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灰色の街で、光を拾う  作者: 秦はるま
第二章『テイミスト』
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第27話 逃亡

 洞窟を出たところで出くわした二人の人物。

 片方は筋肉隆々で組織から支給されたのか裂けてしまいそうな灰色の服を纏っていた。

 筋肉が服の上から浮き出ていており、気配を消そうとするために着ていると思われる灰色の服も違和感を加速させるだけだ。


 もう片方は特徴がない人、がっしりしているわけでもないが肩幅は男性とわかる程度にはかっちりしている。顔ものっぺりした感じだが、目が寄っていることなく至って特徴のない顔なのである。

 普通過ぎてむしろ逆に印象に残るといった方がいいのだろうか、そんな奴だった。


「おっ?」


 向こうもこちらに気付いたようだ。


「ドーマさんあの光っているやつらって」


「あれが話してた奴らか。別に俺たちが連れていっても良いんだよなぁ。あの軟弱者は動くつもりがねぇみたいだからな」


 今すぐに襲ってくるということはなかったが、こちらを意識したタイミングで明らかに雰囲気が変わったようだ。

 目つきがぎらついている。


「ちょっとこれってマズくない? 逃げる?」


「でも相手の実力もわからないまま逃げるのは……、様子見した方が良さそうですわね」


 互いに見つめ合い膠着状態になるかと思われたが、向こうから話が切り出された。


「そこの光ってる二人、こっちに来い。そうすりゃ俺らは何もしねぇぜ」


 ドーマと言われてたやつはギザギザとした歯を見せつけるように口角を上げて、一方的な交渉をしてくる。

 内容はともかくすぐに暴力に訴えてこないのは、その風貌と雰囲気からは意外であった。


「俺たちも痛めつけたいわけじゃないからなぁ」


「そんな提案、受けると思ってるの! あなたたちに捕まってひどい目にあったんだから!」


 ボクたちの一歩前に出てルカは灰色の集団に物おじせず訴えかけていた。

 この中で一番恐いはずであろうに前に出てくる彼女は、ボクが心を動かされた凛々しい姿であった。


「ボクも行くつもりはないよ」


 ボクもルカの横に出ていく。

 後に続く形で少しカッコ悪いが、それでもルカの隣に立っていたい。

 期間としては短いかもしれないが、この調査隊では一番長く一緒にしているんだ。


「チッ、しゃあねぇなぁ。穏便にしてやろうってなこたぁできねぇか」


 話し合いは無理だと判断したのか、髪をかき上げて手をぽきぽき言わせてくる。


「こういう手合いはやはり暴力ですか……。行けますね、ヤヒコ」


「もちろんです。チオリ様優先とはなりますが」


 隣を見るといつの間にかルカは後ろへ後退してボクが一番前に出ている。

 ボクは戦うことなんてできないぞ、と思っていると目の前にドーマの拳が目の前に迫ってきていた。

 とっさによけようとしたが間に合いそうにない──。


 ──そんなボクの目の前に手が割り込んできた


 ボクは目を瞑って防御姿勢に入っていたが、顔に拳の衝撃はこなかった。恐る恐る目を開けてみると割り込んできた手が止めてくれていたようだ。


「……ありがとう、ヤヒコ」


「いえ、一番の脅威を排除するために取った行動です」


「俺の殴りを止めるなんてなかなかじゃねぇか。面白れぇ、相手になってやんよ」


 二人はその場で対峙して、両手を掴んで押し合っている。

 体格はとてもヤヒコでは敵わないほど差がついているのに、互いに動くことなくにらみ合っている。


 すると、体格差を覆すようにヤヒコが少しずつ足を前に出していた。


「んだと、俺を押し返してきやがるっ」


「チオリ様を守るために日々鍛えておりますので」


 こちらには目もくれず二人だけの世界に入ってしまったような、そんな雰囲気を漂わせている。


 最大の脅威であるドーマはヤヒコに任せ、こちらはもう片方の敵に集中しなくてはいけない。

 残っているのは特徴なき男、ひとりだけである。

 数でみれば圧倒的優位であるが、力量ではむしろ負けている可能性があるのではないだろうか。


「私がガキのお守りをしないといけないのですか。面倒くさいですね」


「これって戦った方がいいのかな?」


「いえ、ヤヒコもあのまま足止めできるかはわかりませんわ。この場合は逃げる選択肢が良いかと」


 ヤヒコの様子を見ているだけで、突っ立って何もできないボクの代わりにルカとチオリが話を進めてくれる。

