第16話 動き出す歯車
第二章開幕です。
よろしくお願いします!
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──俺様はふと目を覚ます。長い間眠ってたみたいだ。
「ここはぁ、どこだ?」
木でできた内装に窓がひとつ、部屋の大きさの割に小さめのものがついていた。いや、そもそもの考えが間違っているかもしれない。これは部屋が大きすぎるのかもしれない。端から端まで歩いても数分はかかってしまうのではないかと思えるほど長かった。
すると、ちょうど視界に入っていたドアが開きだす。何をされるかわからないカイは身構えようとしたが腕が拘束されており思うように動けない。危害を加えられても抵抗ができない状態で待ち構えていると入ってきたのはあの時ルカを攫ったリーダー、ノクトの姿があった。
「おや、目を覚ましています」
「お前か、こっから何するってんだ」
「勘違いは良くない。あなたの身に何かあればあの方に何をされるかわからない。それにあなた自身も気付いている」
「やっぱ、あん時に正体気付いてやがったか。いけ好かねぇ顔してっから嫌な予感はしたけどよぉ」
すでに正体に気付き始めているのに、さらに探ろうとする様子にカイは少し疑問に思ってしまう。まだ得られていない情報が何かあるのか?
「おや、まだ何か疑問がある様子。いいでしょう、質問をする権利を与えます」
「あー、その上から目線も腹立つなぁ。俺様が指図されるいわれもねえんだよ。縛られてなけりゃぶん殴ってボコしてたところだぜ」
「おお、恐いです。あの人の血を継いでいるというのにそんな野蛮な強行に出るとは。どうか穏便に済ませたい。先ほどの非礼を詫び、ひとつ情報を与えよう」
「なんだ、日和ってんかよ。いいぜぇ、俺様は縛られたままでも良っからよぉ」
「やりません、それにあの人が来る時間。あなたにとって感動の再開になるのは間違いない」
「あっ? 来るとか言ったか? てめぇそれってまさか──」
カイが言い終わるや否や、再びドアが開きだす。そこへ、軍の最高司令官を思わせる厳格な軍服を纏った男が姿を現した。
威圧感を放つ硬質な濃紺の生地。その両肩には、権威の象徴である金色の飾緒が重々しく垂れ下がっている。胸元に整然と並ぶ数多の勲章は、彼がこれまでに打ち立てた功勲と、背負う責任の重さを物語っていた。白く汚れのない手袋に覆われた手元に至るまで一切の隙を許さない、鋭い緊張感を漂わせている男だった。
ノクトはドアが開いたタイミングには息をのみ片膝をついて、主君の帰還を心より待ちわびたかのように深く頭を垂れた。
「久しいなぁ、息災で何よりだ」
「やっぱ、そういうことだったかよ」
カイは「ケッ」と言って今来た威圧感のある男をにらみ返していた。
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ロウフォグを出たミナトとルカであったが、なかなか次の街に着かずに苦労していた。
「もーっ! こんなに歩いても着かないなんて思わなかったよぉ! 私の地元に帰れちゃうくらいじゃないのかなぁ!」
「……ルカの地元はわからないけど、近いの?」
「そーだよっ! 遠いところなんて疲れちゃうから行きたくないし。いつかミナトも私の街に連れていきたいなっ」
ルカが笑顔になってこちらにご機嫌な表情を向けてくれる。まだ、笑いかけてくれた時の対処がわからずにボクはそのまま下に顔を動かして目を伏せてしまう。
ボク達は今、次の街へと向けて旅立ったところなのだが、三日も歩いているはずなのに街の影すら見えてこない。食料は何かあった時のために一週間分まとめて用意していたので大丈夫なのだが、このままだと街に着く前に何もなくなってしまう……。
「食べられる草、探しとくべきだったかなぁ? どうせすぐ着くからいらないって何もしなかったのは失敗だったかもね」
「そういえばあの草って本当に食べれるものだったの?」
気になっていたが結局聞くことのなかった話題を切り出す。あの時はルカがかじっているから問題ないと思ったが、別にそれだけで安全と判断することはできないだろう。
あの時は老人の家に泊まることができたので食べることは回避できたが、野宿をしていたら食べることになっていたかも……。
「食べて大丈夫だから食べられるものだよ! ……たぶん?」
そこを曖昧にされると実際に食べている本人も心配になってしまう。それと、やっぱりあのかじり跡はルカのものだったか。
「変な物食べてお腹壊さないでね……」
「だいじょーぶだよっ! パーフェクトなルカちゃんの前には何者も止めることができないんだから!」
食べ物に困ったら腐っている物でも何でも食べてしまいそうで不安しかなかったが、うちのリーダーはこういう性格だ。そういうところもひっくるめて付いてきたので、咎めるつもりも一切ない。
ただ、カイもいた時はもう少しおとなしかった……、いやカイが居る時も平常運転だったな。いつでも変わらないルカはやはりこのチームに欠かせない存在だ。
「今日はもう寝よっか。明日も歩かないといけないからねっ」
そう言ってルカは近くの草むらの上に寝転がって持ってきた毛布を掛けて早々に「スヤスヤ」と眠ってしまった。その周りには青い光が揺れていた。
──ボクも寝ないといけないな
ルカの隣に移って寝転がった。上を見上げると霧よりも黒い天井が広がっていて所々に白い粒が見える。あれはいったい何なのだろうか?
