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灰色の街で、光を拾う  作者: 秦はるま
第二章『テイミスト』
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第26話 明確な敵意

 変わり映えのしない洞窟で帰り道がわかるのかという不安があったが、


「ヤヒコに付いていけば問題ないですわ。そうよね?」


「はい、チオリ様。なにもされていなければ問題なく帰ることができます。ご心配なく」


 行きの道中でヤヒコの身体能力の高さ、生活能力の高さ、諸々を初めて同行したボクとルカに知らしめた。

 むしろイレギュラーがあっても何事もなく外に出れるのではないかという安心感もある。


「後は化け物が居ないことを祈るだけだね」


 帰り道も行きと同様に長いためもう一泊することになった。

 休む場所も昨日と同じ川の流れる洞穴である。


「やっぱりここだよね。このまま帰るのも良いかなぁ、って思ったのにぃ」


 疲労もあるので無理して帰ると怪我してしまうかもしれない。

 ルカ以外は休憩するのに賛成だったので、ルカは頬を膨らませて不貞腐れ気味だ。


「いえ、おそらく夜遅くになってしまうので、焦らず、慎重に行くのが大事です」


 大人に怒られた子どものようにしぶしぶ従うルカであったが、作業は慣れてきたのか休む準備をテキパキとこなしていた。さすがはリーダーと言ったところか。


 こうして出発してから二度目の就寝をむかえる。



 ボクが起きた時にはもう出発の準備ができていた。


「ミナトおはよーっ。ぐっすり眠ってたね」


「……おはよう。疲れが出たのかも」


 あの日記のこと、考えないようにしていたが頭の片隅ではずっと残っていたのかな。

 光に対する不穏な内容。それで思い出してしまったルカの処刑も関係あるのかもしれない。


「大丈夫? もうちょっと休んどく?」


「大丈夫だよ。行こうか」


 チオリとヤヒコはすでに出発の準備はできているようだ。

 ボクも遅れるわけにはいかない。

 手早く準備をして二度と来ることのないであろう洞穴に別れを告げた。


 そういえば何気なくあの洞穴を使っていたが、誰か使っていたのではないかと思うほど整備されていた。

 岩場なんて寝にくいという印象だったが、でこぼこがほとんどなくむしろ寝てくれと言わんばかりの地面であった。



「誰もいないね」


「危害を与える者でもいれば対処と思ったのですが、それは杞憂で終わりそうですわね」


 来たときは霧に攻撃されそうになったのが夢か幻であったと思うほど、帰り道は何者にも出会わない。

 かといって道中も楽と言うわけではなかった。道は人の通った形跡はあるのだが、人ひとりどうにか通ることのできる岩場などもあった。

 でもやはり、あの化け物に出会わないだけでこんなにも楽であったのか。


「今更だけど影は人の形だけじゃなかったんだね」


「私も驚いちゃった。でも最初に見たのが人間みたいだっただけで、そもそも二足歩行してるのも化け物みたいなものだからね」


「あたくしはその二足歩行を見てないのですが、洞窟で出会った者と同じでしたの?」


「三本足以外は違いは無かったんじゃないかな?」


 初めて出会った時は遠目で見ただけで、しかも逃げ回ってる最中に見ただけなのだ。

 間違いないと断言するには情報が少ない。でも、脳裏に焼き付くほどのおぞましい者を見たというインパクトはあったので、的外れでもないと思う。


「それならば同じと考えて良さそうですわね。形なんていくらでも変えることができるはずですから」


「だって、霧で出来てるもんねぇ」


「そこまで万能じゃない気がするけど……」


「でも操る奴らが居たくらいだよ。形くらい変えられるかもしれないって」


 実際にその集団をボクは見ているので言葉が詰まってしまう。ルカを攫ったあいつらだ。

 このタイミングで街であいつらかもしれない存在に出会った事を伝えてしまうか。

 ただ、今はまだ日記の方に思考を集中したい気持ちもある。


 ──あの本に書かれていたことは一体なんだったのだろう


 結局ボクは話さない──黙秘をすることにした。

 この場で言ったところで何か解決するわけでもない。それに昔から率先して話すことをしてこなかったボクは言葉にするのもすんなりできない。

 伝えられない想いを胸に秘め、ボクは歩いていく。



 …………。


 ……。


 休憩中、ボクは眠っていたようだ。


 しかし、漠然とした恐怖にも似た違和感。悪いモノが近づいてくるかのような背筋をゾッとさせるような気分。

