盗賊発見
リフレインたちが冒険者になってから、三か月が経った。
薬草採取。
魔物の討伐。
素材の回収。
依頼品の納品。
そのどれも、今の三人にとっては難しい仕事ではない。
「チャチャさん。ただいま! 依頼、終わったよ!」
元気よくギルドの受付へ駆け寄ったリフレインに、受付嬢のチャチャがいつもの笑顔を向ける。
「お帰りなさい。怪我などありませんか?」
「嫌だなぁ。怪我なんかしないよ!」
リフレインは胸を張った。
「怪我したら、タウラのポーション飲まないといけないんだよ」
その瞬間だけ、顔が露骨に曇る。
「……そんなに嫌なの?」
チャチャが苦笑する。
「嫌だよ!」
リフレインは即答した。
「今のポーションなんて、作った本人ですら何の効果が出るのか分からないんだから!」
「サプライズよ」
隣にいたタウラが、なぜか誇らしげに胸を張る。
「治癒薬なのにサプライズ要素を入れないでよ!」
「人生には刺激が必要なの」
「僕の人生に刺激はいらない!」
「残念ね」
タウラは本当に残念そうに首を傾げた。
チャチャはそんな二人のやり取りを微笑ましそうに眺めていたが――ふと、その表情を改めた。
「……ところで、あなたたちに聞きたいことがあるんだけど」
「何かしら?」
「知っていることしか話せないわ」
タウラとエルザが同時にチャチャを見る。
その目つきの変化に、リフレインも自然と姿勢を正した。
「三か月前。あなたたちが初めてナッツに来たとき、シード村から幌馬車で来たわよね?」
「ああ!」
リフレインの顔がぱっと明るくなる。
「あのときが、僕にとって初めての馬車だったんだ!」
「そうだったわね」
タウラは小さく頷いた。
「実は、あなたたちが来た頃、大森林の近くでゴブリンの大規模な群れが確認されていたの」
「ゴブリンの群れ?」
「ええ。それで冒険者ギルドから四つのパーティーが討伐に派遣されたのよ」
「ふーん」
タウラが興味なさそうに相槌を打つ。
「じゃあ、討伐済みってことね」
「そう。討伐自体は終わったわ」
チャチャの声が少し低くなる。
「ただね……捜索していた冒険者たちが、街道側で三十五匹のゴブリンの死体を発見したの」
「三十五匹?」
「しかも、全てのゴブリンは外傷がなかった」
三人の顔から笑みが消える。
「さらに山側を調べたところ、ゴブリンの集落まで発見されたわ」
チャチャはそこで一度言葉を切った。
「集落にいたゴブリンは――全滅」
「……」
「外傷はほとんどなし。そして、その中にはゴブリンキングまで一体含まれていた」
しん、と空気が静まった。
リフレインはタウラを見る。
タウラもエルザを見る。
三人の頭に、ほぼ同時に同じ光景が浮かんだ。
「……どっかで聞いたような話だね」
「あー!」
リフレインが手を叩いた。
「思い出した!」
そして、隣にいるエルザを指差す。
「馬車の中からエルザがゴブリンを皆殺しにしたときだ!」
「なによ!私は快楽殺人鬼じゃない!」
エルザが頬を膨らませる。
その横で、エルザがふと髪を整えた。
それを見ながら、リフレインは何となく思った。
(……エルも、チャチャさんみたいに大きくなるのかな)
その瞬間。
ゴツン!
「痛っ!」
タウラの拳がリフレインの頭に落ちた。
「何を考えてるのよ」
「な、なんで分かるんだよ!」
「顔に出てるのよ!」
(そうだった。こいつ、心が読めるんだった……)
「あんたのスケベ面に全部出てるのよ!」
「ひどい!」
「リフがそういうことばっかり考えるからよ」
エルザまで呆れた顔をする。
「……でも、無駄じゃない?」
「何が?」
「だって、リフレインだもの」
「どういう意味だよ、エルザ!」
意味不明なやり取りをする三人を見ながら、チャチャはしばらく呆然としていた。
やがて――。
「……ありがとう」
「え?」
「やっと、この事件の謎が解明されたわ」
チャチャは深々と息を吐いた。
「三か月もかかったけど……これで報告書が書ける」
「なんか……すみません」
リフレインが頭を下げる。
「エルザが……」
「なんで私のせいなのよ!」
バッチーン!
