初めての冒険者登録
しゃべるオークを撃退した僕たちは、そのまま冒険者用の小物を揃えることになった。
小ぶりのウエストポーチ。
獲物を解体するための大型ナイフ。
ちょっとした傷なら治せる傷薬。
どれも冒険者として活動するなら必要になるものらしい。
買い物をしている間、マリアさんは何度も僕たちにお礼を言ってくれた。
「本当にありがとうね、みんな」
「い、いえ……」
何度も感謝されると、なんだか気恥ずかしい。
僕は頭を掻きながら、視線を逸らした。
――ところが。
一階の売り場へ戻った瞬間、マリアさんの様子が一変した。
「…………」
無言で店内に備え付けられていた台車を取り出す。
そして――。
「これも……これもね」
値札を見る。
商品を取る。
カゴへ入れる。
値札を見る。
商品を取る。
カゴへ入れる。
値札を見ることをやめた。
「……これも」
ポイ。
「これも必要ね」
ポイ。
「これも……」
ポイ。
ポイ、ポイ、ポイ。
まるで何かに取り憑かれたかのような買い物だった。
その顔には、鬼気迫るものすらある。
「……マリアさん?」
「ふふふ……」
「怖っ!」
思わず後ずさる。
「日頃のストレスよ」
エルザが淡々と言った。
「リフのせい」
タウラが即答する。
「なんでだよ!」
「マリアさんに聞いてみれば?」
「…………」
僕は黙った。
(もし聞いて、本当に僕が原因だと分かったら……)
怖い。
とてもじゃないが聞けない。
「リフがお利口になればいいんだよ」
エルザが追い打ちをかけてくる。
「……ぐっ……結局それかよ」
僕が肩を落としていると、救世主の声がした。
「お前たち、お菓子はいらないのかい?」
「「「いるー!」」」
セシリー様だけは、僕たちの楽しみを忘れていなかった。
「じゃあ、早く選んでおいでぇ」
「「「はーい!」」」
僕たちは一斉にお菓子売り場へ向かった。
「おっ! この焼き菓子、美味しそう!」
僕が袋入りの焼き菓子を手に取る。
「タウとエルは?」
「私たちは飴玉よ」
「飴玉?」
「飴玉なら、溶けるまで口の中で甘い味を楽しめるのよ」
エルザが妙に真剣な顔で説明する。
「焼き菓子は噛んで飲み込んだら、それでおしまい」
今度はタウラが腕を組み、得意げに言った。
「つまり――」
「つまり?」
「コスパなら飴玉の勝ちよ」
なるほど。
確かにそう言われると、飴玉のほうがお得な気がしてくる。
「……そっか。コスパは飴玉のほうがいいのか」
「そういうことよ」
「じゃあ僕も飴玉にする」
僕が焼き菓子を棚に戻す。
こうして僕たちは、全員そろって飴玉を選んだ。
その様子を見ていたセシリー様が、ぽつりと呟いた。
「ミゼル様ぁ。あの子たち、普通に異世界語を使ってますよぉ」
「うむ。良い傾向じゃ」
ミゼル様は満足そうに目を細めた。
「この世界の常識に囚われず、自由な発想を持つ。それが成長に良い影響を与えておるのじゃろう」
マリアさんが戻ってきた。
「ふう……八年ぶりのお買い物、楽しかったわ!」
台車には、もはや何人分なのか分からないほどの商品が積まれている。
「満足しましたぁ?」
「はい! ミゼル様、セシリー様、本当にありがとうございます!」
満面の笑みだった。
さっきまでの鬼気迫る顔が嘘のようだ。
「セシリー様。お買い物は終わりですか?」
「そうだねぇ。タウラ、買い忘れた物はないかい?」
