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タウラとリフレイン〜古の大英雄はマジで勇者を再現したい〜  作者: 2nd kanta


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18/24

クソガキ

「皆さま、まもなく終点、ナッツ停車場に到着します。お忘れ物のないようお願いいたします」


 車内に、到着を告げる声が響いた。


「うひょー! やっと着いた!」


 僕は勢いよく立ち上がった。


「……ケツいてぇ!」


 長かった。


 本当に長かった。


 尻の感覚がなくなるほどの長旅だった。


 ところが――。


「……ん?」


 ふと見ると、タウラとエルザが立ち上がらない。


「二人とも、ケツが痛くて立てないのか?」


「あんた、まだ気づかないの?」


 タウラが呆れた顔を向けてくる。


「……馬鹿だから?」


(なんてこと言うんだ、この鬼畜女!)


「やっぱり馬鹿だ」


「何だとぉー! コンチクショウ!」


 僕が抗議すると、タウラは僕が座っていた座席を指差した。


「魔力クッションよ」


「……え?」


 座席を見る。


 そこには薄い魔力の膜が張られていた。


 指で押せば、ぷよんと沈みそうなほど柔らかい。


「私が作ったの」


「いつの間に……?」


「あんたとマルクと、あそこの厳つい冒険者のおじさん以外には使ってもらってるわ」


「……え?」


 周囲を見渡す。


 マルクの両親が、申し訳なさそうに笑っていた。


「タウラちゃん、ありがとうね。おかげで全然痛くならなかったわ」


「本当に助かったよ。馬車に乗る前は覚悟していたんだけどね」


 先ほどまで眠っていた女性も、にこやかに頷いている。


「…………」


 つまり。


 知らなかったのは――僕とマルクだけ。


「……なんで僕は気づかなかったんだ」


「馬鹿だからよ」


「うわぁぁぁ!」


 僕は頭を抱えた。


 その様子を見て、エルザが苦笑する。


 ――その直後。


 馬車がゆっくりと速度を落とした。


 どうやら、本当に終点へ到着したらしい。


     


 馬車を降りる直前。


 マルクが僕たちの前に立った。


「俺……絶対に強くなります!」


 その顔は、先ほどまでとは別人のように真剣だった。


「そして、タウラさんとエルザさんの前に、必ず戻ってきます!」


「そう」


 タウラが頷く。


「でも、生半可な努力じゃ無理よ」


「……!」


「死に物狂いで努力しても、リフレインの背中が見えないかもしれない」


 マルクが僕を見る。


「こいつ……そんなに強いのか?」


 僕は苦笑した。


 するとエルザが淡々と答える。


「今は――子供の姿をした化け物よ」


「……」


「ただのスケベだけど」


(そこで全部台無しにするなよ、タウラ!)


 マルクの背中が、ぴくりと震えた。


 それでもタウラは笑っている。


「私たちもまだ成長期だからね。これからもっと強くなるよ」


「…………」


 マルクは拳を強く握り締めた。


「……分かりました!」


 そして僕たち三人に深々と頭を下げる。


「ありがとうございました!」


「未来の勇者様! 俺、必ずやり遂げます!」


「おー! その意気じゃ、マルク!」


 タウラが笑顔で拳を握る。


 マルクの顔が一瞬で真っ赤になった。


「最後に……握手、よろしいでしょうか?」


 タウラ。


 エルザ。


 そして――僕。


 三人と順番に握手を交わしていく。


 だが。


 なぜかマルクは、僕の前に来た途端、妙に険しい顔になった。


「リフレイン」


「なんだよ?」


「俺は必ず強くなって帰ってくる」


「……おう」


「そして――」


 マルクは僕を真っ直ぐ見据えた。


「タウラさんに認めてもらうんだ」


「…………は?」


 一瞬、意味が分からなかった。


 だが――すぐに理解した。


(こいつ……タウラのこと、気に入ったのか?)


