第17話 ひと悶着
ボク達は今「テイミスト」の入口で背筋を伸ばし、手を真横にして気をつけの姿勢で立っている。
その二人は光が纏われている、ひとりは進んできた道で見た青い天井のような澄んだ色。もうひとりは火よりも赤みが増していて、それでいて触れたらやけどしてしまう印象を与える鮮やかな色。
そんな光が街の入口に現れてから四半時ほどの時間が経っていた。
なんでこんなところに立たされているのか、理由は単純すぎてボクでも正直なところ入ることができるのかわからないと思っている。
だって、街に入る前の質問がこれだ。
「その光はなんだ?」
衛兵にまるで鉄仮面のような冷徹な表情で聞かれたが、至極真っ当すぎる質問にボクは答えに窮していた。
そこでルカが答えてくれたのだが……。
「キラキラしていいでしょ! この街に光を届けに来たんだよっ」
この状況でそんな怪しげな商人のようなことを言ったらダメだろう……?
十中八九危険人物とでも見られたのだろう、こうして未だに外で質問されている。
「この街に家族や知り合いは?」
「いないよっ、そんなに顔が広くないもん。この街でも野宿する予定なんだから」
ちょっと待ってくれ……、とんでもないことを聞いてしまった気がする。野宿生活は解消されないのか……?
せっかく屋根があるところでゆっくりとできると思っていたのだが、この運命共同体のことを甘く考えすぎていたようだ。
そもそも野宿する光った二人組、怪しさが半端なさすぎて余計に許可されないと思うが考えでもあるのだろうか。
「この街に来た目的は?」
「だから言ったでしょ! 光を届けに来たんだって! この光を受け取ればみんな元気になる、そして笑顔があふれる。完璧な計画だよ!」
ダメだ……、このままでは決着がつかないで街に入れない可能性が出てくる。
地元ではないしかも見ず知らずの街に入ったことのあるルカと一緒なら心配はいらないと思っていたのだが、今のところ役に立つどころか状況をややこしくするばかりであった。
というかボクの街に入ってきたときはどうやって入れたんだ?
「……まさか強引に突破とかしてないよね?」
「ミナトまで何言ってるの! そんなことしないよ!」
つい口から言葉が出てしまっていたようだ。幸いにも衛兵の耳には入らなかったので、奇妙な二人芝居が繰り広げられただけであった。
「もしかして君たちは大道芸人かい?」
今のやり取りを見ていたひとりの衛兵がこちらにやってくる。どうやら別の仕事をしていた遠くにいた衛兵にまで声が届くほど大きくなってしまったようだ。
「えーっと、──そうなんです! ダイドーゲンニンってのなんです! 光をパパーッとする感じなんです!」
このチャンスを見逃すにいかないと、ルカは必死に説得する。
正しく言えてなかったような気がして、ボクはつい衛兵の方を向いてみたが、気に留めてなかったようだ。
「大道芸人ですか、通していいんでしょうか」
「問題ない、彼らは特殊な技を見せてくれたりする。この光もその一種であろう。我らを歓待してくれたのかもしれない」
よくわからないが納得してくれたようだ、それにしても大道芸人とやらはそんなにスゴイ肩書なのだろうか?
