を潜めていた。


 木々の隙間から見えるのは、いくつかの大きな建物と倉庫。それに厩舎。


 思っていたよりも規模が大きい。


 空はよく晴れていた。


 雲一つない青空に、そよそよと風が吹いている。


「ああ、天気がいいなぁ……狩りに行きてぇ」


「何、呑気なこと言ってるのよ、リフレイン!」


 エルザが僕を睨みつける。


「これから戦闘が始まるっていうのに……やっぱり、あんたバカでしょう」


 タウラも呆れたようにため息をついた。


「じ、冗談に決まってるだろ」


(やべぇ……ちょっとボーッとしてた)


 でも、本当に不思議だった。


 これから僕たちは、あそこにいる盗賊たちを倒す。


 場合によっては――殺す。


 なのに、胸が騒がない。


 手も震えない。


 怖くもない。


 緊張すら、ほとんど感じていなかった。


 ミゼル様の訓練で、魔獣を何度も殺してきた。


 ゴブリンやオークだって、何匹も斬った。


 だからだろうか。


 それとも――。


「……僕もエルザと同じなのかもな」


「誰が殺人鬼だぁぁぁ!」


 ゴッ!


「……痛い」


 エルザの拳が頭に突き刺さった。


 そんなやり取りをしている間にも、眼下では盗賊たちが動いている。


 四、五人ほどが、何かを運んでいた。


 いや――違う。


 よく見ると、作業をしているのは盗賊ではない。


 腰に剣を差した男が一人、彼らを監視している。


 作業をしている者たちは、皆うつむき、黙々と手を動かしていた。


「……あれ、奴隷?」


 僕が尋ねると、セシリー様が頷いた。


「そうだねぇ。盗賊たちは人を隷属させ、ここで働かせているのよぉ」


 街道へ続く道を整備していたのも、おそらく彼らだという。


 逃げられないように。


 逆らえないように。


 命令に従うしかないように。


 そうやって人を使い潰している。


「なぁ……商会の荷馬車を襲うだけにしては、アジト大きすぎない?」


 僕が呟く。


「そうね」


 タウラも拠点を見渡した。


「荷馬車を襲うだけなら、ここまで大規模な施設は必要ないわ。むしろ維持するだけでも邪魔になるはず」


「やっぱり何かあるのかな?」


「全て制圧した後で調べれば分かるわよ」


「だよねー」


「その通りよ。問題は――」


 セシリー様が腰を落としたまま、拠点を睨む。


「人質だねぇ」


「ああ……」


 確かに、それは厄介だ。


「まとめて吹っ飛ばしたら楽なのに……」


 タウラが本気で残念そうに呟いた。


「さすが、鬼畜外道魔導師」


「何か言った?」


「何も言ってません」


 怖い。


 絶対聞こえてた。


「地道にやるしかないわね」


 エルザが真面目な顔で頷く。


 ……脳筋だけど、こういうところは真面目なんだよな。


「それしかないかぁ」


 セシリー様が立ち上がろうとした、その時だった。


「ふふふ……」


 タウラが気持ち悪く笑った。


 ゴッ!


「……痛い」


 タウラは何食わぬ顔で空間収納から小さな玉を取り出した。


「テッテレ~! タウラちゃん特製、煙玉~!」


(あ、これ……)


 ミゼル様から聞いたことがある。


 勇者ヤクトが何かを取り出す時に使っていた掛け声だ。


 タウラは最近、それを気に入っている。


「……嫌な予感しかしない」


「まずはこれ」


 タウラが黄色い煙玉を掲げる。


「シビレ煙玉~!」


「シビレ煙玉?」


「そう。これを少しでも吸い込めば、即座に身体が痺れて動けなくなるわ」


「神経毒なの?」


「そうよ」


 タウラは嬉しそうに頷いた。


「一時間も煙の中にいれば呼吸もできなくなって、そのまま死に至るわ」


「なんて物作ってんだよー!」


 僕が叫ぶ。


「ねえ、タウ。眠らせるだけの物はないの?」


 エルザが尋ねる。


「もちろんあるけど……」


 タウラは首を傾げた。


「そんなの、つまらないでしょう?」


「確かに……」


(ねぇねぇ、君たち)


(考え方、ちょっとおかしくない?)


