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血脈を継ぐもの  作者: pico
19/23

里 1

影の里の鍛錬場で、イオンは、ウケイとセイエイの手合わせをみながら言葉少なく問うた。

「どうみる?」

傍らに控えていた側近の一人が、口を開く。

「里長相手に、あの歳の子どもがよくやっていると思いますが・・」

イオンの求めている内容ではないらしいと察して言葉を切り、別の一人が代わりに口を開く。

「探知能力に優れているようで、気配をよく見ているのではないかと」

続きを促す気配に、言葉を続ける。

時の森での往路で、随伴の者たちは周囲を分担して警戒していた。探知する方向を狭めることで、探知する距離を伸ばし、詳細を探っていた。だが、あの子どもは、どの方位に対しても彼らと同じ早さで察知していた。

そのことを告げれば、イオンは軽くうなずいた。


戦闘に限っていえば、ウケイは抜群の才能を有する。

定石に囚われず変幻自在の攻撃を繰り出すウケイと対峙するには、同じように定石に囚われない戦闘センス、少なくとも、そんな攻撃を察知する能力が必要になる。

だが、察知するだけでは、そう長くは持たない。

ウケイの攻撃を受け止めたセイエイが体勢を崩し、さらに追撃を受けて倒れた。それでも逃れようと足掻いたのか、ウケイがその身体を押さえ込み、とどめの一撃を入れた。


倒れて動かないセイエイをそのままに、ウケイが戻ってくる。

「すまん兄者。少しやりすぎた。・・・・・治癒してやってくれ」

イオンは眉を上げる。

「あばらを1,2本やっちまった。ほかは大したことないが・・・まあ、ヒビぐらいは入ったかもしれん」

ウケイはケロリと言ったが、少しではない。控えていた治癒術の使い手は、足早にセイエイのところへ向かった。



***



館に入り、イオンはウケイだけを残し、尋ねる。

「それで?」

「わからん」

ウケイは頭を掻いて、あっさりと言った。

セイエイと手合わせしていいか?と言ってきたのはウケイだ。勘が鋭く、なんとなくで大抵のことをこなすウケイは、自分のペースでやらせる方が核心をつく。

イオンは黙ってウケイが続けるのを待った。

「まだ調子が悪いというのはあるだろうが・・・あいつ、なんかが欠けちまった」


時の森に迎えにいったとき、一晩たってなお、セイエイはまだ倒れそうな顔色をしていた。

そのときは、さほど異常と思わず予定通り出立したものの、あとになって、セイエイが記憶の一部を失っていることが判明した。

時の方と共有したという未来視の内容、そして、森で過ごした夜の記憶がない。

前後のことや、イオンの言いつけは覚えているのに、そこだけがすっぽり記憶から抜け落ちている。

真名を介して尋問すれば、隠し事は不可能だ。意識して思い出せないことでさえも、何らかの答えを返すはずで、わからない、ということはない。

にもかかわらず、セイエイを真名で縛り、何度問い詰めても「わかりません」と繰り返すだけだ。

時の森へ遣わした者も、なんの手がかりも得られず戻った。

話すことはないと門前払いされそうになったのを食い下がり、ようやく、一人にしてほしいと言われたからその通りにしただけで、私は監視ではないとの返答を得た。未来視の内容についても、伝える気はないと拒否され、取り付く島もなかったという。