「はい。必要な物はすべて揃いました。これもミゼル様、セシリー様、マリアさんのおかげです」
タウラが頭を下げる。
僕たちも続いた。
「「「ありがとうございます!」」」
三人の声が重なる。
セシリー様は嬉しそうに笑い、僕たちの頭を順番に撫でた。
ミゼル様は満足げに目を細める。
そしてマリアさんは――。
「……大きくなったわね」
目元をそっと拭った。
「よし! 次に行くよぉー!」
「「「おーーー!」」」
セシリー様に合わせ、僕たちも拳を空へ突き上げる。
「……って、どこに行くんですか?」
「バカね、リフは」
タウラが呆れたように言った。
「冒険者ギルドで登録するのよ」
(くそ……タウラめ。いちいち僕をバカ呼ばわりしやがって)
「ミゼル様、セシリー様、マリア様。当店をご利用くださり、誠にありがとうございます。またのご利用を、従業員一同、心よりお待ちしております」
帰り際、わざわざ挨拶にやって来たのは店のオーナー、バゼルだった。
客一人ひとりを最後まで見送る。
その細やかな気配りこそが、彼を今の地位まで押し上げた理由の一つなのだろう。
「また来るから、よろしくねぇ」
セシリー様が軽く手を上げる。
「もちろんでございます」
バゼルと数名の従業員が揃って頭を下げた。
最後の最後まで、バゼル流の気遣いが行き届いていた。
僕たちは、買った冒険者用の服に着替えていた。
胸には革鎧。
ベルトには新しく買ったポーチ。
ただし――武器だけは持っていない。
今の僕たちは、冒険者登録前。
どれだけ強くても、まだただの八歳の子供なのだ。
「あそこだよぉ」
セシリー様が道路の向こう側を指差した。
「あ、すぐそこだ!」
「近いんだね」
「歩かなくて済んだ」
「なんだよタウ。一日中走っても疲れないだろうが!」
「それはリフも同じでしょう?」
エルザが冷静に指摘する。
「……そうでした」
僕たちの目の前には、大きな建物がそびえていた。
「うへぇ……ここも大きいや」
「盾の前で、剣と杖が交差しているね」
大きな看板が目立っている。
「いかにも冒険者って感じね」
「じゃ、入るよぉ」
「「「はーい」」」
セシリー様が扉へ向かう。
その時――。
「ミゼル様は?」
セシリーが尋ねる。
「うむ。わしは行かぬ。ウザ絡みされそうじゃ」
「ですよねぇ」
セシリー様も納得したらしい。
そしてマリアさんを見る。
「私が行っても、何の役にも立ちませんから……」
「だよねぇ。じゃあマリアは、ミゼル様と向かいの食事処――『魔王の胃袋』で飲みながら待っててぇ」
「はい」
セシリー様は、マリアさんの耳元へそっと顔を寄せた。
「ミゼル様ねぇ。ああ見えて結構寂しがり屋さんだから、マリア頼んだわよぉ」
「え? ……あ、はい」
「ミゼル様、また後でぇ」
「うむ。早く終わらせるのじゃ」
「お前たち、行くよぉ」
「「「はーい」」」
セシリー様が扉を押し開ける。
その後ろを、僕たち三人が手を繋いでついていく。
――その瞬間。
「おい、あれを見てみろよ!」
「なんだ? ガキ連れで依頼を受けるつもりか?」
「ギルドは託児所じゃねえぞ!」
「おととい来やがれ!」
酒場の隅でエールを煽っていた冒険者たちが、ゲラゲラと笑い出した。
周囲の冒険者たちは、露骨に目を逸らしている。
――関わりたくない。
そんな空気がギルド内に漂った。
すると。
ズンッ。
一人の大男が立ち上がった。
熊を思わせる巨体。
その男がセシリー様の前まで歩いてくる。