 思わず笑いそうになる。


 僕はマルクの手を握った。


「マルク」


「なんだ?」


「一つだけ忠告しておく」


「……?」


「タウラの本性は鬼畜だ」


「ちょっと!」


「鬼畜外道魔導師だ。絶対に忘れるな!」


「リフレイン!」


 背後からタウラの怒鳴り声が飛んでくる。


 僕たちはその声を背中に受けながら、馬車を降りた。


 マルクの両親は、最後まで何度も頭を下げていた。


 ……まあ、大英雄の前なんだから仕方がない。


 僕だって、同じ立場ならそうする。


「何言ってるのよ」


 タウラが呆れた声を出した。


「あんた、いつも怒られてセシリー様に拳骨をもらってるでしょう?」


「…………」


 ぐっ。


 余計なことを……!


(クソッ、タウめ……!)


 せっかく最後くらい格好よく決めたかったのに。


 ふとマルクを見る。


 ……ニヤニヤしている。


(ほら見ろ!)


 僕は深いため息を吐いた。


 ――どうやら最後まで、僕の格好いいところは見せられなかったらしい。


     


「おい、ガヤ! 大丈夫か?」


 大剣を背負った大男が、フードを被った女性の身体を支えながら、人混みの中へ紛れ込んでいく。


「ゴンズ……私、もうやっていけないよ……」


「ガヤ、しっかりしろ!」


「もうイヤ……お仕事したくなーい……」


 ガヤは虚ろな目で笑った。


「私、お家に帰る……。お父ちゃんとお母ちゃん、待ってるかなぁ……」


 完全にやられていた。


 無理もない。


 セシリーの殺気をまともに浴びたのだ。


(あんなもん、俺だって耐えられねぇぜ……)


 ゴンズは遠い目をした。


 何しろ――。


 王太子の娘も。


 乳母の女も。


 さらに潜伏させた奴隷の獣人も。


 全員、ぴんぴんしている。


(……村一つ潰して、結局、何一つ達成できてねぇじゃねぇか!)


 ゴンズは頭を抱えた。


 いや。


 一つだけ成果がある。


(まあ……邪魔だった闇ギルドが消滅したくらいか)


 それだけだった。


     


 その頃、僕たちはナッツの街を歩いていた。


 僕とタウラはマリアさんと手を繋いでいる。


 その少し後ろを、エルザがトボトボとついてきていた。


 ……なんだろう。


 僕には、少し寂しそうに見えた。


「エルザ。ほれ、手を出しなぁ」


「セシリー様……」


 エルザの顔が、一瞬で明るくなる。


 差し出された手を、セシリー様が握った。


「マリアは三本も手がないからねぇ」


「ふふっ」


 エルザが笑う。


 それを見て、僕も少し安心した。


「マリアさん。これからどこへ行くんですか?」


「お買い物ですよ」


「「お買い物?」」


「バゼルの店というところです。セシリー様がよくご存じのお店だそうですよ」


「いろんな物が並んでいるんだね」


「楽しみだね」


「剣とかもあるのかな?」


「冒険者装備も充実しているわぁ」


 タウラの目が輝いた。


 もちろん、タウラだけではない。


 三人とも、すっかり楽しみにしている。


「煙玉あるかな?」


「煙玉?」


「改良して、痺れ薬とか毒薬を混ぜて使うのよ」


「さすがタウラね。狩りが楽になるわ」


「多数の敵を相手にするときも有利に進められる」


「それは良いなぁ。完成したら私にも使わせておくれぇ」


「もちろんです!」


 セシリー様まで乗ってきた。


 ……この人たちは、何の相談をしているんだろう。とマリアは思った。


 少し歩くと、三階建ての立派な建物が見えてきた。


 正面は大きなガラス張り。


 入口には十人ほどの人が並んでいる。


「あれがバゼルの店よぉ」


「すっげぇー!」


「人がいっぱい並んでるよ」


「えっ、また並ぶの?」


 そんなことを言うのは、もちろんタウラだけだ。


「大丈夫よぉ。ミゼル様の名前を出せば、真っ先に入れてくれるわぁ」


「……セシリー。わざわざ並んでいる列を乱さなくても、すぐに入れるじゃろう」


「そうですわ。こうして並ぶことも、この子たちの社会勉強になります」


「お前たち、騒いだらダメだからねぇ」


「「「はーい」」」


「ん。素直でよろしい」


 しばらくして、ようやく僕たちの番が来た。


「あっ――僕、お金持ってない!」


 今さら騒ぎ出した僕に、タウラとエルザが呆れた顔を向ける。


「バカねぇ。リフにお金を持たせたら、すぐに無くしちゃうでしょう?」


「マリアさんかセシリー様が持っているはずよ」


「……そうなんだ」


 僕は初めて知った。


「騒がず、お利口にしていれば、好きなお菓子を一つ買ってあげるわよぉ」


「さすがセシリー様!」


「僕はお利口です!」


「私もお利口です!」


 三人とも、即座にお利口宣言をした。


     