霧の街を出てから二度この景色を見ているのだが、正体は全くつかめていない。でも、何か惹かれるような不思議な引力を感じて目が離せなくなっていた。
そうして、眠りにつくというのがここ二日の流れになっていたのだが、今日は少し目が冴えてしまっているようだ。
これから街にかかった霧を晴らしに向かうことになったのだが、そもそも何をして霧を払えばいいのか、そしてその過程で何と立ち向かわなければならないのかまだ見当もつかない。
あのグレイウォッチのような連中が再び現れて、行く手を阻んでくる可能性だってある。
あの時はカイがいたからこそ、特攻じみた無茶もどうにか通った。けれど、もしルカと二人だけだったら──ノクトが姿を見せた瞬間に、あっけなくゲームオーバーになっていただろう。
奇跡のような条件をすべてかいくぐり辿り着いたあの最高の結末。その中で、ただ一人だけ救えなかったのがカイだった。
あの時の功労者であるカイを称えずにいられるほど、ボクは薄情ではない。今回の目的のひとつに「カイの救出」が加わったのは確かに大変だが、それでもやらなければならない。
あの結末を本当の意味で“最高”にするためにも。
目を覚ますと赤い光がゆらりと揺れている。見てみると少年のようなよく見知った姿が横で寝ていた。
「えっ、ミナト!?」
ドキッとしてしまう。しかし、ミナトは無意識にこういう行動をしてくる人間だ、冷静になって周りを見回す。
昨日の寝る前から変わったことはミナトがこちらに来たことだけで他は特に変わっているところは無いようだ。
「もぉーっ、鮮美透涼な私じゃなかったら惚れちゃうんだから」
呆れたはにかみ顔を見せると、ミナトの顔が歪み始める。ルカは顔を戻し何事もなかったすまし顔へと変化させる。
「……おはよう」
「うん! おはよう、ミナト!」
お互いに挨拶を交わして少しでも早く街に着けるように歩き出した。
──さらに三日後
草木の自然物しかなかった旅路に人が作り出したと思われるものが見え始めてきた。
「……あれって」
「ようやく着いたみたいだね! ここまでの道のりは長すぎたよぉーっ!」
まだまだかかると思っていた旅路も終わりが見えてきて二人に笑みと疲れが見え始める。この道程で雨が降ることなく進めたのが唯一のラッキーであったろう。
「それにしても食料ってもう無いよね。危うく雑草食ざんまいになるところで恐かったよ……」
「雑草じゃないって! 食べられる草なんだから! でも確かに毎日あれは嫌だよね、考えてみるとゾッとしちゃう」
寒くなってきたのか腕を腰に巻き付けて身震いする素振りをしていた。
ルカ本人は好きだったらどうしようと思ったが、さすがに好んで食べたいほどでは無かったみたいで良かった。
「……そういえば街の名前を聞いてなかったけどなんて言うの?」
「んーっとねぇ、なんだったっけなぁ」
あごに手を当てて考え出す。ボクは地元から出たことすらないので当然知らないのだが、ルカも知っているのだろうか。
直接ボクの街に来たと言っていたのでもしかしたら知らないのではないのかもしれないと、この質問は失敗だったかと後悔する。
「そうだっ! 『テイミスト』って街だよ! ふっふっふっ、記憶力には任せてもらって大丈夫だからね。なーんでも答えてあげちゃうからっ」
ふんぞり返るほどの姿勢でドヤ顔を見せるルカ、さっきは何だっけとか言ってたけどツッコむのは野暮であるか。
「ルカはその街に行ったことあるの?」
「うーん、小さい頃はよく覚えてないからわからないけど、少なくとも大きくなってからは行ったことはないよ!」
「あれ、それならどうしてその街を知ってるの?」
行ったことないのであればいったいどこから情報を仕入れたのだろうか。
ルカは視線を上の方へと移してあごを人差し指でトントンとする。
「確かね、お母さんが言ってくれたんだよ! ミナトの街の事もその時に教えてもらったんだっ」
急に地元の話が出てきて肩を「ビクッ」とさせる。
そういえば「ロウフォグ」の街を外の人間が知っているかどうかなんて街に居る時は気にしたことが無かったが、ルカのことを考えてみると初めから「ロウフォグ」を目的に来ていた。
それは親からの勧めで来ていたのだと思うと納得はできる。しかし、何かが引っかかる。
「ほら、何してるの? もうそろそろ着くよ」
いつの間にか歩くのを忘れて考えることにふけっていたみたいだ。ルカがすでに走らないと追いつかないほど前方へ進んでおり、大声で会話しているほどの距離であった。
「今行くよ」
先ほどまで考えていたことは一旦忘れてルカの元へと駆け寄る。
新たな街ではどんな危険が待ち構えているのか不安になりつつ街の入口へと向かった。