「痛ぁっ!」
エルザの平手打ちがリフレインの頬に炸裂した。
チャチャは苦笑した。
「今回の報酬は、金貨三枚と銀貨二十枚になります」
「それじゃあ、いつものように金貨一枚をミゼル様の口座へ。残りの金貨二枚は、私たち『乙女の秘密』の口座へお願いします」
「はい。かしこまりました」
チャチャが手続きを進める。
「残りの銀貨二十枚はこちらです」
「ありがとう、チャチャさん」
「チャチャさん、またねー!」
「お騒がせしました」
「はい。気をつけて帰ってくださいね」
三人がギルドを出ていく。
その背中を見送りながら、チャチャは小さく呟いた。
「……本当に、良い子たちね」
ちなみに、三人が冒険者として報酬を受け取るようになった当初。
リフレインたちは、稼いだお金をミゼルに渡そうとした。
しかし――。
『いらん』
即答だった。
理由は単純。
ミゼルには金銭欲がない。
そもそも、自分の口座にいくら入っているのかすら把握していない。
困った三人がセシリーとマリアに相談した結果。
『だったら勝手にミゼル様の口座へ入れておけばいいですわぁ』
という、実にミゼル邸らしい結論に至った。
その口座の管理をしているのはセシリーである。
そして――。
リフレインたちのパーティー名は、
『乙女の秘密』
である。
多数決で決まった。
リフレインの案は――抹殺された。
(……僕の意見、最初から存在しなかったことになってるんだよな)
冒険者活動は一日おき。
残りの一日は、ミゼルたちからの教育と訓練に費やされる。
魔法。
剣術。
索敵。
魔力操作。
知識。
生存術。
そして――戦闘における判断。
覚えるべきことは、まだまだ山ほどある。
そして今日。
三人の冒険者活動には、セシリーが同行していた。
「そろそろ、対人戦闘も経験したほうがいいわねぇ」
その一言を聞いた瞬間。
三人の表情が固まった。
「……対人戦闘?」
「そうですわぁ」
セシリーはニコニコと笑っている。
「本気の殺し合いを、体験してみましょう」
ゴクリ。
誰かが唾を飲み込んだ。
「盗賊の討伐依頼を受けましょう」
「「「はい!」」」
三人の返事だけは妙に揃っていた。
「ん? どうしましたぁ? 緊張してますの?」
「……人間が相手ですので」
エルザが答える。
「盗賊なんて魔物と同じですわぁ」
セシリーの笑顔が消えた。
「人を殺して、物を奪う。言ってしまえば、人間の姿をしたゴブリンですわねぇ」
三人が黙って聞く。
「情けをかけて見逃せば、その盗賊が後で別の人を殺すかもしれない。だから討伐する」
「「「はい」」」
「ただし――」
セシリーは人差し指を立てた。
「盗賊は魔物より厄介なところがありますわぁ」
「……?」
「武器を使う。魔法も使う。罠も使う」
一本。
「人質も使う」
二本。
「そして――卑怯な手も平気で使う」
三本。
「助けを求めるふりをして近づき、油断したところを背後から刺す。自分が逃げるためなら、仲間ごと人質を切り捨てることだってある」
三人の表情が引き締まった。
「盗賊というのは、そういう相手なのですぅ」
「油断した者から死んでいく……そういうことですね」
エルザが呟いた。
「ふふ。その通りよぉ。よく覚えていましたわねぇ」
「はい」
エルザは真っ直ぐ前を見る。
「まだ死にたくありませんから」
「正直でよろしい!」
セシリーが満足そうに笑った。
「では――出発!」
「「「はい!」」」
オーガス王国側に設置された転移点を抜け、三人はセシリーの後を追って走った。
森を抜ける。
街道を駆ける。
普通なら馬車で半日はかかる距離だ。
だが――。
「……一時間もかかってない」
ナッツの街が見えてきた。
「馬車なら半日だったのに」
「空を飛べばもっと早いんだけどね」
リフレインが呟くと、エルザが横から睨んだ。