 店内に入った瞬間。


 僕たちは、商品の多さに圧倒された。


「うわぁぁ! すっげぇ!」


「床から天井まで商品があるよ!」


「ふふ……探しがいがあるわね」


 一階には食料品や生活雑貨。


 二階には冒険者用品。


 三階には貴族向けの商品が並んでいるらしい。


「お久しぶりでございます、ミゼル様。セシリー様。そして……あの時のお子様方でしょうか? まあ、大きくなられましたなぁ」


 現れたのは、小太りで愛想のいい男だった。


 見るからに商人。


 この店の主人、バゼルだ。


「バゼル。ずいぶん大きくなって、儲かっているねぇ」


「いえいえ、毎日がカツカツでございます」


「まあ、社交辞令と受け取っておきましょう」


 セシリーはさらりと流した。


「今日はこの子たちの冒険者装備を揃えようと思っているのよぉ。それと布生地各種。あとは店を見てからだねぇ」


「承知いたしました。それでは、まず二階へどうぞ。各種冒険者用品を取り揃えております」


「お前たち、二階へ行くよぉー」


「「「はーい」」」


「おお、元気な返事ですなぁ」


     


 二階へ上がると、武器、防具、道具が所狭しと並んでいた。


「うおーっ! すげぇ!」


 僕は武器売り場へ駆け寄った。


「全く、リフはお子様なんだから」


「男の子なんだね」


 エルザとタウラが笑う。


「うーん……」


 僕は腕を組み、真剣に武器を見比べる。


「何してるの?」


「大剣がいいんだけど……」


「今のあんたの身体より大きいじゃない」


「ああ。振り回せるけど、背負うと地面を引きずる」


「ロングソードも腰に下げたら引きずるわよ」


(だよな……引きずるのは格好悪い)


「じゃあ、大剣みたいに背中に背負えば?」


「それだ! エルザ、ありがとう!」


(……今まで気づかなかったんだ)


「私は……短剣二本で二刀流にしようかな?」


「エルは手先が器用だから、似合うんじゃない?」


「二刀流か……格好いいぞ、エルザ」


 一方、タウラは大量の武器を眺めている。


「タウラと言えば、やっぱり丸太だよな」


「リフ、今でもタウに丸太で殴られてるもんね」


 エルザがケラケラ笑う。


「丸太は手に馴染むけど……乙女じゃないでしょ」


(やっぱり馴染むんかい!)


「なら、殴る専門でメイスか金棒だね」


「でもなぁ。私のイメージじゃない気がする」


(いえ。あなたそのものですよ)


「じゃあ、頭が重くて、殴っても折れない杖なら魔導師らしくていいと思うよ」


「杖か……そうするわ。エルザ、ありがとう」


「なんも、なんも」


 こうして、三人のメイン武器が決まった。


 服もすぐに決まった。


 防具はすでに持っている。


 ミゼル様お手製の品で、使いやすく頑丈だ。


「僕はもういいかな。帯剣用ベルトも買ったし」


「私も」


 エルザも頷く。


「新しく必要なものは、もうないわね」


「タウ、煙玉は?」


「三箱買ったわ。あとは自分で作れると思う」


 ショーケースに並ぶロングソードを見つめるセシリー様が、僕の目に入った。


「セシリー様は、ロングソードですか?」


 声をかける。


「私の剣はオーダーメイドだよぉ」


「オーダーメイド?」


「腕のいい鍛冶師に作ってもらっているのさぁ」


「わあ、凄い!」


「じゃないと、すぐ折れちゃうからねぇ」


 何でもないことのように言うセシリー様。


(やっぱりセシリー様は格好いい!)


