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タウラとリフレイン〜古の大英雄はマジで勇者を再現したい〜  作者: 2nd kanta


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15/24

初めての馬車

 この村はシード村と言うとこらしい。


 入り口の門に書いてあった。


 馬車の停車場に着くと、待合室には五人ほどの人族がいた。


 初めて見る人族だったが、僕は特に感動もなかった。


 大人の男女と、僕と同じくらいの年頃の男の子。


(あれが親子ってやつなんだろうな)


 そう思っただけで、特に羨ましいとも思わなかった。


 その隣には、大剣を背負った大男がいる。


(あれが冒険者なのか……。デッカい剣、カッケぇな)


 そして、もう一人。


 フードを深く被った女の人がいた。


(なんだ? 魔力の扱いが雑だな。何がしたいんだか、よく分からない)


「へえ、いろんな人がいるんだね」


「そうですね、タウラさん」


 僕の一言を聞いた瞬間、タウラが何かに気づいたような顔をした。


 さすが、僕の舎弟。


 そう思った次の瞬間――。


「いっ!」


 僕のお尻に、強烈な蹴りが飛んできた。


 振り返ると、タウラが何食わぬ顔で立っている。


(蹴ったな……)


 なんて野蛮な女なんだ。


 僕は心の中で、そう断じた。


 僕とタウラは、マリアさんに手を繋がれて待合室の中へ入っていく。


 エルザ曰く――。


『あんた達がいつも勝手に動き回るからでしょ!』


 とのことだ。


(僕たちは子供か!)


 ……まあ、タウラは間違いなくお子ちゃまだけどな。


「痛って!」


 また蹴られた。


 どうやら僕の考えていることは、タウラには筒抜けらしい。


 そんなやり取りをしているうちに、表通りに馬車が止まった。


 二頭立ての馬車だ。


「おお!」


 僕たちは一斉に駆け出した。


 だって、初めて見る馬車だ。


 本や話の中にはよく出てくるけれど、実物を見るのは初めて。


 だったら、間近で見たいじゃん。


「おお、お馬さんだ! あれ?なんか思っていたより小さい……」


「そりゃリフ。大王鹿と比べたらね」


「半分以下だね」


 確かに。


 大王鹿を基準に考えると、馬がずいぶん小さく見える。


 ……いや、たぶん僕たちの基準がおかしいのか。


「エルは?」


 振り返ると、エルザは馬車の荷台、その車輪の近くでしゃがみ込んでいた。


 そして、車体の下を覗き込んでいる。


「エル?」


「見てよ、リフレイン。車輪と荷台が直付けよ」


「それが何?」


「バカねぇ。路面のデコボコの振動が、もろに伝わるでしょう」


「……?」


 僕には、いまいち意味が分からない。


 エルザは心底呆れた顔で僕を見る。


「お尻が痛くなるのよ!」


 そこなのか。


 そこが重要なのか。


 そんなにバカにしたような顔で僕を見るな!



「乗客の皆さん~! そろそろ出発します~!」


 御者さんが声を張り上げた。


 荷台の後ろに踏み台を置き、乗客を順番に乗せていく。


 僕は、こっそりエルザに耳打ちした。


「なぁ、エル。あのフードを被った女の人、怪しくないか?」


「はぁ? リフレイン。うちらのほうが、よっぽど怪しいわよ」


「え?」


 なんだって?


 僕は慌てて振り返った。


 ミゼル様、セシリー様、マリアさん。


 三人とも、お揃いの漆黒のローブを着て、深々とフードを被っている。


「……あれ?」


 改めて見ると、確かに怪しい。


「ありゃ、本当だわ」


「いいから、早く乗りなさい」


 エルザに背中を押され、僕は馬車へと乗り込んだ。


 左側の席には、親子連れ、フードの女の人、出入り口近くに大剣を背負った冒険者。


 右側には、僕、タウラ、エルザ、マリアさん、ミゼル様、そしてセシリー様が座った。


「ガタン」


 馬車が動き出す。


 風雨を防ぐ幌は半分ほど巻き上げられている。


 その隙間から見える景色が、ゆっくりと後方へ流れていった。


 広がるのは、穏やかな田園風景。


 森の中とは違う、開けた景色。


 遠くには畑が広がり、風に揺れる草木が陽光を受けて輝いている。


「ほう……なかなかのもんですなぁ」


 僕が感慨深げに呟くと――。


「何、ジジィくさいこと言ってんのよ」


「見た目は子供、中身はジジィなんだよ。タウ」


「誰がジジィだよ!」


 好き勝手に言いやがって!


