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灰色の街で、光を拾う  作者: 秦はるま
第二章『テイミスト』
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22/27

第21話 調査開始

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 林より外側にある白い建物。そこに全身灰色で図体は小柄な男が入っていく。

 そして、大きな円卓のある部屋へと赴いていた。


「バレたかもしれないだと! こちらだけが情報を知っている優位性を欠くようなことをして、何をしているんだ!」


 赤地の隈取がされた白い仮面をつけた女が小柄な男をしっ責する。


「すみません!」


「お前は解雇するしかないようだな」


「そ、そんなっ」


「まあ良いではないか」


 華美な軍服を着た男が部屋へと入ってくる。その後ろには鍛えられた筋肉をチラッと見せるように礼装を着ている男が立っている。


「これは長! お前も頭を下げんか」


 仮面の女が膝をつき、隣にいる小柄の男に同じ姿勢をするように手で押さえつける。


「むしろ余興としては面白くなってきたというものだ──」


 そう言って長と呼ばれた男は後ろへと厳かに振り返るとわずかに口角をあげて、


「のう? カイよ。お前の仲間が向かってきているのかもしれないぞ」


「ケッ、んなこと言ってもなんか企んでやがんだろうが」


 跪いて礼をしている人もいる中でカイは長への口調を改めることは一切ない。その理由は至って明白である。


「それは無粋では無いか。子どもたちのゆく道を応援するというのが親の役目である」


「んなこと親父に言われたって響きゃしねぇんだよ」


 ここに捕らえてきたときにノクトが話していた「血縁」、それは親子のことであった。立ち居振る舞いも互いに凛々しい風貌。

 目元や鼻立ちもシュッとしており、遠目で見ればどちらがどちらかわからなくなるかもしれない。


「まあ良い。それでノクトよ。要件があるのであろう? 入って話を聞かせるのだ」


「ありがとうございます。失礼します」


 大事な会談でも始まるのだろうか、この部屋の出入りが激しくなっていた。

 そんな中ノクトは長に呼ばれるまでドアの外で待機をしていたのだ。


「申し訳ありません、あの者たちの制御ができません」


 入るなりすぐに長のもとへ駆け寄り、端的にノクトがそう答える。


「しょうがない奴らだ。だが我に仕方なく従っているような奴らを気にする必要などないだろう。始末してしまうかだけが心配であるな」


「そちらは言い聞かせました。おそらくは大丈夫かと」


 ただ下を向いて答えるノクト。動揺といった感情すら外に漏らさず、ロボットのように微動だにしないで膝をついている。


「お前の手腕を今さら疑う余地はない。これからも励んでくれ」


「御意」


 顔を下げたまま立ち上がると、深くお辞儀をしてその場から立ち去っていく。

 その姿が象徴するように長からも信頼されるほどの実力者であることは言うまでもないだろう。


「それでは会議を始めようか。計画が進めることができそうなハレの日だ」


「──我らがグレイオブザーブの名のもとに」



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 チオリがともに行動することになった。

 それだけでボクたちの生活水準は格段に上がっていくことになる。


 朝、起きてみると知らない天井が見える。しばらく野外で夜を越していたので室内のありがたみを感じる。

 そして、全身が沈み込んでしまうほどのベッド。贅沢に広々と使ってもまだ何人か寝れてしまうほどの大きさだ。


 ベッドから出てみると我が家ほどの大きさの部屋、ひとりで使うには持て余してしまうほどの空間に鏡や机など配置されている。


 ──ボクの家と全然違うけど


 家と比較して部屋の方が物があるかもしれないほど、何が置いてあるかが把握しきれない。


 部屋を観察し終えたところで、ドアを開けて廊下へと出ていく。右を向いても左を向いても同じ光景で異世界にでも迷い込んでしまったかと思ってしまう。

 とりあえず昨日寝る前にルカが入っていった部屋へと行ってみる。


 部屋の前に向かいノックをしてみたが、中からあの元気な声は聞こえてこなかった。

 恐る恐るドアを開けてみるときっちり整頓された、誰もいない部屋がそこにはあった。


「……部屋ってここで合ってたっけ?」


 つい、入る部屋を間違っているか心配になっていたが、ベッドが若干乱れていた。

 丁寧に整理整頓しようとして布団を戻そうとしたが、上手くできずに諦めたとかだろうか。


 そっとドアを閉じて辺りを見渡す。人の気配は一切感じないほどの静寂に包まれている。

 他に当てがないので、「昨日の大広間であれば何かあるだろう」、そう思い廊下を歩き出した。


「やっほー、ミナト。迷わなかったぁ?」


 話をして食事もした大広間に来てみるとすでにチオリとルカが座っていて食事の準備をしていた。ヤヒコはすでに居て配膳中である。


「大丈夫だったよ、辿り着けたよ」


 少し嘘をついた。下への階段かと思ったらいつの間にか上に行っていたり、元来た道をまた進みそうになったりと、誰かの助けを呼びたくなってしまいそうになるくらいだった。

 迷うことなく行けていた場合より倍の時間はかかってしまっているかもしれない。


「あら、お客人で迷わない人なんて珍しいですわね。我が家の使用人でもたまに迷う人がいらっしゃいますのに」


 とんだミステリーハウスだ。頭によぎってきたが、さすがによそ様の家を変なところ呼ばわりするような気がしたので口に出すのはやめた。


「それにしても準備ってできたの?」


 ルカの方へと視線を向ける。まだかかるのであれば今日はお休みでまた後日、ということもできるだろう。


「ヤヒコ、問題ないかしら」


「はい、いつでも出発いただけます」


 白い燕尾服を着て丁寧にお辞儀をしながら、準備完了の報告をする。

 横にはいつの間に用意したのであろうか、リュックが4つ用意されている。


「それじゃあ予定通り今日出発だねっ」


「そうですわね、善は急げと言いますから」


「もう出かけるんだね」


 いつも突然に予定が決まる。でもボクがリーダーになっていたんじゃ決定することすらせず、延々とこの屋敷に住もうという考えがよぎっていたかもしれない。うちのリーダーがルカで本当に良かった。

 せわしなさはあるが退屈はすることがなさそうで、とても楽しい思い出を作れそうだ。


「……そういえばヤヒコも行くんだね」


「もちろんですとも。ちょっとしたものなら何でも返り討ちにすることができますから」


 荷物の数で何となく察してはいたのだが、やはりついてくるのか。

 後ろに潜んでボクたちを観察するのだろうか。それとも木の上からクナイとかいう遠くからでも攻撃できる武器で援護するのだろうか。

 少なくともボクたちを後ろからグサリ、みたいなことがないことを祈ろう。


 準備が完了して外へ出る扉の前に居た。


「それでは準備はよろしくて?」


「準備ができてない人なんていないでしょっ。私のチームは常に何事にも備えてもらわないと」


「何か良からぬことが起きそうで怖いよ、ルカ」


「何をぅ、ミナトっ! 十全十美な私には怖いものなんてないんだからねっ!」


 右手を胸と首の間に手を当てて左手は弓のようなしなりを描くように伸ばしている。そして、目を閉じて口角をスゴイ上げている。

 今日は出会った当初からなかなか見なかったほど上機嫌なようだ。


「よろしそうですね。ヤヒコ」


「はい」


 チオリが声をかけると扉が開きだす。昨日の扉の開閉とスピードが同じであった。


「やっぱり昨日もヤヒコが開けていたんだね」


「えーっ! てっきり自動ドアなのかと思ってたよぅ」


「ひとりでに開くわけないでしょう? さあ、行きますわよ」


 こうして第二次ルカ調査隊の1ページが始まった。

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