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灰色の街で、光を拾う  作者: 秦はるま
第二章『テイミスト』
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第25話 手がかり

 変わり映えのない狭い通路を黙々と歩き続ける。

 広い空間にでも出ないと方向感覚もわからなくなってしまいそうだ。

 それでも、足の疲労感だけが進んだことの証明をしてくれる。

 それを頼りに確実に一歩ずつ足を進めていく。


「このまま外に出ちゃうのかなぁ」


「風のゆらぎは後ろから感じるだけです。おそらく外へは出られないかと」


「そんなぁー、せっかく探検は終わりかと思ったのにぃ」


「終わらせたいなら戻ればいいのではないのですか?」


 疲れもあるのか落胆を見せるルカに素朴な疑問を投げかけるチオリ。


「ダメだよーっ! 引き返すなんて行き止まりがあった時くらいだよ。過去は振り返らないのがモットーなんだから!」


「あら、そうなのですか……? なるほど?」


 ボクはあんまり相手の様子を把握するのは苦手なのだが、これはわかる。

 明らかに思考停止して情報を受け入れることができない様子だ。

 まあ、ボクもルカと出会ってから初めて出てきたモットーを急に聞かされたので、ツッコミを入れる余裕はないのだが。


「無粋かもしれませんが、帰り道も同じ道を通るのは引き返すことになるのでは」


「おーっ、さっすがヤヒコだね。でも私の探検隊は帰り道が全部違うから問題ないよ!」


 いや、老人の家から自宅に帰ろうとした時に、行きと同じルートを通ると言ったのは誰だろうか。

 つい今言ったルカの言葉を反論しようとしたが、チオリたちはあの街でのことを知らないから口を結んで言わないように我慢した。


「それにしてもなんだか、そろそろ面白いことが起きそうな予感だよ」


「ねぇ、不穏な言葉が聞こえてきた気がするんだけど、気のせいかな?」


「ううん、気のせいじゃ──って不穏じゃないよ! 面白いんだからハッピーな言葉だって!」


 この狭い空間にどんなハッピーなことがあるんだろうかとも思うのだが。


 ──そんな心配はあっけなく消え去った。


「待ってくださいまし。……これって?」


 少し進んだ先に開けた空間がある。今までより小さめの洞穴であったが、机と数冊の本が置いてある。


「これがチオリの言ってた隠されている物ってやつ?」


「どうでしょう。でもあたくしが想定していたものではあるかもしれませんわ」


 二人はまだ距離のある机をじっくりと見て憶測を言い合う。

 ボクは何も声を発せずに居た。わからないが不穏な雰囲気を感じとっていた。


「危険はなさそうです。触れても問題ないかと」


 ヤヒコの言葉は誰よりも信用があるのかもしれない。それを洞窟内で何度も実感していた。

 何か怪しい感じはしたのだが、それはボクの気のせいだと考えていいだろう。


「これが手がかりになるのかな……」


 それにしても机があるなんて。

 おそらく、とりあえず使いたいという目的で用意したのだろう。不格好で脚の長さもバラバラだ。

 でも、短時間であれば強度が問題ない程度には頑丈に作られているようだ。


「本も見てみよっか」


 ルカは適当に一冊の本を取り出す。表紙には何も書いておらずどんな内容かわからない。

 中を見るため表紙をめくるが、記載者が誰かすら書いてない。


 続いて中身をパラパラと見てみるが、書き始める場所に規則性はない。

 いや、記載の仕方に何か意図があったりするのだろうか。


 それにしてもボクは、読みやすいが独特な癖がある文字で書いてあることに気付いた。


「なんか読みづらいよねぇ」


「そうですわね。これは一苦労しそうですわ」


 しかし、周りの感想はボクと真逆であった。

 この字が読みにくいとは想像をしておらずちょっと意外であった。

 文章を読む回数が多いとかが影響しているのだろうか──ボクはそんなに文字を読むわけでもないので可能性は無いと思うが。


「それじゃあ中の文章を読んでみるね」


 閉じた本に再び指をかけてゆっくりと紙をめくり、そこに書いてある文字を読み始めた。


