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灰色の街で、光を拾う  作者: 秦はるま
第二章『テイミスト』
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第23話 洞窟の危険

 二度目の分岐に差し掛かったボクたち。

 どちらを進むのか考えるよりも先に、ルカが上機嫌でヤヒコの方へと振り返る。


「また、分岐だよ──。でも大丈夫! うちにはヤヒコが居るんだからねっ。さあ、ヤヒコ! どっちか教えて!」


「いえ、今度はどちらの穴も風を感じません。どちらを選んでも深いところまで続いているものだと思われます」


 二度目の左右に分かれた穴にボクたちは早速困ってしまった。

 頼ろうとしていたヤヒコも不発で「ありゃ」と斜め下を確認するようにガクッと落ち込んでしまう。


「それは困りましたわね。他に手がかりはないですし」


「ならば、今度こそ私の最強の──」


「あっちから音がしない?」


 今度はボクがルカの提案を遮るように左側の穴を指差した。ボクの耳には微かだが「ズズッ」という音が聞こえたように感じた。


「いえ、音なんて聞こえなくてよ。ねえヤヒコ?」


「はい、音なんてしません。ただ、言われてみると言葉にしがたい違和感はあります」


 ヤヒコでもわからない何かを感じ取ってしまったのだろうか。

 小さな音ではあったが、確かに聞こえた自信だけはある。


「ミナトが言うんだし右で良いんじゃないかな?」


「危ない橋は渡るべきではないですからね。右へとまいりましょうか」


 ヤヒコの発言も後押ししていたのかもしれないが、満場一致で右へと向かうことになった。


 その後も二度ほど分岐があったが、難なく進むことができている。


 ──ちなみにルカのとっておきは……出なかったよ


 ボクの発言以外はヤヒコが超人的な感覚を研ぎ澄まして、何とかルカに振らずに済んだからだ。


「もおぅ、一度もスーパーデスティニールカダイブを使わないなんて」


 名前からして危なすぎる気配がプンプンしてくる。下手したらリュックを投げたり靴を飛ばしたりしていたかもしれない。


「やらなくて正解だったんじゃないかな……」


「あたくしも予想はつかないですが、やらなかったのは賢明な判断だったと思いますわ」


「みんな、ひどいっ……」


 ボクの前方で項垂れてしまったルカ。今日は空回りしているように思えたので、少し早歩きで距離を縮め、ルカの背中を撫でてあげる。


「ミナト、ありがと」


 わずかに振り返って作り笑顔のようなぎこちない微笑みをこちらに返してくれる。

 うちのリーダーはやっぱり笑顔で元気でいてもらわなくては。


 結構な距離を歩いたころだろうか。

 洞窟の中では時間がわからなかったがヤヒコが、


「外はもう日が暮れている時間ですね」


 ポケットから片手で出した懐中時計を確認し、時間感覚を取り戻せるようにみんなに伝えてくれる。

 あの片手でスムーズに時間を確かめる動作はちょっと憧れてしまうのだが、ボクだけだろうか。


「そろそろ本日の休憩場所を探さないといけないですわね」


「歩けなくなる前に探さないとこの細い道で休まないといけないのかぁ」


 時々休憩で洞窟内の狭い通路を使っているのだが、全然体を休めることができない。そもそもそんな目的で作られた場所ではないので当然であるが。

 まだ進まないといけないので、いくらか開けた場所があるとありがたい。


「おっ、こういうところなら寝れそうじゃない?」


 ルカが声をあげて進んでいくところについていくと、少し道幅が広くなっている、四人なら充分に横になれそうなスペースがあった。


「悪くはないですわね。この場所を使わせていただきましょうか」


「わーい! じゃあ準備を──」


「待ってください、みなさま。何か怪しい気配を感じます」


 ヤヒコの緊迫した声を聞いてボクたちは身構える。

 このスペースにはボクたちが来た穴の他にも二箇所穴が開いている。洞窟なんて貸切できないだろうし、むしろお邪魔している側なのでこちらが帰るのが道理だろう。

 でも、ボクたち以外の更なるお客が来る可能性もある。


「あれって……」


「これが霧の人影、ですの?」


「何か違う気がするね。前部分にも霧みたいのがある?」


 この街に来て見かけた影とは少し形が違っていた。

 大きさは昨日見かけたものよりやや小さめで、胴体と言って良いのだろうかわからないが、体の中心から第三の足が生えているのである。

 例えるのも難しいが、老人が杖でも付いているという表現が一番しっくりくるだろうか。


「何もしてこない──、なんてありませんわよね」


「様子見することはあったかな」


「でも、あの時は少しずつ近づいていたから、あっちも目的は何かありそうだよっ」


 数が増えてきてから急に迫ってきたので、何かしらの基準はあるのかもしれない。

 しかし、この街に来て初めて見た霧の性質であり、それも一度だけでは何も考え付くことがない。


 三本足の霧の化け物が何をしているか様子を見ていたが、ゆっくりと歩くようなたたずまいで接近してくることは無かった。


「離れた方がいいかもしれません」


 ヤヒコがそう言うと三本足の化け物が霧の範囲が急にどんどん増幅していった。

 こちらに対して明確な敵意があるわけではないと思うが、汚くなったから掃除でもするかという感じでルーティーンとして排除する意志はありそうだ。


「実体が無いので防ぎようがないです。逃げるのが最善かと」


「といっても、どこに逃げるのっ」


「来た道に向かってますから、あたくしたちは左の穴へ逃げた方がよろしいかと」


「ボクも賛成だよ」


「じゃあ全力でダッシュしていくよぉ!」


 霧に捕らわれないように精いっぱい足に力をこめて走った。

 そんなこちらの様子を気にも留めずに、三本足の化け物はのっしのっしと霧を広げて歩いていた。


「はぁ、はぁ──、追ってきては、ないよねぇ?」


「チオリ様の考察いただいた通りもう一方の穴へと進んでいったようです」


「霧がヤヒコの目の前まで来ていたけど大丈夫だった?」


「はい、ギリギリのところで当たらずに済みました」


「間一髪ですわね……」


 ボクたちは霧と邂逅した洞穴が遠目で見える程度の場所に居た。

 この場所は先ほどよりも広い空間になっていて、川も流れているようだった。

 飲んでも大丈夫な水なのかはわからないが、無色透明で底の岩肌が見えるほど透き通っていた。


「今日はここを休憩地点にした方がいいと思うんだけど、私に賛成の人、手ぇ挙げて!」


 急な多数決が始まりボクは慌てて手を挙げてしまったが、チオリもヤヒコも手を挙げていた。


「むしろ移動するのが危険ですわね。ここも安全とは言い切れませんが」


「ですが一番安全なのがこの場所とも言えますね、広さも充分なので。しかし、入口が二箇所しかないのが難点でしょうか」


 あの場所に戻ってもここより狭く、襲われかけた化け物がまたやってくるかもしれない。

 こうしてここで過ごすことが確定したのだが、いまだに謎があった。


 あの時見た霧の人影はとても人と表現できないほどに変わり果てた姿へとなっていた。

 昨日見た人影とは違うものであったのだろうか。それとも洞窟だと変わるのか?


「それでは食事にいたしましょう」


「もうお腹ペコペコだよぅ。早く食べたいな!」


 お腹がすいた状態では複雑なことを考えることができない。今日はここまでとして明日も続く探索にむけて英気を養おう。

 ボクはルカたちのもとへと歩いていく。

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