「これも修行よ」
「はい」
「文句を垂れない」
「……はい」
リフレインは素直に口を閉じた。
冒険者ギルドは、今日も混雑していた。
「やっぱりチャチャさんのところは混んでるなぁ」
最後尾に並んでいると――。
「あ、セシリー様だ」
「どうぞ、お先に」
「私たちは後でいいですから」
次々と順番を譲られていく。
「えっ、いやいや。順番は守ってくださいなぁ」
そう言っている間にも列が開き、気づけばセシリーは受付の前まで来ていた。
「セシリー様、ギルドへようこそ」
「……チャチャ」
「はい?」
「順番を譲らなくてもいいって、みんなに言ってくれない?」
「ご迷惑でしたか?」
「いや、迷惑じゃないんですけどねぇ……なんか申し訳なくて」
「分かりました。伝えておきます」
「よろしくねぇ」
チャチャは微笑んだ。
(ふふ……やっぱりセシリー様はお優しい方ね)
「それで今回なんだけどぉ――」
セシリーの顔から笑みが消えた。
「盗賊の討伐依頼、あるぅ?」
「盗賊の討伐……ですか?」
チャチャが後ろの三人を見る。
「まさか、あの子たちが?」
「そうよぉ」
「……」
「人型の魔物なら、もう十分に狩り慣れているからねぇ」
「ですが……」
「そろそろいい頃合いだと思うのよぉ」
セシリーはニッコリ笑った。
「ミゼル様も賛成していますわぁ」
「…………」
チャチャが黙る。
「まあ、そのために私が同行しているんですけどねぇ」
「…………」
「それに――」
セシリーは受付台に肘をついた。
「この子たちが冒険者としてランクを上げてくれたほうが、ギルドとしても都合がいいでしょう?」
「……ぐぬぬ」
チャチャの眉間に皺が寄る。
「私はまだ早いと思いますけど……」
「普通の子供だと思わないほうがいいわよぉ」
「……分かりました」
チャチャは観念したように依頼書を一枚取り出した。
「では、こちらをお願いします」
「どれどれ……」
セシリーは依頼書に目を通し――。
ニヤリ。
「いいわねぇ。これにしましょう」
「はい。手続きをいたします」
――というわけで。
僕たちは王都サマリヤへ向かう街道沿いの村、サガオへやって来た。
村を出てしばらく進むと、街道は次第に狭くなっていく。
やがて両側を山に挟まれた、細い山道へと変わった。
「おお……」
リフレインが周囲を見回す。
「絶好の盗賊ポイントだね」
「バカでもここを狙うでしょうね」
エルザとタウラが平然と言った。
「ここからは緊張感をもったほうがいいね」
エルザだけが真面目だった。
(今や、リーフレット家の常識人はエルザだと思う)
ミゼル様は論外。
セシリー様も論外。
マリアさんは最近、思い込みが強くなってきた。
……エルザしかいない。
そんなことを考えながら歩いていると、セシリーが説明を始めた。
「現在分かっている情報ねぇ」
盗賊の人数――不明。
推定十人から三十人。
目撃者――なし。
被害者総数――不明。
「へぇ……」
リフレインが首を傾げる。
「本当に盗賊なんているんですかね?」
「襲うとしたら商会の荷馬車でしょうね」
タウラが答える。
「商会なら護衛を付けているはずだわ」
エルザが続けた。
セシリーが説明する。
「ギルドに、行方不明になった商会の荷馬車の捜索依頼が出ていたのよ。調査結果は芳しくなかったようですが――」
一度、言葉を切る。
「多数の人間が争ったと思われる足跡と、血痕が見つかったわぁ」
「……」
「そこでギルドが独自に調査を続け、管轄の衛兵にも聞き取りをしたそうよぉ」
「衛兵が、まともに話すとは思えないけどね」
タウラが鼻で笑う。
「その通りよぉ」
セシリーは苦笑した。
「それでも、この周辺で何かが起きていることまでは分かったわぁ」
「盗賊が荷馬車を奪って、そのまま別の場所へ運んで換金しているんでしょう」
