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血脈を継ぐもの  作者: pico
1 時の魔女
13/22

時と空間を司るもの

トゥリアは、強大な存在の前に立っていた。


時と空間を司るもの。

この存在も精霊と呼んでいいのか、トゥリアにはわからない。

水や風、光といった精霊が、世界を構成する要素で、数多あまた存在するのに対して、この存在は、この世界を構成し、支えることわりとしてただひと柱だけ在る。

ありとあらゆる時、ありとあらゆる場所にあまねく存在しているがゆえに、その全貌を知覚することもできない。

「時の方」の先見の力など、その存在のもつ権能をほんのわずか預けられているにすぎない。

力を通じて常に繋がってはいるが、トゥリアがこうしてその存在を前にしたのは、力を授かったとき、ただ1度だけ。

その時には、養い親である先代が一緒にいてくれた。


トゥリアは、その重圧に耐えきれず、膝をついて俯いた。

「・・・ごめんなさい」

この力を悪意を持って使った。未来を歪めてしまった。あの子の運命を変えてしまった。

「ごめんなさい・・・。・・・でも、あの子を探さないといけないの! だから、今は取り上げないで・・」

俯いた視界には、自分の膝がみえ、そこへぽたりと涙が落ちる。


「人の子・・・トオゥリィヤ」

不思議な抑揚で名を呼ばれてトゥリアは顔を上げる。

「・・・・私に謝る必要はありません。連なる力を手放すことも、求めてはいません」

目元を覆った女性の姿をしたその存在は、慈しむような穏やかな口調で許し、言葉を続けた。

「貴女をここへ呼んだのは、この者をあるべき時空へ連れ帰ってもらうためです」

そうして、時空を司るものが胸のあたりで手を広げると、そこには人の姿が浮かんだ。。

目を閉じて胎児のように身を丸め、ぼんやりと光をまとっている。

トゥリアが驚いて瞬きをすれば涙で歪んでいた視界がはっきりして、それがセイエイだと確認できた。無事でいてくれたことに、安堵のあまり、また涙ぐみそうになる。


言葉にせずとも、トゥリアが承諾したことが伝わったのだろう、時空を司るものは、覆われた目をセイエイへ向ける。

「*****・・・これは無謀なふるまいでした」

呼びかけた言葉は多くの意味が込められていて、トゥリアには音としては聞き取れなかったが、重ねられた意味のいくつかがぼんやりと伝わってくる。

先に立つ者、導き手・・・、希望を照らす光・・・再来を告げるもの、そんなイメージが感じられた。

「・・・ですが、こうして目見まみえたことにも意味があるのでしょう。・・・・私から今の貴方へ伝えられるのはこれだけ・・・」

そう言って微笑みかけると、セイエイを一度抱き寄せるようにしてから、トゥリアの方へと両手を挿しのべる。するとセイエイの姿は優しい光へ変わり、トゥリアの目の前へふうわりと近づく。

その光を胸に抱くように受け止めて顔を上げると、すでにそこは、元いた場所で、もう時空を司るものの存在は感じられなかった。


張り詰めた緊張が解け、トゥリアはその場に座り込む。

今の邂逅を思い起こし、胸に抱いた暖かく優しい光へ、震える声で呼びかける。

「セイエイ、あなたは、何者なの・・・?」

時空を司るものがセイエイに向けた笑みと声には、愛おしむような親愛と気遣いが込められていた。

それに比べてしまえば、トゥリアに向けられた言葉は、その他大勢に広く平等に与えられる慈悲でしかなく、トゥリアを許したというより、無関心と言い換えてもいいものだと気づいてしまった。

そのことに傷ついたわけではない。

時空を司るものからすれば、無数に存在する人の子の一人、その権能を与えられた「時の方」も、過去や未来を合わせれば何人も存在するはずで、その中でも2度見えただけの自分が特別な存在足り得ないことはわかる。

むしろ、初めて出会ったはずのセイエイへの気遣いが際立っているのだ。

腕の中のぬくもりは、何も反応を返さない。

代わりに、この暖かな光を呼び戻そうとする声に気づき、トゥリアは我に返る。

「・・・戻らなきゃ」

自分に言い聞かせるようにそう呟いて、トゥリアは光を抱いて現実へと移動した。








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