夏祭りのあの日
ゆいとお連絡を取ることが増えた。
以前よりもゆいとの距離が近くなったような気がした。
そんなある日の夕方。
近所で夏祭りがあることを知った。
家からそれほど遠くない場所で、毎年開かれているらしい。
そのことをゆいに話すと、
「一緒に行く?」
と聞かれた。
「いいよ」
今度は、俺もすぐに答えた。
夏祭り当日。
海の日とは違って、夕方から出かけた。
外はまだ少し暑かったが、日が落ち始めているおかげで昼ほどではない。
会場に着くと、たくさんの人がいた。
屋台が並び、あちこちから食べ物の匂いがする。
焼きそば。
たこ焼き。
かき氷。
りんご飴。
見ているだけでも楽しくなる。
ゆいは目を輝かせながら屋台を見ていた。
最初に買ったのはかき氷だった。
暑かったから、二人とも同じものを買った。
食べながら歩いていると、ゆいが急に立ち止まった。
射的の屋台だった。
「やってみる?」
「うん」
ゆいはかなり真剣な顔で銃を構えた。
けれど、なかなか景品に当たらない。
何度やっても、少しずれる。
「難しいね」
「……もう一回」
どうやら諦めるつもりはないらしい。
結局、最後の一回で俺が挑戦することになった。
狙いを定めて、引き金を引く。
景品が倒れた。
「取れた」
ゆいに渡すと、嬉しそうに受け取った。
その顔を見ていると、取ってよかったと思った。
それからしばらく屋台を見て回った。
人が多いので、はぐれないように歩く。
そのときだった。
人の流れに押されて、ゆいとの距離が離れそうになった。
俺が振り返ると、ゆいが少しだけ困ったような顔をしていた。
その瞬間、ゆいの手が俺の手に触れた。
そして、そのまま握られる。
「……」
俺は何も言えなかった。
ゆいも何も言わない。
ただ、手を繋いだまま歩いていく。
人混みだから。
はぐれないため。
きっと、それだけだ。
そう思おうとした。
けれど、手のひらから伝わる温度が妙に気になった。
しばらく歩いたところで、花火が始まった。
夜空に大きな光が広がる。
周りから歓声が上がった。
俺たちも立ち止まり、空を見上げる。
大きな花火が一つ。
少し遅れて、また一つ。
何度も夜空が明るくなる。
その光に照らされたゆいの横顔を見た。
いつも学校で寝ているゆいとは違う。
海で笑っていたゆいとも違う。
今まで見てきたどのゆいとも、少し違って見えた。
綺麗だと思った。
その瞬間、自分の中で何かが変わった気がした。
今までは、ゆいと一緒にいることが楽しかった。
話すのも楽しい。
遊ぶのも楽しい。
ゆいのことをもっと知りたいと思っていた。
でも、それだけじゃない。
ゆいが他の誰かと楽しそうに話していたら。
もし、別の誰かと付き合ったら。
そんなことを考えると、なぜか嫌だった。
自分でも、その理由がわからない。
花火の音が響く。
握られた手は、まだ離れていない。
「……」
俺は何も言わなかった。
ゆいも何も言わなかった。
ただ、二人で花火を見ていた。
夏祭りが終わり、帰る時間になった。
人も少なくなった道を、二人で歩く。
家が近づいてくる。
もうすぐ今日も終わる。
そう思うと、少しだけ寂しかった。
「今日は楽しかった?」
ゆいが聞いた。
「うん」
俺は少しだけ考えてから答えた。
「……かなり」
ゆいは小さく笑った。
「私も」
それだけだった。
家に着いて、別れる。
いつものように隣同士の家へ帰っていく。
けれど、今までと何かが違う。
俺は自分の部屋に戻ってからも、今日のことを考えていた。
海で一緒に遊んだこと。
夏祭りで笑っていたこと。
そして、最後に繋いだ手。
眠ろうとして目を閉じても、なかなか眠れない。
どうしてこんなに気になるんだろう。
答えはまだわからない。
ただ一つだけ、確かなことがあった。
俺はもう、ただ「ゆいのことを知りたい」だけじゃない。
もっと近くで、ゆいのことを知りたいと思っていた…