そして――。
「セシリーさん! お久しぶりです!」
「「「「「お久しぶりでーす!」」」」」
周囲の冒険者たちまで立ち上がり一斉に声を上げた。
「おっ! ゴンザレス君かぁ。調子はどう?」
「お陰様で、無事に冒険者を続けられています!」
「そう。それは良かったねぇ」
「ありがとうございます!」
セシリー様が周囲を見渡す。
「君たちも怪我には気をつけてよぉ」
「あ……ありがとうございます……」
たった一言。
それだけで、数人の冒険者が目元を潤ませた。
「セシリー様、凄く慕われていますね」
エルザの目がキラキラと輝いている。
「私がここを訪れた頃は、毎回誰かをぶっ飛ばしてたねぇ」
「へー。さすがセシリー様」
「そこのゴンザレス君も、当時は駆け出しでねぇ。イキって、よく私に絡んできたのよぉ」
(……たぶん、違う意味で絡んでいたんだろうな)
セシリー様は、どう見ても魅力的な女性だ。
タウラとエルザも同じことを考えたらしい。
「毎回ボコボコにして、最後にミゼル様特製のポーションをかけてやってたら、完全に懐かれてさぁ。色々教えてあげたんだよぉ」
「へー。この熊みたいな人がね」
「今じゃ、このギルドの稼ぎ頭じゃない。もうすぐAランクになるんじゃない?」
「セシリーさん……昔の話はやめてくださいよ」
「ここまで頑張ってきたんだもの。誇っていいんじゃない、ゴンザレス君」
「はい! ありがとうございます、セシリーさん!」
「じゃあねぇ」
僕たちは受付へ向かった。
受付カウンターには、すでに四、五人ほど並んでいる。
最後尾に並ぼうとすると――。
「あ、セシリーさん。どうぞ先に」
「俺たちは急ぐ用事じゃないんで」
「そうそう。先にどうぞ」
「……いいの?」
「もちろんです」
セシリー様は少し困ったような顔をした。
「じゃあ、お言葉に甘えるねぇ。ありがとう」
「どうぞ、どうぞ」
こうして僕たちは、あっという間に受付嬢の前まで辿り着いた。
「セシリー様! 冒険者ギルドへようこそ!」
「チャチャ、久しぶりねぇ」
「はい! セシリー様、お待ちしておりましたわ!」
そして、僕たちを見るなり――。
「あら?」
チャチャさんの視線が僕たちへ向いた。
「この子たちは?冒険者登録でしょうか?」
「さすがチャチャねぇ。その通りよぉ」
「まあ!」
チャチャさんは僕たちを順番に見た。
茶髪にグレーの瞳の男の子。
金髪に青い瞳の女の子。
そして自分と同じ猫獣人。
黒髪、黒い耳、黒い尻尾、金色の瞳。
「皆さん、可愛いですわね。それに……三人とも前髪がぱっつんで短髪」
「髪の毛は、強くなるまで伸ばさないんだって」
「え?」
エルザとタウラが答える。
「森の中を走る時、引っ掛かるから」
「戦闘中に髪を掴まれると、頭や顔に攻撃を受けるでしょう」
「…………」
チャチャさんの笑顔が固まった。
(……なんでしょう。この子たち……)
そんな顔をしている。
「同族の方ね。エル、知ってる?」
「知らない人だよ」
リフレインが、お姉さんを凝視しているのがエルザに見つかった。
「あーっ! リフが、お姉さんの胸ばかり見てる!」
「なっ! ち、違うって! エルザ!」
「ドスケベ、リフレイン」
「タウ! 誤解だって!」
チャチャさんがクスクス笑う。
「ふふっ。やっぱり男の子ですわね」
「ぼく、触ってみる?」
「えっ!? 本当にいいんです――」
ドガッ!
