呼び戻す
木立の間から、少し息を乱してイオンとウケイが姿を現した。
「・・・セイエイ?」
横たわるセイエイとその傍に座り込んだ時の方を見て、イオンは目を鋭くし、ウケイが思わずといった風に呟く。
すぐに来て、とだけ伝えられて、2人はできる限りの早さでまっすぐにここまでたどり着いた。何が起こったのか、全く事情がわかっていない。
だが、イオンは動揺を見せずにその場に片膝をついた。ウケイもその後ろに控える。
「呼んでいただいたことを感謝する。事情を聞かせていただきたい」
「・・・セイエイの魂が、身体から離れてしまったの。戻れなくなる前に呼び戻さないといけないわ」
そこまで言ってから、トゥリアはようやくイオンに目を向ける。
「呼び戻すために、縁が深い者が喚ぶ必要があるの」
「・・・何故そのようなことになったのでしょうか」
イオンに尋ねられて、トゥリアは目をそらした。
何を伝えればいいのか思いがまとまらない。未来を垣間見ようとして、セイエイが巻き込まれたと伝える? あんなに頑なに拒絶しておいて、実は予言で未来を歪めてしまったと謝罪する?
自分でもまだ受け止めきれないことを伝える勇気がでない。
「・・あとで、話すわ。・・・・一刻でも早く呼び戻さないといけないの」
心を見通すような鋭い視線で、イオンに見つめられ、トゥリアはうつむく。
イオンは、ややしてから小さく息をはいた。
「確認させていただいても?」
そう断ると、セイエイの身体を触って様子を確かめ、その名を小さく呼ぶが反応はなかった。
トゥリアの言い分を認めたのだろう、イオンがトゥリアを厳しい表情で見る。
「・・・あとで、必ずお聞かせください」
そう告げ、後ろに控えたウケイに視線を向けた。
セイエイの監督はウケイの担当だ。イオンの視線を受けて、ウケイが渋面になる。
「里でのセイエイは、俺以外には笑顔もみせないぞ。影の一員である意識は強いから、長である兄者の命なら耳を傾けると思うが」
それを聞いたトゥリアが顔を曇らせ、セイエイの手を握る。
「じゃあ、あなたたちが喚んで。真名を知っている? 真名で呼べば少しは届くはず。・・・私も力を貸すから」
そう言ってトゥリアは目を閉じた。
ウケイが黙って、イオンの判断を待つ。
イオンは長として、ウケイはセイエイを監督する者として、セイエイの真名を把握している。
影の者にとって、真名はその本質を現すもの、真名を介して術を施されれば強力な呪となるために、秘すべきであれば、不用意に口にするものではない。
だが、イオンはすぐに決断した。さきほど普通に呼んだだけでは、セイエイに届いた感覚がしなかった。
セイエイを挟んで、トゥリアの反対側で座位をとる。
「影の長の名において、その名を呼んで命ず、誠影戻れ」
その隣に居場所を決めて、ウケイも座す。
「誠影! 宇敬の名において、誠影をここへ呼び戻す」
その呼び声に答えるようにセイエイの魂への繋がりが強くなったのを、トゥリアは感じた。そしてセイエイの元へとその繋がりをたぐった。
未来を垣間見るときのように、別の位相へとトゥリアの意識が移動する。
どこでもない、いつでもない場所。
あらゆる場所、あらゆる時代につながっている場所。
やっぱりここでセイエイの心はさまよい出てしまったのだろう。
だが、ここまでたぐってきた魂の繋がりが、ここからは希薄になってどっちへ行けばいいかわからなくなる。
セイエイは、未来の絶望を体験した。
あの全てを拒絶し、自分自身を否定するような絶望に引きずられていたとしたら・・・。
衝撃のあまり身体から飛び出しただけですまなかったら?
トゥリアは胸の内が冷たくなるような不安を振り払う。
きっとどこか違う時代に迷い込んでいるだけ・・・もっとよく見なくちゃ。
セイエイを見つけるために自らに預けられた力を使おうとして、逆にその力の源泉に引き寄せられるのを感じ、トゥリアは狼狽した。
どうして、いま?
・・・トゥリアがその力を使って、未来を歪めるようなことをしたから。
力を預ける資格がないと判断されたとしてもおかしくはない。
この力を取り上げられてしまう。
自分のおかしてしまった過ちに押しつぶされそうになりながら、トゥリアはその強大な存在の前に立っていた。




