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海面に映るきみ

夏休みに入ってから、学校でゆいと会うことはなくなった。

だが未だにあの家での出来事が脳裏に浮かぶ。


今までは、朝になれば教室でゆいが寝ていて、昼休みになればどこかで姿を見かける。

放課後になれば、帰る時間が重なることもあった。


それが夏休みに入った途端、ぱったりとなくなった。

少し悲しいような奇物が俺のなかにあるような気もする。


別に、毎日会わなければ困るような関係ではない。

同じクラスで、家が隣。

それだけだ。



……それだけのはずだった。


なのに、朝起きて学校へ行く必要がなくなった生活の中で、ふとした瞬間にゆいのことを考えることが増えた。


今日も何してるんだろう。

そんなことを考えながらスマホを眺めていると、通知が一件届いた。

ゆいからだった。


『海、行かない?』


あまりにも突然だった。

おれは内心うれしかった。


少し考えてから、俺は返事を送った。


『いいけど、急だな』


しばらくして、


『夏休みだから』


とだけ返ってきた。

理由になっているような、なっていないような。

でも、断る理由もなかった。



その数日後。

駅で待ち合わせをして、俺たちは海へ向かった。

朝からかなり暑かった。

駅まで歩くだけで汗が出てくる。



待ち合わせ場所に着くと、ゆいはすでに来ていた。

いつもの制服姿ではない。

夏らしい服装で、髪もいつもより少しだけ違って見える。



……なんというか。

学校にいるときより、少しだけ新鮮だった。


「お待たせ」

「ううん。今来たところ」


どうやらゆいも今来たところらしい。


それから二人で電車に乗った。

車内はそれなりに混んでいた。


夏休みということもあって、海へ向かうらしい人たちがたくさんいる。

俺たちは並んで座り、窓の外を眺めながら目的地へ向かった。


途中でゆいが眠そうにしていることに気づいた。


「寝る?」


「……寝ない」

そう言った数分後には、ゆいの頭が少しずつ傾いていった。

そして、俺の肩に触れた。


「……」


起こすべきか迷った。

でも、気持ちよさそうに眠っているので、そのままにしておいた。


電車が揺れるたびに、ゆいの頭が少しだけ動く。

なんだか変な感じだった。

学校ではいつも机に突っ伏して寝ているのに、今日は俺の隣で寝ている。

それだけの違いなのに、少しだけ特別なことのように思えた。



海に着くと、ゆいはすぐに目を覚ました。

さっきまで眠そうだったのが嘘みたいに、砂浜へ向かって歩いていく。


「ちょっと待って」


俺も慌てて後を追った。

砂浜は思っていたよりも人が多かった。

波の音が聞こえて、遠くにはたくさんの人がいる。

ゆいは海を眺めながら、少しだけ嬉しそうにしていた。


「海、久しぶり?」

「うん」


それだけ答えると、ゆいは靴を脱いだ。


「入るの?」

「せっかく来たし」


そう言って、ゆいは波打ち際へ走っていった。

俺も靴を脱いで後を追う。

足元に波が当たる。

冷たい。


けれど、暑さのせいか気持ちよかった。

しばらく海の中で遊んだ。

水をかけ合ったり、波から逃げたり。


学校にいるときには絶対にしないようなことをしていた。

ゆいが笑っている。

それを見ていると、こっちまで楽しくなってくる。

おれは幸せだ。


昼になるころには、二人ともかなり疲れていた。

近くの店で昼ご飯を買って、砂浜に座る。


ゆいは買ったものを食べながら、海を眺めていた。


「楽しい?」

「うん」

「そっか」


それ以上、何を言えばいいのかわからなかった。

でも、不思議と気まずくはなかった。


波の音を聞きながら、ただ隣に座っている。

それだけでよかった。

しばらくして、ゆいが横になった。


「寝るの?」

「ちょっとだけ」

「海まで来て寝るのかよ」

「だって疲れた」


そう言って、ゆいは目を閉じた。

俺は呆れながらも、少し笑った。

ゆいらしい。

しばらくして、俺も海を眺めた。

青い空。

白い雲。

照りつける太陽。

そして隣で眠っているゆい。


特別なことなんて何もない。

それなのに、その時間が妙に心地よかった。


海から帰るころには、二人ともかなり疲れていた。

帰りの電車では、行きとは逆に俺が眠くなった。


気づけば、ゆいの肩に少しだけ寄りかかっていた。

目を覚ましたとき、ゆいは何も言わなかった。


ただ、少しだけ笑っていた。




それから何日か経った。

海へ行った日から、俺とゆいは以前より少しだけ連絡を取るようになった。



特別な内容ではない。

今日何してるとか、暇だとか。

そんなくだらないやり取りばかりだった。

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