 ……口には出せなかった。


「あと、これね」


 タウラがもう一つ取り出した。


 今度は赤い煙玉だ。


「テッテレ~! ソクシ玉~!」


「絶対ヤバいやつだ……」


 僕は一歩後ずさった。


「そう。これはソクシ草を濃縮して、さらに激痛薬を加えた優れものの煙玉よ!」


「ええーっ!?」


 思わず声が裏返る。


「即死するのに激痛もあるの!?」


「苦しみながら死を迎える。悪人にとって理想の最期でしょう?」


(どこから、その発想が出てくるんだよ……)


「タウラ、私たちも不味いんじゃないかしらぁ?」


 セシリー様が恐る恐る尋ねる。


「ご安心を、セシリー様。多少吸い込んでも私たちなら平気です」


「して、その根拠は?」


「実証実験は完了しております」


 タウラが僕を見る。


「……」


「……」


「実証実験って僕のこと?」


「もちろん」


「また盛られたんだ……! いつだよ!」


「それなら安心ですわねぇ」


「セシリー様ーー!」


 そんなやり取りをしているうちに、セシリー様の表情が変わった。


 先ほどまでの柔らかな笑顔が消える。


 代わりに浮かんだのは、戦士の顔だった。


「お前たち」


 全員がセシリー様を見る。


「行くよ!」


 その声に、空気が変わった。


「一分後に決行!」


「「「はい!」」」


「――行けっ!」


 次の瞬間。


 そこにいた四人の姿が消えた。


 僕たちは気配を完全に断ち、木々の間を駆け抜ける。


 僕の担当は二つの倉庫と厩舎。


 タウラとエルザは盗賊たちの宿泊施設。


 セシリー様は、一番奥にある少し立派な建物。


 そしてタウラは、拠点全体を結界で囲う。


 ――逃げ道はない。


 僕は倉庫の屋根へ飛び乗った。


 着地の音すら立てない。


 そのまま煙玉を取り出し、窓から中へ放り込む。


 コロコロと転がった玉が床に落ちた。


 次の瞬間――。


 ボンッ!


 黄色い煙が一気に広がった。


「なんだぁー! この煙は!」


「あ、が……!」


「身体が……動かな……」


「た、助け――」


 声が途切れていく。


 僕は倉庫へ入り、倒れた男たちを確認した。


(よし。制圧完了)


 思った以上に呆気ない。


 外を見ると、タウラたちのいる建物からも黄色い煙がモクモクと立ち上っている。


 あっちも終わったらしい。


 ――その時。


 ドゴォォォンッ!


 突然、大地が揺れた。


「うわっ!」


 爆発音が森に響き渡る。


 地面から伝わった衝撃が足元を震わせた。


「……あっち、何やったんだ?」


 ちょっと見に行きたい。


 でも、自分の仕事を終わらせないと怒られる。


「仕方ない。先にこっちだ」


 僕は倒れている盗賊たちを次々と拘束していく。


 盗賊も奴隷も関係ない。


 後ろ手に縄を掛け、さらに足首も縛る。


 盗賊たちは呻くだけで、まともに動くことすらできない。


「奴隷は命令一つで殺しに来るって言ってたからな……」


 拘束を終えた僕は、次の倉庫へ向かった。


 扉を開ける。


「……なんだ、これ」


 中には大量の荷箱が積み上げられていた。


「この倉庫も、これで全部かな」


 近づいて荷箱を見る。


 商会の荷物にしては多すぎる。


「……これ、行商人の荷物だけじゃないな」


 僕は荷箱の裏へ回った。


 その瞬間――。


「死ねぇぇぇっ!」


「うわぁっ!」


 横から男が飛び出してきた。


 剣が振り下ろされる。


「間に合わない――!」


「その首、貰ったぜ!」


 ――ガキィィンッ!