 しかし――。


「飽きた……」


「ええー! もうなの?」


「タウだから仕方がないんだよ」


「飛んで行ったらダメかなぁ」


「だよね。そのほうが早いし、気持ちがいいよね」


 僕とタウラが本気で空を飛ぶ方法を考え始める。


 すると、エルザが困ったように口を挟んだ。


「でも、これも社会勉強だよ! 修行の一つだと思えばいいんだよ」


 まさに正論。


 エルザの言う通りだ。


「おい、お前ら! 人は飛べないんだぞ!」


 突然、向かいの席から声が飛んできた。


 見ると、さっきの男の子がこちらを睨んでいる。


 おっ。


 少年が参戦してきた。


 僕は少し身を乗り出した。


「おい、少年。やりもしないで『できない』と諦めた時点で、お前の負けだ」


「なんだと!」


 少年が食いついてきた。


 タウラは腕を組み、堂々と少年を見据える。


「お前は、これからの人生、何事も『できっこない』と自分から未来を狭めていくのか? お前は何のために生まれてきた? ただ己の無能を知るためなのか? 少年、答えてみよ」


「俺は……俺は……」


 少年は拳を握りしめた。


「絶対、強くなって勇者ヤクトみたいになるんだ!」


「ほう、少年よ。勇者ヤクトは、すぐに諦めたか? 勇者ヤクトは、できないからと投げ出したか? お前はどう思う?」


「勇者ヤクトは……」


 少年はしばらく考え――。


「……諦めない!」


「その通りだ!」


 少年の顔に笑顔が戻った。


 僕は思わずエルザと顔を見合わせた。


(ええっ!?)


 ミゼル様の話では、勇者ヤクトは何をするにも、


『僕には才能がない』


『僕には無理だ』


 と、言い訳ばかりしていたと聞いている。


 なのに――。


 いつの間にか、ものすごく立派な人物にされている。


 勇者というものは、後世に語り継がれるたびに美化されるらしい。


 僕とエルザは、同時にそう思った。


 そして――。


 勇者、恐るべし。


「少年よ。お前は、もう答えを知っているのだ」


 タウラは、さらに話を続ける。


「だが、答えを知っているだけでは何もならない。しかし、お前は今、その先へ進む方法を知った」


「はい! 何事も諦めず、努力いたします!」


「見事な答えじゃ! これからも精進するのだぞ」


「ハハァ! ありがたき幸せでございます!」


 ……。


 何だ、これ。


 完全に教祖じゃん。


 僕は思わず遠い目になった。




「そうか。主の名はマルクか……」


 タウラは腕を組み、脚まで組み替えながら少年を見る。


「マルクよ。努力を怠るではないぞ」


「はい!」


「あなた様のお名前をお聞きしたいのですが……」


 マルクが恐る恐る尋ねる。


 するとタウラは、さらに胸を張った。


「我はまだ修行の身。明かす名などないわ! しかし、そのうちマルクの耳にも、我の名が知れ渡るであろう!」


「ハハァ! 首を長くしてお待ちしております!」


「ちなみに、こいつはリフレイン。この子はエルザじゃ」


「エルザさん! マルクと申します! 今後ともよろしくお願いします!」


 マルクは席を立つと、直角になるほど深々と腰を曲げた。


 ……しっかり者だ。


「マルク。リフレインだ。よろしくな」


「ああ、よろしく……」


 ……何、この落差。


 ガーン!一歩手前だ。


 クソッ!


「なんか……リフレインの匂いがする」


 エルザが、僕を見ながら顔を曇らせた。


「なんでだよ!」


 僕の何が悪い!


