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灰色の街で、光を拾う  作者: 秦はるま
第二章『テイミスト』
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第19話 敵か味方か

 街に帰ってきたは良いが、あの時カイと一緒に懸念していたことをこの街でも思い始めてしまう。


「ボクたちは今晩、どこで生活するの?」


「あれ、言ってなかったっけ? ルカ調査隊は困ったときは野宿が基本だよっ」


 やはりそうだったのか。肩を落として落胆してしまう。

 この街に宿が無いわけではないので、場所として泊まろうと思えばどこにでも泊まることができるだろう。特に身分の差や服装の縛りなんてものは泊まるときには関係ない。ボロボロの服を着たおじさんなんかも泊まることができるくらいだ。


 ならば何が問題か、そう、お金である。ボクたちの旅路はここがゴールというわけではない。まだまだ先は長いのだ。それなのにお金を使いすぎてしまうと今後宿はおろか食料すら買えなくなってしまう。

 それで今から宿なしで生活をしているのだ。実はここに来るまでの道中にも泊まることができる宿はあったのだ。

 手紙を配達する人であったり、最近流行りだした自動車なんて物を持たない人たちは途中で休む必要があるのであるのは当然であろう。


 しかし、その宿賃ですらボクたちの生活を圧迫してしまうものであった。そのため、宿から少し離れたところで野宿をしていたのだ。


「せっかく街に入ったら野宿から解放されると思ったのに……」


「そうだよねぇ。どこか泊まれる場所とかあればいいけど、そんな都合よくミナトみたいに会えるわけないもんねぇ──」


「あら、あなたたち、行き場所が無いのですの?」


 声のした方向へと振り向いてみるとこちらに歩いてくる女性がいた。


 左右に揺れる派手な金の螺旋が、すれ違う者の視線を釘付けにする。丹念に手入れされたその巻髪は、彼女が歩くたびに周囲へ高貴な香りを振りまくかのようだった。

 装いは、随所にフリルをあしらった気品あるドレス。しかし、膝上の丈で切り揃えられているスカートは、優雅さと実戦的な機能性を両立させている。そこから伸びる白くしなやかな脚は、ガーターベルトの繊細さに似合わないほど逞しい。それは、いくつもの山場を乗り越えてきたであろう、彼女の鍛錬の証を物語っていた。


「えっ? 誰?」


「あたくしが助けてあげますわ」


 言葉が足りないと思ったのか、現れた女性はさらに説明を加えた。


 急に現れて見ず知らずの人を助けてくれると言う。怪しい……。ルカもさすがにすぐには誘いに乗らず相手の出方をうかがっている。

 ボクはけん制も兼ねて正体を探ろうとしてみる。


「君はいったい誰?」


「これはあたくしとしたことが、申し訳ありませんわ。あたくしの名前はチオリと言いますの。それではあなた方のお名前を聞いても?」


 名乗られてしまったのであれば、相手が怪しかろうとこちらが名乗らないのはいくらなんでも礼儀がなっていないだろう。


「うん、ボクはミナトって言うんだ」


「そしてこの天より授けられた可愛さの私はルカだよ! よろしくねっ」


 初対面でこの自由奔放で圧倒されるほどの自己紹介に、チオリはお嬢様らしからぬ感じにポカンと口を開けて驚いてしまっていた。

 だが、お嬢様ゆえなのかは知らないがすぐに立ち居を整えて、


「よろしくお願いしますわ。ミナトさん。ルカさん」


「さん付けなんてしなくて良いよ! こっちもチオリって呼ぶからさ。いいよね、ミナト?」


「うん、問題ないよ。よろしく、チオリ」


「なかなか大胆な提案ですが、ここはお受けしましょう! ミナト、ルカ」


 こうして自己紹介を済ませたが、まだ警戒が弱まったわけではない。むしろここまでグイグイ来られると、どうにか仲間に入れてもらおうとやけになっているようにしか見えない。