 ――そのとき。


 後方から、耳障りな声が響いた。


「お前は……マリアなのか? 今までどこにいた!」


 振り返る。


 そこには、オークのような顔をした男が立っていた。


 男は偉そうにマリアさんへ詰め寄っている。


「みんな見て! オークだよ!」


「本当だ。醜いオークだわ」


「でも、小さいね」


「ぷっ……オークか」


 セシリー様は肩を震わせて笑いを堪えている。


 男の顔が引きつった。


「あなたは……スチアート・ゲブ……」


「そうだ! スチアート・ゲブ! お前の婚約者だ!」


「「「ええええっ!?」」」


「マリアさん、オークと婚約してたんですか!?」


 僕には意味が分からない。


 隣のタウラに尋ねる。


「婚約者って何?」


 タウラは深いため息をついた。


「婚約者とは、結婚の約束をした人のことよ」


「ええーっ! 人と魔獣のオークって結婚できるの!?」


 僕の声に、周囲の客たちから笑いが起こった。


「おいおい、リフレインよぉ。アヤツはああ見えて、一応、人族のはずだぁ?」


「セシリー様、疑問形になってます」


「セシリー様でも分からないことがあるのね」


「すげぇな。喋るオーク」


 さらに笑いが広がる。


「貴様らっ!」


 スチアートが顔を真っ赤にした。


「この俺を、子爵家を馬鹿にするのか!」


「オークでも貴族なんだ?」


「リフ。魔物に爵位は無いわ」


「なるほど。じゃあ僕が退治する」


 僕は背中の剣に手をかけた。


「待て!」


 スチアートが慌てて叫ぶ。


「貴族に手を出したら、どうなるか分かっているのか!」


 タウラが首を傾げた。


「ねえ」


「なんだ!」


「あなた、爵位は持ってるの?」


「…………」


「さっきから『貴族』『子爵家』って言ってるけど、あなた自身の爵位は?」


「……爵位は、まだない」


「じゃあ、あなたは子爵じゃないのね?」


「俺は子爵家の人間だ!」


「うん。それは聞いた」


 タウラは頷いた。


「でも、『子爵家の人間』と『子爵』は別でしょう?」


「……っ」


「あなた自身には爵位がない。なのに『貴族に手を出すな』と言っている」


「俺は子爵家の――」


「それ、何回言うの?」


「なっ……!」


「子爵家に生まれたことが、あなた自身の爵位になるなら、子爵家の赤ん坊も子爵なの?」


「…………」


「使用人が子爵家で働いていたら、その人も貴族?」


「そ、それは……!」


「違うなら、あなたも同じでしょう?」


「ぐっ……!」


 スチアートの顔が赤くなる。


 タウラはさらに続けた。


「じゃあ、次」


「まだあるのか!?」


「あるわよ」


 即答だった。


「あなたはさっき、マリアさんを『俺の婚約者』って言ったわよね?」


「そうだ!」


「マリアさんは?」


 タウラがマリアを見る。


「私は婚約しておりません」


「だってさ」


「そんなもの、俺が認めるか!」


「認めるとか認めないとかじゃなくて……」


 タウラは呆れたように肩をすくめる。


「婚約って、二人でする約束でしょう?」


「……!」


「片方が『違います』って言ってるのに、もう片方だけが『俺たちは婚約している』って言ったら成立するの?」


「俺たちは八年前に――」


「八年前?」


「そうだ!」


「じゃあ、その後は?」


「…………」


「マリアさんは八年前に鬼籍に入ったことになっている。あなたも、それを知っていた?」


「……知っていた」


「じゃあ、八年間、死んだことになっている女性と婚約していたの?」


「違う!」


「違うなら、いつまで婚約していたの?」


「…………」


「答えられないんだ」


「違う!」


「じゃあ聞くけど――」


 タウラの目が細くなる。


「マリアさんが死んだことになった時点で、あなたは『婚約は終わった』と扱っていたんでしょう?」


「…………」


「それとも、死んだ人間と八年間婚約し続けていたの?」


「そんなわけが――」


「じゃあ、終わってるじゃない」


「…………っ!」


 完全に言葉に詰まった。


 だが、スチアートは最後の抵抗を見せる。


「そ、それでもマリアは生きていた! なら婚約は――」


「どうして?」


「何?」


「マリアさんが生きていたら、八年前の婚約が自動的に復活するの?」


「……」


