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タウラとリフレイン〜古の大英雄はマジで勇者を再現したい〜  作者: 2nd kanta


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初めての街

 馬車がゆっくりと速度を落としていく。


 ガタン、ゴトン――。


 車輪が石畳を踏むたび、今までとは違う振動が荷台へ伝わってきた。


 僕は荷台から身を乗り出した。


「……うわ」


 思わず声が漏れた。


 森とは、何もかもが違う。


 視界を遮っていた巨木がない。


 代わりに、左右には大きな建物が並んでいる。


 二階、三階……中にはそれ以上の高さを持つ建物まである。


 道には人が溢れていた。


 大人。


 子供。


 老人。


 商人らしき人。


 冒険者らしき人。


 武器を持った人。


 荷物を抱えて走る人。


 誰もが自分の目的を持って動いている。


「……人、多すぎない?」


 僕が呟く。


「多いね」


 エルザも窓から外を眺めている。


「森なら、この人数がいたら大騒ぎになるわ」


「そりゃそうだろ」


 タウラが当然のように答えた。


「こんなに人がいたら、大森林の獲物が逃げちゃうもの」


「そこを基準にするなよ……」


 僕が突っ込む。


 だが、タウラは真剣だった。


「だって、こんなに気配が密集してるのよ?」


「確かに……」


 エルザが頷く。


「魔力の流れも複雑ね。人が多いだけで、こんなに周囲の魔力が乱れるんだ」


「……」


 僕は二人を見る。


(やっぱり、こいつら普通じゃないな)


