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灰色の街で、光を拾う  作者: 秦はるま
第一章『ロウフォグ』
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第5話 旅立ちの日

 次の日、まずは仕事をやめる報告をしに行くため、ミナトは準備を行っていた。

 準備を済ませたミナトが出かけようとしたところを見て、


「いってらっしゃい!」


 と元気よく見送ってくれたルカは、まだ準備があるので家に残っていた。


 いつもより少し前に着いたミナトは洗い場ではなく店主のもとへと向かっていく。

 たまたま声が聞こえたのでどこにいるか迷うことがなかったのは幸いであった。誰かと話しているのかと思ったが、窓際に立っているだけで特段相手がいるようには見えなかった。


「どうしたんだい」


 こちらが話しかけるより先にミナトの存在に気付いて声をかけられていた。


「……あの、仕事をやめたくって」


 そう言うと店主は歩き出して、


「ちょっと待ってな」


 そう言い残してどこか行ってしまったと思ったら、袋を手に持って帰ってきた。


「昨日の分までの給料だよ、持ってきな」


 ミナトに袋を渡した店主はまたどこかへと歩いていってしまった。

 そんな店主を見たあと店を出ていった。


 ──感情のない彼らの仕事のやり取りはあまりにも淡白である。相手のことなどほとんど考えることもないため道具のようにしか扱わない。そのため、誰かがやめようとしたところで道具が壊れたのと何ら変わらないのである。

 そんな中でも対価は払う必要があるので、そこはロボットではない人間らしい部分と言えるのかもしれない。給料のタイミングは基本的に何回の分をまとめて渡されるので、今回はその分を受け取ったというわけである。


 家に帰ってきたミナトはルカの姿を探していたが見当たらなかった。先に行ってしまったのかと考えたが、まとめていたらしきリュックが見えたのでそういうことではないのだろう。──あんなリュックは家で見たことがなかったので、物でも錬成できるのかと考えていた。


 ちょっと待っていたらルカが帰ってきた。


「あれ、早かったんだね。もう少しかかると思ってたからちょっと家を空けちゃってたよ」


 そんなルカが手に持っていたのは緑の草であった。そんな手を見ていると、


「ふっ、ふっ、ふっ、──気になるかな? これは食べられる野草だよっ! ──名前は知らないけど……」


「これは食べられる野草なの?」


「大丈夫だよ! テイスティングしたから間違いない!」


 表情が目まぐるしく変わるルカ。

 よく見てみると手に持っていた野草は不自然に欠けている部分があった。食べてあるということは問題ないのであろうとミナトは判断した。


「おや? その袋はなんだろな?」


「……これは仕事をやめたときに貰ったお金だよ」


「なるほどねぇ。どこかにしまっておかなくて大丈夫かな?」


「持っていくよ。いつ家に戻ってくるとかわかる?」


 仕事で離れている分には時間もそこまで空かないから特に気にしたことはなかった。実際に盗るようなお金もほとんどないためである。しかし、家を空ける期間がわからない中でお金を放置することは好ましくないことはわかっていた。

 使い道があるものを置いてあったら良心という感情がない限り持っていくであろう、この街の人は感情がないのであるが……


「確かにわからないなぁ。じゃあ荷物の準備が終わったら出発だねっ!」


 そう言ってルカは用意したリュックに野草を詰め込んでいく。

 ミナトも前日に用意したポーチを持って外へ出ていくのであった。


 こんな明るい時間から──霧に覆われているためほのかに暗くはあるが外を出歩くことは稀であった。普段は仕事で室内に居るか家に居るかのどちらかである。

 そんな中歩いていると向かいからミナトより少し身長が高くガタイのいい青年が近づいてきた。

 その青年はこちらを見かけると、


「お前、もしかしてミナトじゃねぇか?」


 そんな長年会うことがなかった親友にでも会ったかのような顔をしていた。

 ミナトは心当たりを探したが、父親を除くと男性に思い当たる人物がひとりしか思い浮かばなかったためその名前を呼んだ。


「……カイ……?」


「その名前を知ってるってんなら、間違いねぇな。久しぶりだぜ、ミナト」


 歯を見せて見たことのない顔をしたその青年は手を挙げて挨拶をしていた。


 カイはミナトの幼なじみで小さい頃は近所であったのでよく遊んでいた。あの時のミナトは感情に溢れていてカイと遊ぶ時間は今となっては想像もつかない夢のような思い出であった。小さい頃のミナトはよく転んでいたが、そのときは決まってカイが手を差し出して助けてくれた。そんな幼少時代を過ごしていた二人であったが次第に会わなくなり、いつしか顔を合わせることもなくなっていた。そんな彼と、今日この場所で予期せぬ邂逅を果たすことになろうとは。