「婚約って、死亡したら一度消えて、生きていたら勝手に復活するものなの?」


「…………」


「もしそうなら、今度から死人が蘇ったら、昔の婚約者を全員探さないといけないね」


 周囲から、吹き出す声が漏れる。


「そんな屁理屈が――!」


「屁理屈?」


 タウラが首を傾げる。


「あなたが『婚約者だ』って言うから、順番に確認しているだけだけど?」


「ぐっ……!」


「それに――」


 タウラがマリアを見る。


「マリアさんは、あなたと結婚する気があるの?」


「ありません」


「だそうよ」


「そんなもの、本人が勝手に決めることではない!」


「……は?」


 タウラの笑顔が消えた。


「じゃあ、誰が決めるの?」


「俺と子爵家が――」


「マリアさんの意思は?」


「…………」


「結婚する本人の意思は?」


「…………」


「必要ないの?」


「いや、そういう意味では――」


「じゃあ、必要なんだ」


「…………」


「なら、マリアさんは『嫌だ』と言っている」


 タウラは一歩近づいた。


「はい。これで終わり」


「……っ!」


「あなたが何を言っても、マリアさんは嫌だと言っている」


「俺は認めない!」


「認める必要があるのは、あなたじゃないでしょう?」


「……!」


「結婚するのはあなた一人じゃないんだから」


 沈黙。


 スチアートは完全に言葉を失っていた。


 それでも最後の最後まで、マリアを諦めようとはしなかった。


「マリア! 俺と結婚しろ!」


「お断りします」


「何だと!」


 ――シャリン。


 三つの刃が、ほぼ同時に鞘から抜かれた。


 僕はロングソードを構える。


 エルザは二本の短剣をだらりと下げる。


 タウラは新しく買ったばかりの杖を肩に担いだ。


 三方向。


 完全に逃げ道はない。


「貴族のくせに護衛もいないんだね」


 タウラが言う。


「……やっぱり寄生虫だ」


「貴様ら――!」


 タウラが一歩踏み出した。


 その時、マリアさんが静かに口を開いた。


「あなた達。店の中で刃物を振り回してはいけません。血や肉片が飛び散れば、他のお客様や店員さんにご迷惑がかかります」


「「「はーい」」」


 三人揃って素直に武器を収める。


「ふふ。素直な良い子たち」


(マリアさん……そこじゃないと思う)


 唯一の常識人だったはずなのに。


 エルザは思った。


 ――どうやら、この家で暮らしているうちに、何かが変わってしまったらしい。


 スチアートは、その場にへたり込んだ。


 緊張の糸が切れたのだろう。


「命拾いしたわね」


 タウラが冷たく言う。


「寄生虫」


「……!」


「マリアさんに嫌われてるのに、結婚すると言い張る」


「……」


「爵位もないのに貴族を名乗る」


「……」


「反論できなくなると『俺は子爵家の人間だ』を繰り返す」


「…………」


「しかも、本人が嫌だと言っているのに、認めない」


 タウラは首を傾げた。


「ねえ」


「……なんだ」


「あなた、本当に何がしたいの?」


「…………」


 答えられない。


「もう一度だけ言うわ」


 タウラの声が低くなる。


「二度とマリアさんに近づかないで」


「……イヤだ」


 スチアートが呟いた。


「俺は……諦めない……」


 ――その瞬間。


 僕が一歩前に出た。


「次は本気で頭を潰す」


「ひっ……!」


 エルザも静かに告げる。


「私も手加減できないよ」


「ひぃっ!」


 タウラは笑顔になった。


「それでも来る?」


「…………!」


 スチアートは手足をばたつかせるように立ち上がると、一目散に逃げ出した。


 その背中を見送りながら――。


 セシリー様が、ぽつりと言った。


「ミゼル様」


「なんじゃ?」


「子供たちは――」


 セシリー様は満足そうに三人を眺めた。


「立派なクソガキに育ちましたわぁ」


 ミゼルは三人を見る。


 タウラは腕を組み。


 リフレインは首を傾げ。


 エルザは苦笑している。


「……うむ」


 ミゼルは満足そうに頷いた。


「実験は順調じゃな」


「そこは喜ぶところなんですかぁ!?」


 セシリーの叫び声が、店内に響き渡った。


 

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