第2話 協力関係
久々に他人と会話を交わしたミナト。
そんな夜はもう少し続いていくのであった。
「その感じだと知らないみたいね」
「……うん、グレイ……ウォッチ? そういう名前は聞いたことがない」
名称といった固有名詞なのかはたまた道具の名前なのかすらわからない、少なくとも17年この街で生きてきた中ではそのような言葉を聞くことはなかった。
もともとそんなに街の事情に興味もないミナトであるので、知らないのも無理はない。
「ミナトは若そうだから仕方ないわね。まだ13歳とかかな?」
「いや、17歳だけど……」
「えっ、うそっ! 17歳!? 私より年上じゃんっ! 失礼な言い方で申し訳ございませんであります?」
驚いた表情をした後に困惑しつつどんな立場の人に向けて言ってるかよくわからない言葉を話していた。
そんなルカを落ち着かせるために、
「さっきと同じ話し方でいいよ」
そういうとルカはホッとした表情を見せて、
「よかったーっ、私あんまりね、堅苦しい話し方が苦手で。それじゃ、今までの話し方で話させてもらうねっ」
「おっと、話が逸れちゃったね──」
ルカは「えーっと」と少し考えにふけり、
「そうだっ、グレイウォッチの話だったね。そういう組織の名前があって、その組織は霧を管理しているの。ほら、この街も霧に覆われているでしょ。霧の濃いところや範囲とかよくわからないんだけどそういうのを見ていて、問題が起こってないか見ているって話を聞いたんだ。詳しいことは残念だけどまだつかめてない。けどこんな感じ」
おとなしく聞いていたミナトであったが、霧が管理されていたのは初耳だった。両親からも霧で覆われている以上の話は聞いたことがない。そんなミナトの表情は驚きで歪むこともなく知識として身に付き、霧について尋ねられた時があれば今の話を回答することができるとしか思っていなかった。
「そして私は霧を晴らすための方法を探しているの。そこでこの街の霧について調査をしようとしたんだけど、グレイウォッチに見つかっちゃってね──。なんとか逃げ切れたんだけど力を使い果たしちゃって。木の陰に隠れていたのは覚えているのだけど──」
と真剣な顔をしていたが、また見たことのない表情に変わり、
「ということであとはミナトの知っている通りだねっ。いやーっ、あの時出会ったのがミナトじゃなかったらどうなってたことやら……この出会いに感謝だね!」
「どういたし……まして……?」
唐突に感謝されてしまったので、それに答える習わしを思い出しながら言葉にした。このような言葉はほとんど言わないため合っているかわからなかったが、特に言及されることもなかったので問題なかったのだろう。
「それでさっきは手伝うとか言っちゃったけど、霧の調査をしながらになるからそこは先に謝っておくね」
そう言ったルカは手を合わせて片目を瞑り首を少し傾けていた。そんなルカを見ていたミナトはまた目を背けていた。
「住むところも考えてなくて、食べるものも満足に用意できていない状態だからねぇ。追われてるときに置いていったリュックに食べ物は入ってたんだけど──。あとは協力者をこの街で探そうと思ったんだけど、今の状態じゃ厳しそうね」
そしてルカは「どうしよう」と言っていたが、ふとミナトが口を開いていた。
「……じゃあボクが手伝うっていうのはどうかな?」
ミナト本人でも想定外の言葉を口にしてしまったが、そんな言葉を聞きルカは初めて見せた呆然とした顔を見せていた。
「えっ、まさか手伝ってくれるって言ったの!? あっ、この家のことの手伝いに対してのお返しってことかなぁ? そんなことしてくれなくてもいいのに」
「……違う、そういうことじゃない……」
「違うんだ、──じゃあどうして手伝うって言ってくれたのかな?」
ルカの言葉に対して返すことができなかった。ミナトは他人には興味がなくそれは街の人に対象を広げても特別他人に対して興味があるという人は全然いなかった。そんな街で過ごしているから他人の行動に関与するなんてミナトは今まで一度もしたことがなかった。
それなのに見返りということではなく衝動的に『手伝う』と言っていた。こんなことを自分が言ったということに困惑していて今は脳がすごい稼働している。
感情が生まれたのかとも思った。しかし、表情は変わらず思考以外のものは何も感じられなかった。
最終的にフル回転させた脳でも理由はわからなかった。
そんな結論を出したミナトと同じタイミングでルカも口を開いたのであった。
「まあ、理由なんてなんでもいいよねっ、というわけで手伝ってくれるってことで良いのかな?」
そんな言葉にやっと口を開けるようになったミナトは、
「……うん、手伝うよ」
と答えたのであった。
こうしてお互いに協力体制ができた。ルカがミナトの家の手伝いをして、ミナトは霧の調査の手伝いをするという関係性だ。そんな流れでミナトにとって最近は経験したことないほど長かった夜も終わろうとしていたのだが、
「布団は私の分もあるかな?」
「いや、一枚しかないよ」
「そうなんだ。じゃあ、私は布団なしでいいや。毛布か何か掛けるものだけもらえるかな」
「……? 一緒の布団で寝れば問題ないよね」
「──えっ!? どういうこと!?」
「……言葉通りの意味だよ」
──まだ少し夜は長いかもしれない。