「ルカ、どうする?」


 ルカのそばに寄って右手を添えて耳打ちをする。


「うーん。でも危害を加えてきそうな感じはなさそうだよ。ヤバい人たちなら私はすぐ連れていかれちゃってるし」


「そっか」


 変な説得力があった。

 それに怪しさはあるが、ボクはそこまで他人を知っているわけではない。関わりを持たないように細々と生きていたくらいだ。

 そんなボクに比べてルカはいろんな人と会っているので、人を見る目は間違いないだろう。


「じゃあルカのことを信じるよ」


「任せておいて! 大海原へと飛び出したくなるくらいの信頼をしてくれていいんだからぁ!」


 空を見ているのではないかというほど胸をそらせて得意げな顔になる。


 そんな姿を見たチオリは提案してきた側なのに訝し気な顔をする。最初はこちらが警戒をしていたのに双方が疑心暗鬼を生じる状況になってしまった。


「それで内談はよろしくて?」


「うんっ。急に話しかけてくる人には注意しとかないとだからねっ」


「それは素晴らしい心がけですわ! ますますあなた方のことが気に入ってしまいました。どうかご一緒にさせてくださいませ」


 チオリは急に子どもっぽいつぶらな瞳でこちらに提案をしてくる。

 ボクであれば経験したことのない圧に押されかけていたかもしれない。

 しかし、ここはリーダーの采配を静かに待とうとボクは「ゴクリ」と固唾をのんで見守る。


「良いんだけど──。私たち、お金がないんだよねぇ。融通してくれるかなぁ?」


 まさかの金銭をゆする行為に出てくるとは……。相手からの提案である程度上から出ていけるとはいえなかなかにあくどい。

 だがこちらとしては、怪しさ回避策を取るか金銭を取るかの、どちらに倒れても美味しい状況になったわけだ。


 さすが、いつもお茶らけている感じを見せているが、やるときはやるリーダーだ。


「むむっ、なんかミナトの方から良からぬ考えがしてきた気がするよぉ」


 おっと、顔の横に目でも付いているのか? 変な考えは極力しないようにしなくては。


「なるほど、金銭的にお困りということでしたか。それであれば問題ありませんわ! 仲間になった暁には金銭面で不自由させないことを約束いたしましょう!」


 高らかに宣言したチオリは手に何か扇でも持っているのではないかと思うほどの気品を醸し出す。

 ボクとしてはまだ警戒心が残っているが、すぐさま襲ってくるタイプの悪いやつでは無いのが確定したので、今はそこまで気に留める必要はないだろう。


「ということは、これで仲間かな?」


「そうだね、チオリも我が調査隊へようこそ!」


「ふふっ、こちらこそお手柔らかにお願いしますわ」


 新たにチオリも加わったことで三人となったルカ調査隊。その第一声はミナトからであった。


「それで、宿はどうするの?」


「宿ですわね。それならばあたくしの家を紹介いたしますわ!」


「チオリの家に泊まって良いってことかな?」


「もちろんです、野宿なんてしたらあたくしの品位に傷がついてしまいますもの」


 ボクとしては正直乗り気ではなかったが、ルカの方に目配せすると、「私に任せて」と言わんばかりにウィンクをしてチオリの方へと振り返る。


「じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな! 頼れるものには藁でもすがる思いで頼っていかないとだからねっ」


 ボクの考えとは食い違っていたようで快諾の返事をしたルカであったが、別に取り消すほどの事でもない。

 周りにばれない程度にうなだれてからボクはチオリの方へと顔を向けて、


「よろしくお願いします」


 あまり言いなれない願意の言葉を告げる。


「それではまいりますわよ! 付いていらしてっ」


 チオリは周りにも聞こえてしまうほどの高らかな声をあげるとスタスタと歩いていってしまった。置いていかれるとマズいのでボクとルカは早歩きでチオリの後を追いかける。

 しかし、完全に信じきれないミナトは歩きながらも再びルカに寄って耳打ちする。


「それにしても条件を出すなんてさすがだね」


「天才的ニューロンネットワークを脳内に持つルカちゃんには造作もないことだよ。お金を他人のために使える人に悪い人は居ない!」


 体のラインが出てしまうほどの胸を反らせた格好で、今度は恥ずかしく視線を外してしまう。


 しかし、理論的には腑に落ちた。敵側──例えばあの時のグレイウォッチのような連中が仮に仲間側に加わろうとしたときに、お金がほしいと言って「あげます」という連中ではなかっただろう。

 そもそも強引にルカを奪うくらいの彼らが話を聞くとも思えない。そう考えるとチオリは限りなくシロに近いと判断しても良いのかもしれない。


「良い考えだと思うよ」


「おっ、今日のミナトが素直な感じがするよっ。私のこと、崇めてくれてもいいんだよ!」


 ……。こういうところが無ければ素直に褒められるのに。

 そのまま何も返さずにルカの少し前に出て歩いた。


「ミナトーっ! なんか言ってよぉっ!」


 すぐ後ろで声がしたがボクは振り返らなかった。後ろめたい気持ちはあったがちょっぴり楽しいと思ってしまう気持ちもあり、意地悪をしてしまう。

 少し前まではこんな気持ちにならなかったので、ルカには感謝しないといけないな。


「……ありがとう」


 誰にも聞かれてほしくないと思って発した言葉は、願った通り早歩きで風を切る周りの空気にかき消されるように霧散していった。


 霧の人影に襲われ走っていたこともあり到着するまでに疲れてしまったが、チオリの家──いや、お屋敷へと到着する。


 ──これが人が住んでいるところなのか


 ミナトの街には広大な敷地を持っている人などおらず、最低限必要な居住スペースと家庭菜園ができる程度の庭があるという、三世帯家族でよく見かけるような家がほとんどであった。

 しかしここは金属の棒に囲われていて、水が上に飛び出ている庭、そして、この星の西側の国で見ることができるというお城が奥の方に見える。

 ボクの家の数十倍はあるんではないか。


「すっごーい、これが全部チオリの家なの?」


「そうですわっ、お父様が代々受け継がれてきたお仕事を大成することができたので、この家を用意することができたのですわ」


 説明をしながらチオリは鉄の棒が入り組んでいる扉を開けて中へと入ろうとしていた。ルカもそれに続いてルンルンしながら中に入っていく。


 ボクもルカに続いて入ろうとしたときに、ふと後ろを振り返った。別に野生の勘とかいう第六感はないボクにとっては何の気なしの行動であったが、視界の端で見たくないものが動いているのが見えた。


 ──灰色の服装、間違いない、グレイウォッチの関係者だ。


 すぐに建物の陰に隠れていったようで姿を再度確認することは叶わなかったが、あの地味なのに脳裏に焼き付くような灰色の服装は見間違うはずもない。

 そもそも、霧の街に来たということで予想はしていたのだ。他に霧の街があると知った時にボクの街だけで活動しているなんて思えなかった。


 しかし、今言ったところでルカを不安にさせるだけだし、何よりチオリが100%こちら側とは言いづらい。敵である可能性も完全に否定しきれない。


 タイミングを見て話をしようと今は心のうちにしまい込み、チオリとルカの後を追いかけて広大なお屋敷へと入り込んだ。

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