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タウラとリフレイン〜古の大英雄はマジで勇者を再現したい〜  作者: 2nd kanta


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14/24

タウラ街に行く

「えっ? 明日、街に行くんですか?」


 セシリーの何気ない一言に、リフレイン、タウラ、エルザの三人が揃って動きを止めた。


 無理もない。


 リフレインとタウラにとって、街というものは本でしか知らない場所だった。


 これまで二人が暮らしてきたのは、大森林の奥深くにあるミゼル邸と、その周囲に広がる広大な森。人の気配など滅多にない世界だ。


 エルザにしても事情は違えど、自由に街を歩き回った記憶などほとんどない。


「街って、人族がたくさん集まって住んでいる所でしょう?」


 リフレインが、少し警戒するように尋ねた。


「そうじゃな」


「……何しに行くの?」


 どうにも納得がいかない。


 そんな人の多い場所へ、わざわざ出向く理由が分からなかった。


 するとセシリーが、にっこりと笑った。


「お前たちの服や装備、それから剣なんかを買うためかなぁ」


「「「剣!」」」


 三人の反応が、一瞬で変わった。


 先ほどまでの警戒心はどこへやら。


 三人とも、目を輝かせてセシリーへ詰め寄る。


(あらあら……やっぱり、そっちに食いつくのね)