何が起こったのか、手がかりさえない状態。

つまりは、事故なのか、何者かの仕業か、セイエイ自身が意図してのことなのかさえ不明の事態に、最大限の警戒を向けているのが現状だった。




イオンはセイエイの扱いを決めかね、セイエイについて最も詳しいはずのウケイに、意見を求めた。

それに対して、ウケイは手合わせを求め、今に至る。

「今のあいつは、面白くない。何かをしでかしそうな・・・・奥の手を隠してるようなところがなくなっちまった」

イオンにとっては、生真面目という当初の印象よりも、こんな状況でも、取り乱すこともない今の方が得体が知れないと感じるが、ウケイにはそうではないらしい。

そして、ウケイの答えが、期待していた内容とはずれていることに、頭痛を覚えた。

「記憶の消失については、手がかりはないのか」

問いを重ねると、ウケイはきょとんとして、イオンを見た。

「セイエイの仕業だろ」

あっさりとした答えに、イオンは目を鋭くした。怒りさえ含んだ気配に、ウケイは肩をすくめる。

「・・・俺、あいつに『兄者の叱責はしつこい』って言っちまったんだ。それから『兄者の追求からは逃れられないぞ』って脅したから、記憶ごと消すことにしたんだろ」

「・・・どうやって?」

ウケイは興味なさそうに首を振る。

「さあな。・・・・だが、そのせいで、あいつの何かも欠けちまった。なかなか思い切ったことするよな」

ウケイの中でそう結論されていることはわかったが、その理由がわからない。

宇敬ウケイ

真名で呼ばれ、ウケイがぎょっとしたように動きを止める。

大きく息を吐き、ガシガシ頭を掻き、うつむいてもう一度大きくため息を吐く。傍らの椅子を引き寄せてどさりと座り、それから、ようやくあきらめ顔をイオンにむけた。

「・・・なんだ? 兄者」



ウケイの言うところのしつこさで、イオンはウケイを追求した。

なんとなく、ウケイにとってはそう説明すれば十分なことを、ひとつひとつ、何度も繰り返し問いただされ、ウケイはぐったりと椅子の背に身を預けた。

「・・・・兄者は、しつこすぎる」

ぼやくウケイにとりあわず、イオンは拳を口元にあてて、考え込んだ。


わかったことはそう多くない。

ウケイはセイエイを大いに買っているらしい。

セイエイの状態を、本人の意思だと確信している。これが誰かの仕業、あるいは偶発的な事態だとしても、セイエイがそれをよしとしていなければ、抵抗し何らかの手がかりが残っているはずだと。そうでないのだから、セイエイが望んだことなのだと。

あのとき口にしなかったことに隠し通したいことがあったとみるべきだが、それが何かはわからないし、今となっては探ることも難しい。


そして、そんなセイエイをこれからどう処遇するか、という問題に立ち返る。

影が知らない方法で記憶を消し去ることができる者を、そうまでして隠し事をする者を、影の長としてどう扱うか。禍根になる前に消すのは簡単だが、贄は容易に替えのきく存在ではない。

これまでの経験から、ウケイの勘が核心を外さないことをイオンは知っている。

宇敬ウケイ、お前は欠けたと言ったが、それで、贄として役に耐えうるのか」

「問題ないだろ。絆を交わすのに十分な器はある」

それから、ウケイが悔しそうに口をとがらせる。

「さっきの手合わせだって、本気のあいつが見たくて俺がやりすぎちまったのに、あいつは耐えきった。本気のセイエイなら、兄者の側近たちでも下すのは難しいはずだ」

高い評価に、イオンは黙って眉を上げた。

「セイエイが、影に敵対する可能性はあるか」

「あいつは贄、御子のための存在だと自分を定めてる。御子を護るためなら何でもするだろう。影が御子を害すれば、当然敵対するだろうな」

「そうでないなら・・・」

「従うさ」

あらゆる事態を想定するのが、イオンの立場だ。

「必要になったら、お前はセイエイを消せるか」

それは、力量的なことだけではなく、手をかけて育てた甥を殺せるか、という意味もあった。

「問題ない」

ウケイはあっさりと答える。それどころか、その顔に獰猛な笑みが浮かぶ。


イオンがウケイを恐ろしいと思うのはこういうときだ。

誰とでも打ち解ける人懐っこさの裏に、必要と判断すればあっさり切り捨てる淡白さを、ウケイは併せ持っている。しかも、そんなときでさえ、戦闘を楽しむ戦闘狂だ。

今の物騒な笑みも、高く評価しているセイエイと本気で対峙するときのことを想像して、自然と浮かんだものだ。

イオンが長としての力量に欠くと思うことがあれば、ウケイは兄であることなど関係なくイオンを見限りかねない。そして「兄者とは一度殺しあってみたかった」と笑いながら戦闘を仕掛けてきても不思議ではない。

・・・・そんな事態にはさせないが。

イオンにはイオンの、影の長であり続ける理由、譲れぬ理由があり、弟などに邪魔はさせない。

影の長の血筋の者は、自らの最優先のためならすべてを犠牲にしても気にしないようなところがある。

ウケイだけではない、(おのれも同じだ、とイオンは自嘲した。

冴え冴えとした笑みがイオンの顔に浮かび、ウケイが頬をひきつらせる。

それには気づかず、イオンは思考を切り替えた。

「行っていいぞ、ウケイ」

のそりと、ウケイは立ち上がって、長の部屋から立ち去った。




ありがとうございました。


ウケイは実はこんな人。

アジュ、イオン、ウケイの3兄弟ではたぶん下に行くほど、常識が飛んでそう。

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