タウラが腕を組む。
「自分たちで行商してるわけじゃないからね」
「買ってくれる相手がいる」
エルザが続ける。
「商会か……貴族?」
「こんなに手際がいいなら、黒幕はその辺でしょうね」
タウラが言う。
「直接関われば足がつく。だから間に誰かを挟んで、自分たちまで捜査が届かないようにしている」
「おそらく街道から脇道へ抜けた先に、盗賊の拠点があるはずよ」
エルザが淡々と推理を続ける。
「そこで荷物を積み替える。その後、何食わぬ顔で街道へ戻り、王都サマリヤへ運ぶ」
「潰しても問題のない商会を使って、ですか」
「……」
セシリーが黙った。
タウラとエルザが顔を見合わせる。
「さすがエルザ」
タウラが笑った。
「腹黒さは一級品ね」
「まだまだタウラには勝てないよ」
「「ふふふふふ」」
見つめ合い笑い出す二人。
「お前ら、怖ぇよ!」
リフレインだけが本気で怯えていた。
(ほぉ……)
セシリーは三人を眺める。
(想像とはいえ、ここまで状況を組み立てられるとは……)
これは――ミゼル様も喜ぶだろう。
「さあ、街道を進みますわよぉ」
「「「はーい!」」」
三キロほど進んだところで、エルザが突然足を止めた。
「……見つけた」
「「はやっ!」」
「……くっ」
リフレインが悔しそうに拳を握る。
「また負けた……」
「何?」
エルザが振り返った。
「リフは私に勝とうとしているの?」
「あ……」
リフレインの顔が引きつる。
「すみません、エルザ様。調子に乗りました」
「以後、気をつけるように」
「はい。ありがとうございます」
「ふふ……リフレインはエルザに従順だねぇ」
セシリーが楽しそうに笑う。
「リフは色々やらかして、私たちには一生頭が上がらないんです」
タウラが説明した。
「内容は言えませんけど……アレですわ」
「ああ……アレねぇ」
セシリーが遠い目をする。
(心当たりは色々あるけど……)
セシリーはリフレインを見た。
(なるほど。やっぱり、そういうことでしたのねぇ)
「……はっ!」
リフレインが青ざめる。
「申し訳ございません、セシリー様!」
「別にいいですわぁ。実害はありませんし――」
セシリーが何気なく呟く。
「あ、そういえば下着が一枚なくなって……」
「わぁぁぁぁぁ!」
リフレインが頭を抱えた。
「ごめんなさい! ごめんなさい! セシリー様!」
(全部バレてるって、リフ)
タウラが呆れた。
「では、盗賊のアジトまで飛ぶんでしょう?」
セシリーが空を見上げる。
「私だって、やっと一時間くらいなら飛べるようになったんですから」
「えっ、凄い!」
リフレインが驚く。
「マリアだって、五分が限界ですけど浮いていられるようになったんだよぉ」
「マリアさんが?」
「ええ。『高いところの物が踏み台なしで取れるようになった』って喜んでいたわぁ」
「……マリアさん凄い」
「タウラが作った魔力増強剤のおかげだねぇ」
「ふふ」
タウラが嬉しそうに笑う。
「そろそろ《極み》に変えようかと、ミゼル様と相談しているのよぉ」
「へへ……」
タウラの頬が緩む。
「嬉しい。ミゼル様が認めてくれた……」
そして拳を握る。
「もっと頑張って、《極み》の上――《スーパー》を完成させなきゃ」
(……こりゃ)
セシリーは遠い目をした。
(成人する前に、本当に無限の魔力を手に入れそうだわねぇ……)
僕たちは空へ飛び上がった。
眼下に広がる森を抜け、街道から分岐する細い道を目指す。
「あ、ここだ!」
エルザが声を上げる。
街道脇の木々が、不自然に途切れている。
「上手くクランク状に木を切り倒して、馬車が通れるようにしてある。上から見たら丸分かりね」
タウラが感心したように言う。
「街道から見れば、馬車の先頭くらいしか入れない。それに周囲は木だらけ。この先に道があるなんて、普通は思わないわね」