「痛い……」
僕の頭に衝撃が走った。
いつの間にかタウラが、丸太を持って立っている。
「こらこら。いつもマリアに言われているだろ」
「はーい。ごめんなさい。でも、リフが悪い」
「私もリフレインが悪いと思います、セシリー様」
「チャチャも子供をからかっちゃダメだよぉ」
「す、すみません! つい可愛くて……」
チャチャさんは咳払いをして、受付へ向き直った。
「では、冒険者登録ですね」
完全に誤魔化した。
「みんな、字は書けるよね?」
「「「はーい」」」
三人に登録用紙が渡される。
名前。
年齢。
住所。
「セシリー様。住所ってありますけど……」
「ああ、それねぇ。分からないところは書かなくても大丈夫よぉ」
「私は『大森林』って書いたわ」
エルザが迷いなく書き込む。
「私は『ミゼル様の家』」
タウラも続く。
「得意なこと……」
僕は少し考えた。
「大体なんでもできるけど……やっぱり剣かな」
「私は格闘技」
「私は、お裁縫よ」
タウラが書いた。
(こいつ……平気で嘘を書きやがった)
タウラの裁縫は三人の中で一番下手糞だった。
むしろ薬草から猛毒薬を作っている時の、あの嬉しそうな顔のほうが印象に残っている。
(怖くて言えないけど)
実際、何度か盛られたし……。
チャチャさんが用紙を確認する。
「では、お待たせしました」
三人分のカードが机の上に置かれた。
「あなたたちは今日からFランク冒険者です」
「Fランクでは街の外での活動は許可されていませんので、街の中でのみ依頼を受けることができます」
「ええーーっ!?」
僕は思わず声を上げた。
「魔物や盗賊、貴族の討伐はできないの!? 楽しみにしてたのに……!」
「…………」
チャチャさんの笑顔が引きつった。
(貴族の討伐って……)
(セシリー様、いったい何を教えていらっしゃるんですか!?)
「チャチャぁ。この子ら、マジで強いわよぉ」
セシリー様が笑う。
「大森林の魔物なんて、ほとんど狩ってるからねぇ」
「ですが、セシリー様。ギルドには規則がありますので……」
「そうだ!」
セシリー様が手を叩いた。
「あの筋肉ダルマに見てもらいましょう」
「……はぁ」
チャチャさんが深いため息をついた。
僕たちはギルドの訓練場――という名の、裏手にある広い空き地へやって来た。
「ワシがここのギルドマスター、アイアンウッドだ!」
大声を張り上げた筋骨隆々の男が、胸を張る。
だが、セシリー様を見ると――。
「あ、セシリー様! ご無沙汰しております!」
いきなり姿勢が正しくなった。
「ウッド君、お久しぶりぃ! この子たち、よろしくねぇ」
「もちろんでございます!」
「アイアンウッドっていうのはギルマスの二つ名で、本当の名前はウッドなんだよ」
「へぇ」
僕たちはアイアンウッドさんを眺めた。
「まあまあ、そこそこね」
「やり過ぎたら不味いわよ」
「頭さえ飛ばさなければ平気さ」
「お腹に大きな穴を開けてもダメだよ、リフ」
「…………」
横から聞こえてくる子供たちの会話に、チャチャさんの胸が不穏な鼓動を刻み始める。
「時間がもったいない。さっさと終わらせよう」
アイアンウッドさんが構えた。
「誰からでもいい。かかってきなさい」
「じゃあ、僕から……行きます」
僕は一歩踏み出した。
そして――。
すっ。
「……え?」
アイアンウッドさんの目の前から、僕の姿が消えた。
「なっ!?」
次の瞬間。
ドォンッ!
「…………」
「…………」
静寂。
チャチャさんが目を見開く。
「ギ、ギルマス……?」
返事がない。
アイアンウッドさんは、地面に仰向けで倒れていた。
セシリー様が駆け寄る。
「ウッド君、大丈夫ぅ?」
そして、頭からポーションをぶっかけた。
「…………」
「…………」
「ギルマスが……一撃?」
「何が起きた?」
「あの子、消えたように見えたぞ」
「おい……あのギルマスを倒したのか?」
ざわざわと冒険者たちが騒ぎ始める。
「次、私ね」
エルザが前へ出た。
「今度はマジで来い!」
アイアンウッドさんが立ち上がり、今度こそ本気で構える。
「エルザ、行きまーす!」
「なっ――消えた!?」
ドォンッ!
