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灰色の街で、光を拾う  作者: 秦はるま
第二章『テイミスト』
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第24話 それぞれの朝

 むくりとひとつの影が体を起こす。


「んむむ……、おはよー」


 青い光を纏った少女は返事のない中で朝のあいさつをする。起きようとごそごそしていると、


「おはようございます」


 爽やかな声が返ってくる。


「起きてたんだ──」


「はい、チオリ様を守らななくてはいけないので、いつでも動けるように待機していました」


 さすがチオリの従者だ。でも、すぐに行動ができるように寝てすらいないのかもしれない。


「少しは寝ないとやっていけないよ」


「いえ、二、三日は寝なくても行動ができるように鍛えていますので」


「そんなこと言ってないでっ! ちゃんと休んでおかないと!」


「ではお言葉に甘えさせていただきます。何かありましたらお呼びつけください」


 そしてヤヒコはルカと入れ替わるように寝に行く。その足取りは軽く、このままひとりでも問題なく調査を完遂できてしまうのではないかと思えてしまう。

 これで一晩寝ていないというのはどうにも信じられなかった。


 ヤヒコが休んだことでルカはひとりになってしまったが、特に落ち込むことなく、陽気なBGMでも聞くかのように目を閉じて体を揺らす。

 川の流れる音がかすかに聞こえてくる。静かな空間にアクセントを加えるかのような自然の音は気持ち的に力強かった。


 すると昨日この空間へ入った方と逆の穴から黒い何かがやってくる。

 よく見てみると四本足の霧の影である。

 人影とは言えない形だが、その点を除けばこの街で見かけた霧の影にそっくりである。


「んっ?」


 急に止まったので、武器となるものは持ってないが、すぐ動けるよう臨戦態勢に入る。

 しかし、四本足の影は止まったまま顔と思われる箇所が動く。

 もし形は違えど人影に似ているという予想が合っているとすれば、ある動作をしたのかもしれない。


「くしゃみしたのかな、かわいいっ」


 幼児を見守るような破顔をしたが、四本足の影はそのままのそのそと反対側の穴へと歩いていきどこかに行ってしまった。


 ──特に何も起きる気配はない


 本来であれば先ほどの状況は誰か起こすことが見張りの役目であるように思えるが、とても害意のある存在に見えなかったのでただひとり低姿勢のまま動かずにいた。

 しかし、危険性は関係なくなんだろうなと疑問の表情をしていると横から物音が聞こえてくる。チオリが起きてきたようだ。


「あら、早いのね」


「おっはよー」


「それにしてもあのヤヒコが寝ているなんて珍しいわね」


 チオリは辺りを見渡しいつもそばに控えている存在を探していた。

 彼女にとってはイレギュラーなことなのか少し顔が青ざめているような気がする。


「ずっと起きているんだもん。私が寝てきなって言ったんだよ」


「そうでしたの。あたくし以外の言うことを聞くなんて……」


 その言葉を聞いてホッとした顔をする。

 ヤヒコはチオリの従者だ。同行しているとはいえチオリに伝えた方が良かっただろうか。


「ご、ごめん──」


「いえ、謝らないでください。意外だっただけなので。失礼しました」


 こちらが騒がしくなってきたのに気づいてミナトも起きてくる。


「……ん、おはよう」


「ミナトもおはようっ!」


「おはようございますわ」


 ミナトの後ろには、いつの間にか起きたヤヒコもきていた。


「早くない? ちゃんと寝れたの?」


「はい、数日は活動できる状態です」


「それって大丈夫なのーっ?!」


 ヤヒコへと目を細めながら疑いの視線を向ける。

 超人的能力を持っているのは間違いないが、いくらなんでも永久機関を持っているわけないだろう。


 ヤヒコはお辞儀をするだけで答えてはくれなかった。

 問題ないとヤヒコの圧が語っている、むしろこれが答えか。


 さらに追及しようとしたが、かといってこれ以上何も言うことはできないので、ルカは口を閉じてしまう。



 朝の食事を終わらせたボクたちは作戦会議をしていた。


「これから進む方向ですけど、引き返してあの三叉路を右へと進むか、このまま進むかの二択ですわね」


「このまま進んでいくのが良いんじゃないかな? あの化け物がまだいるかもしれないし」


「ボクも進んだ方がいいと思う」


 すでに半数の意見が一致した、チオリが違うと言うとも思えないので、これは進んでいくことに決まりだろう。

 ヤヒコはチオリと同じ意見であるだろうから、すんなり決まるであろう。


「あたくしは引き返してあの化け物が現れた道へと進んだ方がいいと思いますわ」


 予想が外れてしまった。まさか、反対意見が出てくるとは。

 このままでは同数の意見で対立し、しばらく動くことができなくなってしまうのではないか。


「誰かが何かを隠している場合は守る必要がある。つまり、あの化け物が守護神であるのではないかと思うのですわ」


「ん? 奥に何か隠されてるの?」


 今回の洞窟調査を発案したルカがきょとんとしていた。こちらもそんな顔を見て同じくきょとんとしてしまう。


「何かあるから調査しに来たのではないのですか!?」


「いやぁ、霧がある街の外側には何かありそうだから進んでいるだけだよぉ。わざわざ危険を冒す必要も無いし」


 チオリがお嬢様らしからぬ驚き顔を見せている。しかし、事情を知らなければこんな顔もしてしまうだろう。

 ルカの破天荒な性格には文字通りよく振り回されている。


「ではこの洞窟の奥には何もないってことですか……?」


「そりゃあればいいかなーって感じだよ。私たちは手探りで進んでるんだもん」


「チオリ、諦めて。ルカはいつもこうだから」


「むっ、ちょっと侮蔑を感じるよぉっ」


 これがいつも通りという雰囲気で話すボクたちに、いまだ加われず驚いた顔をしているチオリ。


「大丈夫ですか、チオリ様」


「ええ、大丈夫ですわ。でも、これはこのまま進んでいくのが良さそうですわね」


 根負けしたのかルカの意見に賛同することにしたようだ。


「よぉーし、進んでいこうか!」


 強引に先に進んでいく選択をした気がするが、場の空気を飲み込むのもルカの才能のひとつだろう。

 チオリも主導権を握るのはうまいと思うが、想定外の事象には混乱してしまうのかもしれない。


「やっぱり、リーダーはルカじゃないとね」


 最近は何を言っても聞こえてしまう地獄耳なルカに聞こえないように、内緒話をするようにただ静かに呟いた。

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