 僕も同じように感じている時点で、人のことは言えないのだが。


「見て!」


 タウラが突然、声を上げた。


「何?」


「あれ!」


 指差した先には、大きなガラス窓の店があった。


 透明なガラスの向こう側に、色とりどりの商品が並べられている。


「壁が透明だ!」


「違うわよ。ガラスよ」


 エルザが訂正する。


「ガラス?」


「うん。向こうが見えるように作ったもの」


「……なんで?」


「知らない」


「…………」


 三人で黙り込む。


 そして僕は、もっともらしく結論を出した。


「防御壁じゃないか?」


「何のために?」


「敵が来ても、こっちからは見えるだろ?」


「でも敵からも見えるよ?」


「……」


 確かに。


「じゃあ、罠かも」


「街って怖いわね」


「いや、たぶん違うと思う」


 エルザが呆れたように言った。


「お店って、あんなにたくさんあるんだ……」


 エルザが呟く。


 森では、必要な物は家にある。


 食料は採れる。


 服はマリアが用意してくれる。


 武器や道具はミゼル様やセシリー様が作ったものがある。


 金を使う必要なんて、ほとんどなかった。


 だから僕たちは知らなかった。


 人は――。


 こんなにもたくさんの物を、誰かから貰って暮らしているのだ。


「ねえ、あれ何?」


 タウラが別の店を指差した。


「パン屋じゃない?」


 店先から、香ばしい匂いが漂ってくる。


 僕の腹が鳴った。


「……」


 タウラとエルザが僕を見る。


「リフ、お腹空いたの?」


「……少しだけ」


「さっき朝ご飯食べたばかりじゃない」


「街の匂いが悪い」


「匂いのせいにするな」


 エルザが笑った。


「ねえ、あれ!」


 今度はタウラが別のものを見つけた。


 道端に立っている看板。


 そこには、見たこともない文字や絵が描かれている。


 僕が目を細める。


「武器屋だな」


「武器屋!」


 タウラの目が輝いた。


「見に行こう!」


「待て。今日はセシリー様が買い物する予定だろ」


「武器屋は買い物じゃないの?」


「……買い物だけど、今じゃない」


「残念」


 タウラは素直に引き下がった。


 ……こういうところだけは、妙に聞き分けがいい。


 そのとき。


「おい、見ろよ!」


 通りの向こうから、冒険者らしき男たちが歩いてきた。


 背中には大きな剣。


 腰には短剣。


 革鎧を身につけ、傷だらけの盾を持っている。


 僕たちは三人揃って、その姿を目で追った。


「……大きい剣」


 僕の口から自然と声が出た。


「あの人と同じ大剣ね」


 馬車の後方で腕を組み目を瞑っている。大きな男の人の横に立て掛けてある剣と同じだ。


 森で見る魔物の牙や角とは違う。


 人間が使うために作られた武器。


 その巨大な剣の鞘には、何度も戦いを経験したような傷が刻まれていた。


「強そうね」


 タウラが呟く。


「うん」


 僕は素直に頷いた。


 だが――。


「……でも、あの人」


 エルザが冒険者を見ながら首を傾げる。


「何?」


「魔力の扱いが雑」


「え?」


「あれだけ身体強化を使っているのに、魔力が外へ漏れてる」


 僕も目を凝らした。


 ……確かに。


 本人は隠しているつもりなのだろう。


 だが、僕たちからすれば、あまりにも分かりやすい。


「本当だ」


 タウラも気づいた。


「森なら一発で魔物に逃げられるわね」


「人の街で、それを言うなよ……」


 僕は思わず笑った。


 その瞬間だった。


 冒険者の男が、こちらを振り返った。


「……?」


 僕たち三人と目が合う。


 僕たちは慌てて窓から顔を引っ込めた。


「…………」


「…………」


「…………」


 三人で顔を見合わせる。


 そして――。


「目が合っちゃったね」


 タウラの言葉に僕たちは頷く。



 馬車は街の大通りを進んでいく。


 右を見ても人。


 左を見ても人。


 店の前には商品が並び、客と店員が声を掛け合っている。


 子供たちは親に手を引かれ、時々笑い声を上げながら歩いていた。


 その光景を、リフレインはぼんやりと眺めていた。


 ふと――。


 目の前を歩く親子が目に入る。


 父親が小さな男の子の手を握っている。


 母親は、その隣で笑っていた。


「……」


 不思議だった。


 羨ましい、という感情は湧かなかった。


 ただ――。


(あれが……普通の家族なんだろうな)


 僕は、しばらくその親子を目で追った。


 そして。


「……なんとなく、分かるような気がする」


「何が?」


 タウラが尋ねる。


「マリアさんが教えてくれたこと」


「……ああ」


 エルザも静かに頷いた。


 家族とは何なのか。


 人と人がどうやって暮らしていくのか。


 誰かを助けるとはどういうことなのか。


 それらを僕たちは、ほとんど森の中で教わってきた。


 街へ来るのは今日が初めてだ。


 なのに――。


 初めて見るはずの景色が、どこか懐かしく感じる。


「マリアさんのおかげだね」


 エルザが微笑む。


「そうね」


 タウラも頷いた。


「知識があれば、初めて見る場所でも怖くないもの」


「……」


 僕は二人を見る。


 そして、少しだけ笑った。


 その言葉を聞いていたマリアも、静かに微笑んでいた。


 


「ミゼル様」


 セシリーが隣から声を掛ける。


「なんじゃ?」


「皆んな、随分と楽しそうですわね」


「……そうじゃな」


 ミゼルは窓の外を眺める三人を見る。


 タウラ。


 リフレイン。


 エルザ。


 ほんの少し前まで、森の中で生きることしか知らなかった子供たち。


 今は、自分たちの目で街を見ている。


 自分たちの頭で考え、疑問を持ち、答えを探している。


「……うむ」


 ミゼルは小さく頷いた。


 その表情には、いつもの研究者としての冷静さとは違うものがあった。


「実験は、順調じゃ」


 セシリーが嬉しそうに笑う。


「はいですわぁ!」


「……褒めてはいない」


「でも嬉しいですわぁ!」


「……そうか」


 ミゼルは、それ以上何も言わなかった。


 そのとき。


「ねえ、ミゼル様!」


 タウラが振り返る。


「何じゃ?」


「あの店、何のお店?」


「……知らん」


「じゃあ、あっちは?」


「知らん」


「あそこは?」


「知らん」


「ミゼル様でも知らないことがあるんだ!」


「…………」


 ミゼルの眉が、ほんの少しだけ動いた。


「タウラ」


「はい?」


「街に着いたら、好きなだけ見てくるがよい」


「本当!?」


「ただし――」


 ミゼルが淡々と続ける。


「騒ぎは起こすな」


「「「はーい!」」」


 三人の声が、馬車の中に響いた。


 そして馬車は、大勢の人々が行き交うナッツの街を進んでいく。


 


 

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