 その様子を見ていたマリアは、思わず苦笑した。


 どうやら三人にとって、街へ行く目的の優先順位は、


 剣。

 装備。

 服。


 この順番らしい。


「それと、冒険者登録もするわよぉ」


「冒険者?」


 三人が揃って首を傾げた。


「前に少し説明したでしょう? 冒険者登録をしておけば、依頼された魔物を討伐したり、薬草なんかを採取したりして、お金をもらえるのよぉ」


「あー! その話、聞いたわ!」


 タウラが勢いよく手を挙げた。


 まだ八歳だというのに、その挙手だけは妙に堂々としている。


「タウラは、お利口だねぇ」


「えへへ」


 褒められたタウラは嬉しそうに笑い、隣のリフレインを見る。


 対するリフレインは、明らかに悔しそうだった。


「……僕だって知ってたし」


「本当?」


「……たぶん」


「ふふっ」


 二人のやり取りに、マリアの頬が自然と緩む。


 そんな微笑ましい光景を眺めながら、ミゼルがマリアへ声を掛けた。


「マリア、お主もナッツへ行ってみるか? もう八年も人里へ下りておらんじゃろ」


「そうですね……」


 マリアは返事をしたものの、どこか歯切れが悪い。


 その様子を見逃さなかったセシリーが、背中を押すように言った。


「マリアの魔力量なんて、もうオーガス王国の宮廷魔導師をとっくに越えてるわぁ。それに、魔法も身体強化も使えるんでしょう?」


「子供たちに、色々と教えてもらいまして……。それに、暗器の扱い方も……」


 マリアは苦笑する。


 思えば、随分と遠くまで来たものだ。


 八年前。


 タウラを抱きかかえ、追っ手から必死に逃げた。


 あの時の恐怖と絶望は、今でも鮮明に覚えている。


 足音が近づくたびに、心臓が張り裂けそうだった。


 この子だけは守らなければ。


 そう思いながら、ただひたすら走った。


 もし――あの時、ミゼルたちに出会わなかったら。


 姫様も。


 そして自分も。


 あの森の中で命を落としていたに違いない。


「マリアさん。一緒に行こうよ」


 エルザの声に、マリアは顔を上げた。


「エルザ……」


「マリアさんがいないと、お買い物もできないわ」


 姫様――。


 胸の奥が、じんと熱くなる。


「そうだよ! 悪い奴らが来ても、僕がやっつけてあげるから!」


 リフレインが胸を張った。


 マリアは三人を見つめる。


 子供たちは、いつの間にかこんなにも立派に成長している。


 ならば――教える側である自分が、いつまでも過去に囚われていてどうする。


「……分かりました」


 マリアは静かに微笑んだ。


「ミゼル様、セシリー様。私もお供させてください」


 その決意に満ちた笑顔は、眩しいほどだった。


「よし。それでは明日に備えて、まずは数学の勉学からじゃ」


「「「えええええっ!?」」」


 子供たちの顔が、一斉に引きつった。


「なんで、そうなるのよー!」


「剣の話は!?」


「冒険者になるなら、勉強も必要でしょう?」


とマリアが子供たちに言った。


途端。


「嫌だぁぁぁ!」


 明日の街歩きを楽しみにしていた三人のブーイングは、しばらく屋敷中に響き渡った。


☆


「オーガス王国の転移点から大森林を抜け、ナッツを目指す。途中からは馬車での移動になるぞ」


「馬車!」


 リフレインの目が輝いた。


「僕、馬車を見るのも初めてかも!」


「私もよ!」


 タウラも嬉しそうに声を上げる。


 しかし――。


「……私は、馬車には良い思い出がないから……」


 エルザだけは、俯いていた。


 その表情を見た瞬間、場の空気が変わった。


 エルザにとって、馬車は楽しい乗り物ではない。


 両親と暮らしていた村が人族に襲われた日。


 父は殺された。


 エルザと母は、他の女たちや子供たちと共に捕らえられ、檻のような馬車へ押し込められた。


 そして、そのまま王都へ連れて行かれた。


 道中、母親は男たちから酷い扱いを受け続けた。


 その日々が、母の心を少しずつ壊していった。


 やがて母は、エルザの目の前から姿を消した。


 今、どこにいるのか。


 生きているのか。


 それすら分からない。


「お母さん……お父さん……」


 エルザの唇が震える。


「エルザは……」


 大粒の涙が、ぽろぽろと頬を伝った。


「うわぁぁぁん! お母さん――!」


「エルザ……」


 マリアはすぐに両膝をついた。


 そして、泣きじゃくるエルザを優しく抱きしめる。


「大丈夫ですよ。ここにいますから」


 何度も、何度も頭を撫でる。


 エルザが泣き止むまで、決して離さなかった。


「そうだよ、エルザ。私もいるし、リフレインもいる」


 タウラがエルザの手を握る。


「エルザ。僕たちは家族じゃないか」


「タウ……リフ……」


「そうじゃぞ、エルザ」


 ミゼルの声が静かに響いた。


「お前たちは、我の子じゃ」


 マリアは、息を呑んだ。


(ミゼル様が……この子たちを認めた)


 エルフと人族。


 種族が違えば、価値観も違う。


 そう思っていた。


 けれど――。


 子供を思う気持ちだけは、きっと同じなのだ。


「エルザぁ……」


 セシリーが頬を掻きながら、少し照れ臭そうに笑う。


「私たちは、みんな同じ家族だよぉ。私は全力でエルザたちを守るし……愛しているからねぇ」


「……家族」


 エルザは涙で濡れた顔を上げた。


「私たちは……家族?」


「そうよ」


 タウラが笑う。


「私たちは家族!」


「うん」


 リフレインも頷いた。


「僕たちは、ずっと一緒だよ」


「……うん」


 エルザの顔に、少しずつ笑顔が戻っていく。


「私たちは家族……」


 その言葉を確かめるように、もう一度呟いた。


「うん。私たちは、一つの家族なんだね!」


 エルザが笑った。


 タウラも笑った。


 リフレインも笑った。


 マリアも、目尻に涙を浮かべながら笑う。


 セシリーも笑った。


 そして――ミゼルも。


「……そうじゃ」


 ミゼルは小さく頷いた。


「我らは家族じゃ」


 その言葉が、エルザの胸に深く刻まれた。


「私、決めたわ!」


 エルザが拳を握る。


「悪い奴らは、みんなぶっ飛ばす!」


「そうよ! エルザ!」


 タウラも拳を突き上げた。


「悪い奴らは、みんなぶっ飛ばして、皆殺しにするのよ!」


「…………え?」


 マリアの笑顔が固まった。


「タウラの言う通りだよ!」


 リフレインまで頷く。


「悪い奴らがいなくなれば、いい人しか残らないしね。僕も手伝うよ!」


(あれ……?)


 マリアは三人を見回した。


(私……育て方を間違えたのかしら?)