 ボクは勇気を出して起きてみると、そこにはルカがこちらを覗き込んでいた。手は後ろにして、まるでボクに見つかってはいけないかのように隠している。


「何しようとしてたの……」


「いやぁ、まあ、その──。ミナトがなかなか起きないじゃん。だからねぇ」


 そう言いつつジリジリとルカは後退していった。

 定かではないがどうやらルカのイタズラの予兆であったか。

 相変わらずとは思ったが、実際に何か起きたわけではないみたいで安心した。


「……行くよ」


「う、うん。そうだね」



 帰りは行きと真逆のフォーメーションになっていた。ヤヒコが先頭に立ちルカとチオリが後ろ。そしてボクは真ん中だ──ボクの位置は結局行きも帰りも変わっていない。

 そういえば先ほどからヤヒコの物を拾う動作が気になる。


「何、拾ってるの?」


 素朴な疑問であったが聞かずにはいられなかった。行きの時には物を拾うそぶりなど見せていなかったのに、今は明らかに何かを探すかのように辺りを見渡して進んでいる。

 進むにしては効率が悪いのではないか。


「行きに落とした手がかりを回収しているのです。特徴もない洞窟でしたので目印を撒いてました」


 そう言って見せてくれたのは光り輝く透明な砂みたいな物であった。


「なになに? どうしたの?」


 何か話しているボクたちに気付き、ルカが興味津々にこちらに顔を出す。


「ヤヒコが帰り道対策をしていたってことだよ」


「さっすがだね! それで何を集めてるの?」


 ルカが早歩きをしてこちらの会話に加わる。


「こちらです」


「えーっ! こんな細かいのばら撒いてたの! 私じゃ小さすぎて分からなくなっちゃうよ……」


「普通の人は見分けにくい素材を使用しておりますので、大した物ではございません」


 何事もないように言い放つが、仮に見えたとしてもこんな細かいのを拾いながら進むなんて普通の人にはできない芸当ではないか。


「さらに驚きなのはこんな地道なことを洞窟に入った時からやってることだよ。私なんかじゃ思いつかなかったっ」


「何事も保険をかけとくのは大事なことですから」


 リーダーの意地でも見せたかったのか、悔しそうな顔をしながら後退していく。

 ムードメーカーとしては充分役に立っているので良いことではないだろうか。


 休憩地点の洞穴を出てから結構な時間が経っていた。行きと同じルートであるのでもうそろそろ出ることができる距離まで歩いたように感じる。

 休憩をはさんでいるとはいえ歩き続けているから疲労がスゴイ……。果てなき長い直線を見て気が滅入ってしまう。


「あっ!」


 後ろを歩いているはずのルカがいつの間にか前に出ていた。そのルカが何かを見つけたようだ。


「あれって出口じゃない!?」


 まだボクの目には見えてこないがルカがやっとこの探検の終わりが見えてきたことに喜びだす。


「出口で間違いなさそうです」


「ってことは、やっと洞窟から出られるんだねっ!」


「喜ぶにはまだ早いですが安心しても良さそうですわね」


 やっとこの薄暗くジメジメした生活からおさらばできる。

 チオリも言ってたようにまだ出れたわけではないが、すでに安心感が湧いてきている。


「良かった……」


 まだ明るい時間のようで外の様子はわからなかったが、ヤヒコのおかげで入ってきたところと同じところに出れるだろう。


「出れたーっ!」


 一番乗りして出てきたルカは開放感のあまり叫んでいた。

 続けてヤヒコ、ボク、チオリが順々に出てきた。


「お気を付けください。何が居るかわかりませんから」


「これで硬い地面で寝なくて済むね」


「外の空気は美味しいですわ」


 外は霧に覆われているが明るい。太陽の位置から推測するにまだ夜は先であろうか。


「ふふーん、帰るまでが今回の調査だから、あと少し頑張っていこう!」


 相変わらずの元気さで進もうと足を踏み出したときであった。


「いえ、止まってください」


 ヤヒコの真剣なトーンでボクたちは足を止める。

 また、霧の化け物でも現れたのだろうか。


 「ガサガサ」と近くの草木が揺れた。


「何かが居ます」


 木の影から出てきたのは灰色の化け物。いや、そんなわけはない。灰色の服を着た人が二人。

 もう見たくもない特徴、でも霧に覆われた街に来た時点で見かける可能性はあったのだ。


 忘れることもない……、あいつらは「グレイウォッチ」だ。

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