「へぇ……なかなかやりるわねぇ」
セシリーも感心する。
クランク状の入り口を抜けると、その先には多少手の入った道が続いていた。
「……金も手間もかかってるぞ」
「一盗賊団だけで作ったとは思えない」
タウラが周囲を見回す。
「かなり大掛かりね」
「……貴族絡みだわ」
エルザが断言した。
山の裏側へ回り込む。
そこで――。
「……見えた」
眼下に広がっていたのは、複数の建物。
その周囲には、何台もの荷馬車が並んでいる。
もはや盗賊の隠れ家というより――。
「もう宿場町みたいだねぇ」
セシリーが呟いた。
「奥にも道が続いてる!」
リフレインが目を凝らす。
「リフ、見てきて!」
「ガッテン!」
リフレインは一気に速度を上げた。
道沿いに飛び、高度を上げる。
さらに上空へ。
「……街道と並行してる?」
遠くに一本の道が見えた。
「旧街道かな?」
その道は、王都サマリヤ方面へ伸びている。
「ここまで分かれば十分だ!」
リフレインは仲間のもとへ戻った。
盗賊の拠点を見下ろせる山の中腹。
三人は木々の陰に身を潜めていた。
「……まったく」
リフレインが隠れている地点見つけ見下ろす。
「あいつらを探すのは骨が折れる。魔力をほとんど漏らさないんだもの」
「あ、帰ってきた」
エルザが顔を上げた。
「ちぇっ」
リフレインが残念そうにする。
「気配を消して、そっと後ろに降りたのに……エルには見つかるか」
「ふふ」
エルザが笑う。
「まだまだ修行が足りないのよ、リフは」
「もっと力をつけないと――」
タウラがニヤリと笑った。
「お風呂場も覗けないわよ?」
「な、なんてこと言うんだ、タウラさん!」
リフレインの顔が一気に赤くなる。
知らず知らずのうちに、全身から汗が噴き出していた。
(……完全に見透かされてる)
「では、襲撃前の作戦会議といきましょうかぁ」
「「「はい!」」」
セシリーが拠点を指差した。
「働いている人たちを見てごらんなさい」
「ここからじゃ遠くて、よく見えないよ」
リフレインが目を細める。
すると――。
タウラが大きなため息をついた。
「……あんたの目は節穴か!」
「え?」
「魔力を目に集中させて見るのよ!」
「それくらい分かって――」
「バカ!」
「バカは余計だ!」
「ギャッ!」
タウラのチョキの指がリフレインの目に突き刺さった。
「目が! 目がぁぁぁ!」
リフレインが目を押さえて地面を転げ回る。
「リフ騒ぐと見つかる」
リフレインは口を押さえて地面を転げ回る。
セシリーが呆れる。
だが、エルザは拠点をじっと見つめていた。
「……奴隷の首輪」
その一言で、空気が変わった。
「ええ」
セシリーが頷く。
タウラも表情を引き締める。
「馬車を襲って人を攫い、奴隷としてこの拠点で働かせている」
エルザの目が細くなる。
「そして……奴隷商もいる」
「でしょうねぇ」
「なら、それを許可している人間がいる」
タウラが続けた。
「ただの盗賊団じゃない」
「……貴族」
エルザが呟いた。
「私もそう思う」
タウラが頷く。
「これは少々、大事になりそうだねぇ」
セシリーが腕を組んだ。
「まずここを潰す」
タウラが言う。
「そして情報を抜き取る。上にいる人間がいたとしても――せいぜい二、三人」
その声から、子供らしい無邪気さは完全に消えていた。
「お日様の下へ引きずり出せないなら……」
タウラが薄く笑う。
「闇の中で葬ればいい」
「……」
セシリーが目を細める。
エルザも黙ってタウラを見る。
「さすがタウラだ」
リフレインが復活した。
「僕も協力するよ!」
タウラとエルザは、同時にリフレインを見る。
(……もう復活したの?)
(……こいつ、打たれ強すぎる)
二人の視線が交差する。
そして――。
同じことを思った。
(やっぱり、リフはリフだ)