「…………」
また静寂。
そして――。
「ウッド君、大丈夫ぅ?」
セシリー様が、再びポーションを頭からぶっかけた。
「…………」
今度こそ、訓練場にいた全員が絶句した。
「あのギルマスが……」
「子供に手も足も出てない……」
「何をされたのか、まったく見えなかった」
「次の瞬間には、あの巨体が宙に浮いていたぞ……」
「ウッド君」
セシリー様がニコニコしながら声をかける。
「あと一人だよぉ」
「……はっ!」
アイアンウッドさんが顔を上げた。
「俺は……まだやれる!」
「おじさん。次は私ね」
タウラが前に出る。
「ん? この子は魔導師か……」
アイアンウッドさんがタウラを見据える。
「それなら、詠唱する前に――」
「行くわよ」
タウラの姿が消えた。
「なっ――」
ドゴォンッ!
またしても一瞬だった。
アイアンウッドさんの巨体が宙を舞い――地面へ落ちる。
「…………」
チャチャさんの口が半開きになった。
アイアンウッドさんは、しばらく空を見つめていた。
「俺の目には……何も見えなかった……」
セシリー様が笑う。
「懐に飛び込んで、顎に拳を突き上げただけだよぉ」
「……三人とも?」
「そう。三人ともねぇ」
アイアンウッドさんは、ゆっくりと三人を見た。
(間違いない)
(この子たちは、セシリー様の秘蔵っ子だ)
これだけの実力がある。
弱いはずがない。
「どうだったかなぁ?」
セシリー様が尋ねる。
「……はい」
アイアンウッドさんは立ち上がった。
「私の権限で、Cランクへの昇格を認めます」
「ありがとうねぇ」
「ただし、Bランクからは昇格試験が必要になります。私の権限では、ここまでです」
「いいのよぉ。気にしないでねぇ」
その瞬間――。
周囲の冒険者たちが騒ぎ始めた。
「さっき登録したばかりの子供がCランクだと!?」
「すげぇ! さすがセシリーさんの秘蔵っ子だ!」
「俺は見ただけで分かっていた。只者じゃないってな!」
そんな声が飛び交う中――。
「へっ。飛んだ茶番だな」
「ギルド総出で忖度かよ!」
「登録したばかりのガキを、いきなりCランクだと? このギルドも終わってんな!」
僕は振り返った。
さっき、ギルドに入った時にセシリー様を馬鹿にしていた連中だ。
「ん?」
その一人が、セシリー様を見下すように笑った。
「いくら大英雄の従者とはいえ、凄いのは大英雄様だろ?」
「お前はただの金魚のフンじゃねえか」
「ガハハハハ! 言えてるぜ!」
――空気が変わった。
僕の背筋に、冷たいものが走る。
こ、怖ぇ……。
セシリー様が――笑っている。
いつもの明るい笑顔。
なのに、なぜか怖い。
「……へぇ」
セシリー様は腰に手を当てた。
「そこまで言うなら、ちょっと試してみるかい?」
懐から金貨を取り出す。
チャリン。
「ここに金貨十枚ある」
「……金貨十枚だと?」
「この三人と模擬戦をして――」
セシリー様がニッコリ笑った。
「一人でも勝てたら、全部あげる」
冒険者たちの目が輝く。
「さらに――」
セシリー様は、三人の冒険者を見回した。
「この子たちのランクもFに戻す」
「……へへ」
「随分と太っ腹な姉ちゃんじゃねえか」
「よし、乗った!」
「決まりだな!」
「ただし――」
セシリー様が指を一本立てる。
「こっちは武器なし。魔法なし」
「一人ずつだ」
「なんだぁ?」
冒険者が鼻で笑う。
「そんなんで俺たちに勝てるのかよ?」
セシリー様は、ただ笑っていた。
「ハンディだよ」
その笑顔が、妙に優しかった。
「田舎の冒険者さん」
「……糞が!」
男が拳を握り締める。
「ぶっ壊してやるからな!」
「後悔しても遅いぞ!」
――その瞬間。
僕は思った。
(あ……)
セシリー様。
怒ってる。
しかも――。
たぶん、ものすごく。