 金属音が響いた。


 男の剣が、途中から真っ二つに折れた。


 折れた刃が空中で回転し、そのまま荷箱へ突き刺さる。


「なっ……剣が折れただと!?」


 男が目を見開く。


 僕は自分の身体を確認した。


「ふう……ヤバかった」


 そして、ニヤッと笑う。


「……なんちゃって」


「な――」


「そこにいるのは分かってたよ、おじさん」


 男の顔から血の気が引いた。


 僕は一歩踏み込み、男の顎をブーツの爪先で蹴り上げる。


 男の身体が宙を舞った。


 そして床に落ちる。


 ドサッ。


 動かない。


 まあいい。


「魔力の殻を倍にしておいて良かった。タウとエルに感謝だな」


 僕は次の倉庫へ向かった。


 そして――足が止まった。


「……」


 檻が並んでいた。


 その中に、人がいる。


 女性。


 子供。


 獣人。


 エルフ。


 そして――見たことのない姿の女の子。


 魔族……なのかもしれない。


 誰もが粗末な布切れを身につけ、床に横たわっていた。


 痩せ細った身体。


 怯えきった目。


 僕は拳を握った。


「……勝手に村を襲って」


 声が低くなる。


「人を殺して、攫って……」


 それをこの国まで連れてきて。


 奴隷として売る。


「……そりゃ、みんなメチャクチャ怒るよな」


 僕だって腹が立つ。


 いや――怒っている。


 けれど、今はそれより先にやることがある。


「取り敢えず、全員拘束だね」


 僕は一人ずつ助け出して縄をかける。


 感情を抑え、淡々と。


 そして倉庫を出る。


 残るのは――厩舎だ。


「……まあ、お馬さんも痺れてるよな」


 中に入る。


 馬たちは静かに倒れている。


 その時だった。


「……」


 僕は足を止めた。


 藁の山。


 ほんの僅かに――動いた。


 僕は背中からロングソードを抜く。


「藁の中に隠れているのは分かってるよ」


「……」


「盗賊なら、苦しまないで逝かせてやる」


「……」


「出てこい」


 返事はない。


 数秒の沈黙。


 そして――。


「バカが! 俺はこっちだ!」


 別方向から男が飛び出した。


「死ねぇぇぇ!」


「知ってるよ」


 僕は半歩横へずれた。


 男の剣が頬を掠める。


 そのまま身体を沈め――。


 振り向きざまに、ロングソードを横薙ぎに振り抜いた。


 ――ドサッ!


 重いものが落ちた。


 少し遅れて、もう一つ。


 ――ドサッ。


 男の身体が床に崩れた。


 その横には、切断された下半身が転がっている。


 血が床を濡らしていく。


 僕は剣を見た。


 赤く染まっている。


「……」


 僕は血を振り払い、剣を鞘に収めた。


「初めて、人を斬り殺した……」


 自分でも驚くほど、声は平坦だった。


 吐き気はない。


 眩暈もしない。


 手も震えていない。


 ただ――不思議だった。


「本当に……人なのか?」


 目の前の死体を見る。


「やってることは、ずる賢いゴブリンと同じじゃないか」


 違う。


 人間だから何かが違うと思っていた。


 もっと恐ろしくて。


 もっと重くて。


 もっと――心に残るものだと思っていた。


 なのに。


「……何も感じない」


 罪悪感もない。


 恐怖もない。


 吐き気すらない。


 それどころか――。


 胸の奥に、奇妙な達成感さえあった。


 魔獣を討伐した時と同じ。


 敵を倒した。


 それだけ。


「……そういうことか」


 セシリー様が以前言っていた。


 人を殺すことに慣れてはいけない。


 けれど、戦う者にとって――最初の一線を越えた時、自分がどうなるかは分からない。


「セシリー様が言っていたのは……このことだったんだ」


 その時。


 ガサッ!


 厩舎の隅で藁が動いた。


 別の男が飛び出し、逃げようとする。


 僕は右手を向けた。


 人差し指を男の頭へ向ける。


「……逃がさない」


 男が振り返った。


 目が合う。


 その瞬間――。


「ショット」


 閃光が走った。


 男はその場に崩れ落ちた。


「……」


 僕はしばらく、その死体を見つめた。


 やっぱり、何も感じない。


 僕は踵を返した。


「タウラとエルザが心配だ」


 自分が人を二人殺したことなど、もう頭の片隅に追いやって。


 リフレインは、二人のもとへ駆け出した。

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