『霧は素晴らしい。感情を抑制できるので人々をコントロールできるかもしれない』


 意図はつかめないが、いきなり頭を抱えたい内容が書いてあった。

 周りには『霧の街』や『感情の消失』といった今まで経験した言葉が散らばっている。


『だが、掴むことすらできないものをどうやって操るのか』


「これって」


「何か危険なオーラがムンムンしますわね」


 糸くずみたいな文字に蛇みたいな文字。人並みには文字は知っているつもりだ、仕事でも必要だったし。でもこんな字、見たことがない。

 読みやすい文字であるが、知らない文字は読むことができない。

 博識であればこの文字が読めたのかも……。自分の学の無さを憂う。


 しかし、ページをめくっていると複雑な文字を使わずに書かれており、ボクたちでも読めそうな範囲があった。


『霧と光』


 気になるタイトルで目を引くものがあった。

 ちょうどこの空間に情報を欲する二人が居る。まるでタイミングを見計らっていたかのように。


『霧として考えなくてはいけないものができた。イレギュラーである光だ』


『あれがなければ理想は手に入ったも同然だったはずなんだ』


 所々の文字がかすれているため詳細はつかめないが、光が何らかの阻害をしているということは間違いなさそうであった。


『悲観するには早い。もう一人に希望を託す』


『あいつに責任を取ってもらう。再び生みだされては困るからな』


 これ以上の詳しい内容は書かれていなかったが、言葉が出ない。

 おそらく悲惨な犠牲者でも居たのではないか。明記はされてないが想像をしてしまう。


 唯一違った反応をしたのは、光と一番関係性がありそうなルカであった。


「これって結構スゴイこと書いてあるんじゃないの!」


 興奮状態で金銀財宝でも見つけたのではないかと第三者が思ってしまうほどの反応だ。


「本当のことが書いてあるとは限りませんのよ」


「おっ、その可能性もあるんかぁ」


 実のところを言うと危うくボクも書かれている内容を鵜呑みにするところであった。


 よく考えてみればそうだ。

 いくら隠れ家的場所に見つからないように日記が置いてあるとはいえ、誰かのただの妄想でおとぎ話のようなものかもしれない。

 光と関係ない第三者の意見は、光の当事者のボクたちを冷静にさせてくれる。


「ですが、無関係というには内容を見ると難しいですわね。実際に光っている方がここにいらっしゃいますし」


 チオリはボクとルカを見つめる。改めてボクたちのことを観察しているかのようで視線がこそばゆい。


「ねぇ、いろいろと考えた方がいいと思うんだけど、さすがにこれを持っていくのはマズいかなぁ」


「そうだね、誰の物かもわからないし」


 変に持っていき泥棒扱いされるのは快くはない。

 こんな場所までわざわざ来て「泥棒だ!」と言ってくる人がいるとは思えないが。


「じゃあ、戻るということで良いのかな」


「ええ、不用意に他の場所を探すとかえって危険になるかもしれませんわ」


 こうして、手に残るものではないが成果も得られたので、元来た通路を戻っていくことになった。

 しかし、先ほどの書いてあった内容は気になる。


 ──霧と光


 今までは何気ない日常にあったただの単語。しかし、最近になって多く聞くことになって身近になった組み合わせだ。

 どんな関係性があるかはよくわかってない。でも、実際に光を使って街の霧を晴らした。その事実はミナトの心にしっかりと刻み込まれている。


「でも……」


 わからないことが多すぎる。

 なぜ霧が晴らせるかなんて書いてなかったし、そもそも霧を制御できるという言葉で思い出したくもない集団のことを思い出してしまう内容。

 これは、屋敷の前でぼんやりと見かけた灰色の人もおそらく見間違いではないのかもしれない。


「おーいミナト! 何してるの? 行くよぉ」


 ルカに呼ばれたことで我に返る。このままでは出口すらわからなくなる洞窟ではぐれてしまう。

 答えは出ないままだが、ルカたちの後を追いかけていった。

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