「それではあなたたちの滞在を認めましょう。ようこそ、『テイミスト』へ」
時間がかかりすぎてしまい、ここに来たときは昇り始めていた太陽がすでに真上へと到達していた。とりあえず、問答の末に街に入ることができないという最悪なケースは回避できて肩の荷が下りる気持ちだ。
「ありがとうございます! それじゃあ出発進行!」
「……ありがとうございます」
こうして二人は霧に覆われた街へと足を踏み入れようとしていた。
「大道芸人って何なの?」
そういえばふと気になったので聞いてみると、ルカは不敵な笑みを浮かべだした。
「ふふふっ、気になるよねぇ。そうだよねぇ。実はねぇ。──私も知らないんだ!」
もったいぶったくせに知らないというオチであった。そもそもちゃんと言えていないのに知っているはずが無かったのだ。ボクは頭をかきながら期待していた自分をあざ笑うかのようにため息をついた。
──ロウフォグと同じように灰色の霧に覆われた街『テイミスト』
この街にすんでいる人々はまるでロボットのように感情を失い、と思ったのだが明らかにロウフォグとは違う生活が送らていた。
静かで彩りのない寂れている街であることは変わらない、でも街の人たちに表情の変化があった。そう、彼らには感情があるのだ。
「この街は霧の影響を受けていないのかな?」
「えっ? あぁ、そっか。ミナトの街ってみんなが、誰一人欠けることなく感情が無いって感じだったもんね。正直不気味なくらいだったよ。全員操られてるのかって思っちゃうくらい」
この街の話をしていたのに急にボクの街の話が始まってしまった。どういうことなのか頭を悩ませていると次のルカの言葉で何となく意図がつかめた。
「私の街がそうだったんだけどみんなじゃなかったし、感情が全然無いとかでもなかったの。だから所々に居るって状況を知らないミナトが見逃しちゃうのもわかるよ」
そう言ってルカは三階建ての建物の方を指差した。追いかけるように視線を向けてみると建物の前にボクの街によく見かけた人、目が虚ろで活力が無く義務感で動いている人がそこには居た。
せっかく霧の影響がない街を見つけたと思ったのに、早とちりでぬか喜びしてしまうところであった。
「じゃあまだこの街は霧に覆われて時間があまり経っていない?」
「うーん、それはどうなんだろ? ミナトの街が特別だっただけで、これが普通なのかもしれないし」
見ただけではわからなかったので結論は出せなかったが、少なくとも状況を整理した結果は以下だった。
「感情を失った人と感情を失ってない人が共存する街……」
今確実に言えるのはこれだけであった。でも感情が残っている人が居るなら前回よりもどうにかなるかもしれない。もしかしたら霧が薄くて晴らすのも簡単である可能性がある。
──そういえば、あの時霧を晴らすことができたんだ
ただの思い付きであったが口にする。
「光を出せば霧が晴れるんじゃないかな」
ここで光を出して霧を晴らすことができれば、わざわざこの街に滞在する理由もなくなる。そうすれば次の街に行くなり、観光するなり自由な時間が作れるだろう。
ルカは思い当たる節が何かあるのだろうか、少し悩みつつもこちらを見上げてにっこりとした。
「私がやった時は出来なかったけどミナトならできるかもしれないね! だけど、今は赤色で虹色じゃないのがどうなのかなぁ」
確かにあの時とは色が違っている。今はあのカラフルさに到底及ばない一色だけの光しか纏っていない。
「とりあえずやってみるよ。他に光を出す方法なんて知らないし」
ルカを助けたあの時を再現するように、霧がある斜め前に手を出して「ムムム」と念を送ってみる。あの時は光が勝手に飛んでいってくれたのでボクは何もしなかったが、自ら出してみようとすると全然出てこない。
断頭台の上に着いた時は今思い返してもどんな感情だったかわからないほどに喜びや怒りや憎しみのような感情が混ざっていた。それに対して今は特筆するほどの感情は湧いてきていない。
感情を取り戻したばかりでまだコントロールできていないのかとも思った。しかし、街に入るときに心配して無事に入れたときは喜んだし、昨日ルカに「ねぇねぇ」と肩を叩かれたので振り返ったら、ルカの人差し指がボクの頬を凹ませて「引っかかったぁ」と言われたときは、怒りか悔しさかよくわからない感情が湧いてきた。
「ダメだね。ミナトならって思ったけど、やっぱり私と変わらない光なんだね。でも私のは虹色にならないしちょっと違うのかな?」
「やっぱりあの時とは違うから覚醒しないといけないのかも」
「覚醒って言われてもわからないなぁ。そういえばあの時はどうやって出したの?」
ルカを助けたい想いを放出したのだ、ただそれをそのまま言葉にしてルカに言うのは少しためらいがあった。これは恥ずかしさというものだろう。
「……ルカが捕まってたからかな。助けなきゃって思って」
「じゃあミナトが光を出すために私がまた捕まればいいんだね! ってそんなの無理だってばぁ!」
ルカが声を荒げてしまう。別にルカに捕まってほしいとは思わないし、また捕まってしまったらボクだけで助けることはできないだろう。ルカが無謀な方法をそのまま突き通そうとしてたらどうやって説得するか考えないといけなかった。
「仕方ないね、何か無いか調べていこうか……」
こうしてできるだけ穏便に、そして安全に霧を晴らす方法が無いか探すため、街の中心部へと進むことになった。