「マルクよ。よろしく頼むぞ!」


「ハハァ! 勇者様の望む限り!」


「マルクよ。我はまだ勇者ではない」


「はっ! では、未来の勇者様!」


「まあ、よい。好きに呼ぶといい」


「ガハハハハハ!」


 高笑いするタウラ。


 完全に調子に乗っている。


 僕は思った。


 こいつ、絶対に楽しんでいる。


「未来の勇者様。愚息のマルクにやる気を起こしてくださり、ありがとうございます」


「この子は、いつも言い訳ばかりで……」


 いつの間にか、マルクの両親までタウラに頭を下げている。


 どうやら、本気で感謝しているらしい。


 タウラはますます胸を張った。


 つるぺたな癖に。


 と思ったら一瞬で睨まれた。


 やはり僕の心は読まれているんだ。


 タウラ恐ろしい子……


 何故かエルが、僕を見てため息を吐いている。


「???」


 その横で、一連のやり取りを見ていた三人――マリアさん、ミゼル様、セシリー様の肩が、かすかに震えていた。


「タウラって、あんな子だったかしら……。もっと素直で優しい子だったはずなんだけど」


 マリアさんが困惑したように呟く。


「我は……あんな態度で、あんな話し方なのか?」


 ミゼル様は、自分自身の過去を見せられているような顔をしている。


「プククク……。ミゼル様に似ているぅ~」


 セシリー様は必死に笑いを堪えていた。


 その時だった。


「……あれ?」


 エルザが、ふいに窓の外へ顔を向けた。


「どうした?」


「ゴブリンだわ。この先に集まっている」


 その言葉に――。


 大剣を背負った男の鋭い目が、エルザへ向けられた。


(ゴブリンだと?)


 「……ああ、見つけたわ。この先五キロくらいね」


 タウラも感知したらしい。


「三十五匹だね、エル」


 僕にも、その存在がはっきりと捉えられた。


「そう。でも、全て死んだわ」


「「はやっ!」」


 思わず僕とタウラの声が重なる。


「魔力が届けば、どうにでもなるわよ」


「確かに……」


 僕たちにとっては、いつものこと。


 けれど――。


(何を話しているんだ、あの子供たちは……)


 大剣の男は、耳を疑っていた。


 五キロ先のゴブリンを感知した。


 それだけでも異常だ。


 だというのに――。


 さらに、そのゴブリンたちを瞬く間に全滅させたという。


 それなのに、あの子供たちからは魔力が一切感じられなかった……


 男は、知らず知らずのうちに背筋を伸ばしていた。


「あ、更に山側へ三キロくらい行ったところに、ゴブリンの集落がある」


 エルザが続ける。


「強そうなのが一匹……キングかな?」


「へえ。暇つぶしに潰しに行く?」


 タウラが尋ねると――。


「ぷっ……! 暇つぶしに潰しに行くだって。ククク……」


 リフレインが吹き出した。


「相変わらず、リフの笑いのポイントは分かりづらいわね」


 顔を顰めるタウラ。


 どうやら僕の笑いのセンスに対する評価は、今日も厳しい。


「討伐完了!」


 エルザが、何でもないことのように言った。


「「はやっ!」」


 またしても声が重なる。


「さすが、エルザさん! 凄いです!」


 すかさずマルクがエルザを持ち上げる。


 ……こいつ、できる。


(ふっ……。何だ、子供の戯言か)


 大剣の男は、深く座席に腰を沈め直した。


 だが――。


 一方で。


(……間違いない)


 フードの女の視線が、金髪の少女へ向けられる。


(あの金髪の女の子。お頭が言っていた子供だ。黒髪の猫獣人の女の子もいる)


「ひっ……!」


 突然。


 座席に座っていたフードの女が、小さく息を呑んだ。


 前方から、とてつもないプレッシャーを感じたのだ。


 まるで――。


 巨大な怪物に首を掴まれ、そのまま宙へ持ち上げられているような感覚。


 呼吸ができない。


 身体が動かない。


 そして何より――。


 自分の死が、すぐそこまで迫っているような錯覚。


(はっ……! 私は馬鹿か!?)


 女は恐怖に震えながら、必死に記憶を辿った。


(大英雄の従者……セシリー・オリオン!)


 気づいた瞬間、全身から血の気が引いた。


(あう……)


 目の前が暗くなる。


 気が遠くなりそうだった。


「あ、フードの女の人、寝ちゃった」


「退屈だから、僕も寝る」


 僕は腕を組み、そのまま目を閉じた。



 セシリーが、ミゼルへそっと耳打ちする。


「ミゼル様、タウラの監視、まだ解除されてないようですぅ」


「ほう。八年もの間、ご苦労なことだ」


 ミゼル様は、ちらりと監視対象へ視線を向ける。


「ほっとけ、セシリー。人間ごときに、タウラやマリアへ害を加えることなどできぬ」


「ですよねぇ~。私もそう思いますぅ」


 馬車は何事もなかったかのように、ゆっくりと街ナッツへ向かって進んでいく。


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