「それは良いんだけどよぉ、隣の青く光ってる奴は誰だ?」


 不思議そうな顔をしてミナトの横にいる人に向けて指をさす。その先には青い光に包まれたルカの姿があった。どうやって説明しようか言葉を紡ごうとしていたが、ルカが一歩前に出てきて手を胸に当てて元気に自己紹介を始めた。


「私は青く光る美少女! ルカ!! 旅人よ! この街に来てからミナトとしか話してなかったからこの青い光が見えていることを忘れてたよ──」


 初めて会った時の説明とは全然違ったがミナトが気に留めることはなかった。そんなミナトに気付いてルカは少し眉を八の字に下げた。

 そんなやり取りを見届けたカイは少し不自然さを感じつつも、続けて質問をしていた。


「おう、よろしくな。それにしてもこんな時間に二人で何してんだ? どう見たって仕事に励んでるようには見えねえが」


「私が説明しちゃってもいいかな? ──ありがと、あのね私たちこの街の霧を晴らすために調査をしているの。そして、グレイウォッチっていう組織からも逃げているの。もしかしてグレイウォッチを知っていたりする?」


 ミナトの頷きを確認してからルカが今回の外出の目的を説明してくれた。そんな話を聞いていたカイは途中眉を反応させたが、問いかけに対して、


「──グレイウォッチって名前は聞いたことねぇな。そんな名前を聞いてたら嫌でも覚えてっはずだ」


 そう言って「わりぃな」というカイに対し、ルカは落ち込むことなく「そうだよね」と知らなくて当然と割り切っていた。


「いいよ、むしろそれがグレイウォッチの関係者でないって安心できる材料だからね。──あっ、ちょっと話過ぎちゃったかな? そろそろ行かないと暗くなっちゃうね。話はこんなところで良いかな?」


「俺様もついていってやるぜ! 損はしねえと思うからよぉ」


 カイが意気揚々と宣言をして片手だけガッツポーズを作った。

 急にそんなことを言われてポカンと呆然している男女二人、そんな二人に気を遣ってかカイは続ける。


「なんか問題でもあったか? 二人で行くってんならおとなしく引き下がっけどよ」


 撤回の言葉を投げかけられてルカがやっと言葉を返した。


「──ごめん、急にそんなこと言われるとは思わなかったから。別に構わないけどどうして?」


 そんな疑問をカイにぶつける。ミナトの幼なじみとはいえこのような状況ですぐ決めることなどできないであろう。この早さは何か企みでもあるのかと疑うのが普通だ。


「ミナトの友達ってんなら信用に足る奴ってわけだろ。久々にミナトと楽しいことできんだ。これ以上のことはないぜ」


「おっと、私が判断するには難しい返しをされちゃった。仕方ないからミナトに決めてもらおうかなっ!」


 そう言って無表情で話を聞いていたミナトの方を二人が見つめる。この場でほとんど話をしていなかったので、話す必要がないものと思い言葉を何も用意していなかった。

 しばしの沈黙後ミナトは口を開いた。


「……問題ないと思う、カイは昔からの付き合いだし。人は多い方が良いんじゃないかな?」


「じゃあ決まりだねっ! えーとカイ……さん?で良いのかな? これからよろしくね!」


「んな、さん付けなんてしなくて良いぜ。こっちもルカって呼ばせてもらうからよぉ」


「うん! じゃあミナトとカイ、そして私でしゅっぱーつ!」


 そうして、三人となった調査隊は霧の濃い街の端に向かって軽やかに、豪快に、そして静かに歩き進めていった。

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