 正しく導いている。


 そう信じていた。


 なのに、どうして話がこんな物騒な方向へ進んでいるのだろう。


「ハハハハハ!」


 ミゼルは楽しそうに笑った。


「頼もしいのぅ」


「強敵が現れたら、私がやっつけてあげるわよぉ」


 セシリーまで嬉しそうだ。


「大丈夫です、セシリー様」


 リフレインが胸を張る。


「僕たちは、悪党なんかに負けませんから」


(……多分、負けないでしょうね)


 マリアは苦笑した。


 むしろ――。


(もしかしたら、この子たちは……とっくに勇者を超えているのではないでしょうか)


 そんな考えが、ふと脳裏をよぎった。


 それほどまでに、この子たちは強い。


 そして強さだけではない。


 いつの間にか、誰かを守ろうとする心まで身につけている。


 ならば、自分がすべきことは――。


 この子たちが道を誤らないよう、傍にいることなのかもしれない。


「では、出発じゃ!」


 ミゼルが立ち上がった。


「我から離れるでないぞ」


「「「「はーい!」」」」


 四人の元気な返事が重なる。


 次の瞬間――。


 視界がぐにゃりと歪んだ。


 一瞬、世界そのものが裏返ったような感覚。


 そして。


 目の前に広がっていた景色が、一瞬で変わった。


 そこは、オーガス王国に設置された転移点だった。


☆


 転移点から少し歩いたところで、マリアは周囲を見渡した。


 そして、ふと足を止める。


「セシリー様……ここは……」


「ああ、ここ?」


 セシリーが周囲を見回す。


「ちょっと違うかなぁ。あの場所から西へ一キロくらいだねぇ」


「……そうですか」


 マリアは静かに目を伏せた。


 ここではない。


 けれど、あの場所は近い。


 姫様と自分にとって、人生の分岐点となった場所。


 もし、あの日――。


 ミゼルが偶然通りかからなければ。


 自分たちは、そこで殺されていた。


 タウラも。


 何もかも。


 今こうして笑っていられるのは、ミゼルが手を差し伸べてくれたからだ。


(……私は、もう一度この方に誓おう)


 マリアは胸の内で静かに誓った。


 この命が尽きる、その時まで。


 ミゼルと、子供たちのために。


    


 やがて森を抜けると、街道へ出た。


 遠くには、人々が行き交う道が続いている。


 ナッツへ向かう道の途中。


 街道脇に、小さな村の跡地があった。


「……ビーン村跡地、だって」


 リフレインが看板を読む。


「なんだろうね?」


 タウラが首を傾げる。


「貧しそうな村だったから、みんな移住したんじゃない?」


 何気ないタウラの言葉。


 しかし――。


 ミゼルだけは、黙ってその看板を見つめていた。


 リフレインには、まだ本当のことを告げていない。


 いつかは伝えなければならない。


 だが――まだ、その時ではない。


 ミゼルには、そう思えてならなかった。


 その時が来たならば。


 父親の剣を。


 そして、この村に何が起きたのか、その真実を。


 すべてリフレイン自身の手に渡す。


 そう、心に決めていた。


 そしてエルザについても、すでに分かっていることがある。


 彼女が、ただの奴隷として売られたわけではない。


 ミゼルの情報を集めるために利用された存在だったこと。


 そして――その裏で糸を引いていた黒幕の存在も。


(我がしゃしゃり出て、公爵を滅ぼすことなど容易い)


 ミゼルの瞳が、僅かに細くなる。


(だが……我が復讐してよいのであろうか)


 自分ならば、すべてを終わらせられる。


 一夜で。


 跡形もなく。


 だが、それでは意味がない。


 あの子たちには、あの子たちなりの人生がある。


 自分たちの過去を知り、その上でどうするのか。


 怒りに身を任せるのか。


 復讐を選ぶのか。


 あるいは――許すのか。


 それを決めるのは、ミゼルではない。


(あの子らには、それを成し得る力がある)


 ならば――。


「すべては、あの子らが決める定めじゃろう」


「ミゼル様?」


 隣を歩いていたセシリーが、不思議そうに顔を覗き込んだ。


「何か言いましたかぁ?」


「いや」


 ミゼルはいつものように笑った。


「何でもないぞ」


「そうですかぁ……?」


 セシリーは首を傾げながらも、それ以上は聞かなかった。


 しかし――。


 ミゼルの胸の奥には、決して消えることのない炎が灯っていた。


 復讐の炎ではない。


 もっと静かで、もっと深いもの。


 いつか、あの子たち自身が真実を知る日のために。


 そして、その日が来た時。


 自分はただ、傍にいる。


 それだけでいい。


「……行くぞ」


「はーい」


 ミゼルたちは歩みを進めた。


 そして次の村で馬車を手配すると、目的地であるナッツへ向かった。


 



 

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