第3話 変化した日常
ほのかな明かりが差し込む洗い場。ここはミナトの仕事先である。
そこで働いているミナトは昨日の協力について考えていた──なんてことはなく無表情のまま皿洗いをしていた。
協力を要請してきたルカはと言えば、
「まずは、掃除をしないといけないわね。ミナトが出かけているうちにピカピカにするわよ」
意気揚々と腕まくりをしていたが、着ている白色のローブはあまりにも掃除に向かない服装である。しかし、ミナトに服なんて貸してもらえないことを薄々気付いているのかわからないが、そのままの格好で家を隅々まで確認していった。
そんないつもと違う朝を迎えたミナトであった。
終業時間になり家へと帰ってきたのだが、入ろうとしたとき中から「うわぁ!」や「きゃぁ!」といった声が聞こえてくる。そういえばルカがいるということを忘れかけていたミナトは中から音がしなくなったタイミングに合わせて扉を開けた。
「……たっ、だいま」
久しく使わなかった言葉であったためスムーズに発することができなかったが、そんな拙い言い方であっても中から返事はあった。
「おかえりなさい! ごめんねっ、まだ掃除が終わってなくて散らかっているけど」
そう言ったルカであったが、床に突っ伏している状態でなかなかに滑稽な姿である。
「暗くなってきたからそろそろ終わらせないとって思ったんだけどね──、こんなところに段差があるなんて思わなくて転んじゃった」
いまだに起き上がれないルカのもとに歩いていき手を差し出す。
──小さい頃に転んでしまったときはよく幼なじみが手を差し出してくれた。今となってはそんな幼なじみと会う機会も減って顔すらも曖昧にしか思い出せないが。
差し出された手をルカは、
「ありがとね。今回は甘えさせてもらおうかな」
そう言って手を掴みひょいと立ち上がった。力をそこまで加えられることなく身軽に起き上がってしまったため、助けは必要なかったかと考えてしまったが、今さらそんなことを考えてももう遅い。
「じゃあ、後片付けをしたら夕食の準備をしちゃうね」
そう言ってまたせわしなく動き始めたので、邪魔にならないように荷物を置いて居間で座って待っているのであった。
しばらくするとルカは昨日と同じ器を持ちながらミナトの前に差し出した。中を見ると昨日までの煮物とはかけ離れたような存在がそこにはあった。
まず、水ではなくドロッとしたような存在に変わっていたのであった。水を飲んでいるような煮物とは全く違う、まるで料理界に革命が起きたような存在感である。
それに色も違う。少ないながらも中の野菜が見える以前とは違い、白濁していて中に何が入っているかわからない。一瞬食べ物であるのか疑ってしまうほどであった。
何よりの違いは暖かいのである。基本的に煮物を作るとき以外は火をつけることはない。そのため今日も残り物の煮物で済まそうとしていたため、冷たいのは当然と考えていた。料理の工程として煮る作業に必要であるという以外に火を使う用途がないと思っているため青天の霹靂である。
「煮物の残りを見ていたらじゃがいもがあるのが見えてね、それをすりつぶしてまた煮込んでみたの。あとは片栗粉があったから少し使わせてもらったよ。牛乳とかあるとよかったんだけど、さすがになさそうだったから味付けはできてないけどね──」
「シチューっていうものを作ろうとしたんだけど、なんちゃってシチューって感じかなっ」
そう言い、ルカは見たことのない顔をしながらテーブルの対面に腰をゆっくりとおろした。
そんなルカを一目見てミナトは顔を伏せてしまう。
「それじゃ、食べてみてくれるかなっ! めしあがれっ!」
「う、うん」
そう圧倒されたままルカのシチューに手を伸ばす。
「……おいしい」
単に前の煮物よりも濃い味がしたので、それを表現する方法が他にない中で出た言葉であった。しかし、初めて聞いた感情の感じるような言葉を聞いたルカは、
「ホント!? すーっごい嬉しい! 完成品じゃないっていうのがちょっと心残りだけど、おいしいって言ってくれてよかった! ありがとね!」
様々な表情を見せる彼女にまだ戸惑いはあるが、何度も見てきて慣れが出てきたからか無表情のまま食べ進めていくのであった。
そんな彼女も見たことのない顔をしたまま夕食を食べていった。
食べ終わった後は彼女が「良いから」と言って片付けも率先して行っていた。
ルンルンとしながら洗い物をしてからテーブルに戻ってきた。
「明日はちょっと街の様子を見てみようと思うの。明日まで夕食の心配もないだろうし、何か見つけられると良いなって──、ミナトは仕事かな? 頑張ってきてね!」
気分が良いのかルンルンとした雰囲気を隠せていない言い方で聞いてきて、ミナトは頷くのみであった。
「じゃあ明日もよろしくね!」
そんなことを言い今日も一日が終わっていくのであった。