 動くどころか喋ることもできないボクにとって、場を動かしてくれる二人の存在が心強い。


「うわっ三人も止めるのか。だるいこと言いますね」


 何かを諦めたかのように特徴なき男がこちらへじりじりと近づいてくる。


 ここはボクが前に出ていかないといけないだろう。

 先ほどより緊張がほどけてきたので、へっぴり腰のまま少しずつ前へと歩み出す。


 正直ルカにも力比べで負けるレベルの筋力の低さなので、頼りにならないかもしれないが……


「えっ、ミナト大丈夫なの? 無理しなくて良いんだよ」


「いや、少しは足止めしておかないと追いつかれるかな」


 そう、ひとりだけとはいえ相手は大人、こちらは子どもである。特に走りに自信のないボクは簡単に捕まってしまうのは目に見えている。

 それならば囮になって時間を稼ぐ、できれば追いかけてこれないように足でも引っかけられれば完璧であろう。


「こんなガキが止めに来るんですか。まあ威勢がいいことだけは認めましょう」


 策を練れないボクにとっては先手必勝が一番。真正面から突っ込んでいくが、力のないボクは押し負けてしまう。

 それでも後ろを守るために少しでも抵抗しなくてはいけない。


「グレイウォッチに負けるわけにはいかない……」


「あんたは何を言ってるんですか。俺たちは『グレイオブザーブ』という名前があるんですから」


 ミナトは再び足止めをしようとしている状況の中で思考を加速させていく。

 ボクの知っている『グレイウォッチ』ではない名前が出てくる。


 ──『グレイオブザーブ』


 似ている名前で関係性があるというのは安直であるかもしれないが、ひとつだけ無関係と言うには無視できない特徴がある。

 全身が灰色の服。この街に来てからも見ることがない、地味だが目立つものだ。


 ボクが考えごとをしているところをチャンスと言わんばかりに、特徴なき男は力を込めて追い払おうとする。


「何してるのミナト!」


 やってくる腕を避けるタイミングを見失い呆然とやられそうになっていると、後ろから声をかけてくれる存在があった。


「もう、無茶するんだからぁ」


 ルカはボクの腕を引っ張ってくれて目の前に腕がかすめる。一緒にいるときはいつもそばにいてくれる存在。


「ガキが増えたところでどうにかなると思わないことです」


 足止めを助けてくれるのは嬉しいがこいつの言うとおりだ。

 多勢に無勢なこの状況を改善できるほどではない、と思ったが。


「くっ!?」


 後ろから何かが飛んでいく。いや、ボクの隣から出ていたはずだ。

 これは見たことある、ボクもやった光を飛ばすものだ。


 隣に視線を移すとルカが右手を前に出していた。


「ふっふっふっ……、実は練習していたんだ! まだ小さな光しか出せないけど目くらましには十分だね」


 特徴なき男は両手で目を押さえて体を大きく揺さぶっている。

 これでボクに抵抗してくる存在もなくなったので、完全にフリーになる。


 敵に対して思うことでは無いのかもしれないが、いくら襲われた側でも相手を貫いたりしてしまえば過剰防衛になってしまう。別に物理的に野蛮に排除するのは目的ではないのだ。

 今回は足止めだけできればいいので、光だけ使い視界を奪う方法は最適である。


「今がチャンスですわね、こちらですわ」


 チオリは逃げ道を確保していたようで、少し離れたところでこちらに手招きをしていた。


 こちらの動きに気付いたのかヤヒコもドーマとの一対一を終わらせねばと動き出す。


「おいおい、何をしようとしてんだ」


 ヤヒコは少し身を引いたと見せかけわき腹にカウンターを決めようとするが、腕で防がれてしまい有効打にはならない。


「いいえ、こちらは本命ではありません」


 上のカウンターを防ぐことでドーマは下で何が起こっているか確認がおろそかになってしまっていた。

 足を滑り込ませてドーマの脛の下にクリーンヒットさせる。


 この不意打ちにはさすがに気付くのが遅れてしまって、対処することができなかったドーマは体がよろめき倒れこんでしまう。


 その隙を逃さずにヤヒコはすでに撤退している三人のところへ追いかけるように颯爽と走り抜ける。


「チッ、街に逃げてったし今回はここまでにしといてやっか」


 ドーマは体勢を直してから逃げた方向に目もくれず引き揚げていった。


「待ってください、ドーマさーん!」


 一緒に居た仲間も遁走していく。


 その場は何事もなかったかのように静まり返っていた。

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