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灰色の街で、光を拾う  作者: 秦はるま
第一章『ロウフォグ』
13/14

第13話 決行の日

 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 わずかに入ってくる光から外が明るくなっていることに気付く。


 年相応には見えない少年は、ベッドから抜け出して身体の動きに不調がないか確かめる。いつかに受けたダメージはなくなり、家を飛び出したころよりもスムーズに動くように感じる。今日の盛大な大仕事の準備は万全と言えそうだ。


「ミナト、起きてやがったか」


 相方が目を覚ます。いつもならもう少し遅い時間にならないと起きないが、早い目覚めという非日常にこれからすることの現実味がより帯びてくる。


「おはよう、カイ」


 二人はまず体を動かすための栄養補給をするために、部屋を出ていつものテーブルへと向かう。そこにはいつ起きてもいいように夜から待っていたのではないかとも思われる老人が座っていた。


「腹を空かせたまま行かせるわけにもいかぬ。おぬしたちの一世一代の晴れ舞台の前であるからの」


 いつもと同じように白湯もセットで朝の食事が進んでいく。


「どうしても渡すべきかどうか考えておったがの、何が起きるかはわからん、渡しておくことにするの」


 食後、片づけをしようとしたミナトは老人に引き留められた。そこで渡されたものは丁寧に折られ中が見えないようになっている紙切れであった。


「辛さに耐えきれずくじけそうになった時に開けると良い。おぬしが求めていた答えがあるやもしれん」


「ほっほ」と言うとテーブルへ戻り白湯を飲み始めるのであった。物を託されることすら今までなかったミナトは、なすすべなく受け取って聞き返すこともせずに空いているポケットに突っ込んだ。そして、特に何もなかったかのように片付け作業を再開する。


 部屋に戻ってきた二人は最後に荷物を確認していた。


「取り返せっかはわかんねえ。だがよ、全力でやるぜ」


「……うん。リーダーが居ないと始まらないからね」


 準備ができた二人はドアを開けて今日の主戦場へと向かいにいく。


「若い者の特権と言われるがの、無茶だけはするではないぞ」


 この調査団を結成してから長らく共にしていた老人からのアドバイスに答えるかのように、


「いってきます」


「いってくるぜ!」


 こうして霧の中へと入りこみ目的地である街の大広間へと歩みを進めていった。



 すでに辺りの光景は白んできており大広間にはちらほらと民衆が集まってきだしていた。彼らの視線の先には身長をゆうに超える高さの断頭台が設置されていた。しかし、


「なんで街の人がこんなにいるんだろう?」


「聞いてねえのか、必ず来いって言われてただろ」


 あのラジオを聞いたときはルカが処刑されるということ以外全然頭に入らなかったので、他の情報は何もないに等しい状態であった。処刑という言葉が出てきた後もカイが聞いていてくれたおかげで素朴な疑問の解消はすぐにできた。


「で、こっからどうすんだ。正面突破とか言わねえよな」


「ルカを取り戻すにはそれしかないよ。他に方法なんて思いつかないし」


「とんだリーダー代理様に付いてきちまったぜ。まあ俺様も考えんのは得意じゃねえしよ、突っ走ってやるか」


「いや……、ルカが出てくるまでは観察に徹しよう。どこにルカがいるかはわからないからね」


「へいへい」


 今まで率先して行動をするなんて機会がなかったので、突撃とかいうあまりにも愚策の行為しか縋るものはなかった。それでもタイミングやルートくらいは調整ができる。まともな武器がない二人は逆に身軽であることを武器にしていく、──簡単な話ではないが今打てる最善手でもある。


「もしかしたら別の場所かもしれなかったけど間違いなさそうだね。あんなに大きなギロチンがあるし。……ただ近づくにも周りは何もなくて目立っちゃうか」


「そりゃ公開処刑って言うくれえだ、目立ってなきゃ意味ねえだろ」


 高い場所にどうやって乗せたのかわからないほどの巨大な装置が置いてある。上部には毎日磨かれたであろう鋭い刃がついており、大きさも相まって体をすくませるには充分であった。

 さらに、そこへの階段はあるものの何かで覆われているわけではないので、隠れるような障害もなくギロチンに接近するものはすぐにばれてしまう。


「おいおい、人がいっぱい来だしたぞ。こりゃぁ早く動かねえとな」


「ちょっとゆっくりし過ぎたかも。……右側ならテントもないし人が少なそうだね、向かおう」


 視線の先の断頭台がある左手には白いテントが置いてある。明らかに誰かいそうな雰囲気だがルカが居るかわからない。不用意に近づけば捕らえられて一緒に処刑なんてこともありえるかもしれない。

 その点右手はテントどころか木すら見当たらない。隠れることができないのでばれるリスクもあるが、それは敵側も同じことだ。──たくさんの人を配置することはできない。


「たぶんルカが連れてこられるのはもうそろそろな気がする。いつでも動けるように……」


「わかってらぁ。そっちこそ腰抜かすんじゃねえぞ」


 この霧の街が一番明るくなる時、ラジオで処刑が告知された時間はもうそろそろとなろうとしている。広場に居る人数も100は超えているのではないかという街の衆でごった返していた。

 この街は広さはそこそこあれど霧のせいか民家があまりなく人口は少ない。今来ている人たちでこの街の半分以上の人口を占めているほどになる。各々が興味のない関係性であるので、こんなに大集合することは街の歴史上初めてであろう。


 街の人の波にのまれることなく断頭台のサイドに到着した二人だがてっぺんに向かう階段の前には街の人ではない二つの人影があった。


「……あれは見張りかな。あそこをかいくぐってどうにかギロチンのところへ行かないと」


「俺様が引きつける──ミナト、お前はその間に先に行け」


 カイの囮発言にためらいがあったのかただ了承の旨を伝えるためなのかミナトは口を開こうとしたが、広場が騒がしい様子になったことで叶わなかった。


「ただいまよりこの者の処罰を始める。私たちにたてつき光で脅かした場合どうなるかの見せしめである」


 いつの間にか登ったのか頂上にはいつぞやに出会ったノクトと隣には白い髪の少女がいた。間違いないルカである。


「じゃあ行くよ」


「まさかこんなやべえことするとはな。張り切ってやってくぜ!」


 パーティーの力自慢カイが先頭に立ち断頭台へと突撃していった。



「なんでこんなことしなきゃなんスかね」


「自分なに言ってんのや。あの方の言うことは絶対やで」


 ヒョロっとした男に対して糸目の男が断頭台の上を指差しながら呆れた顔で答える。この場所の警備を任されたのは昨日でヒョロ男は本来であれば今日は休みであった。道具も持たされない上に休み返上で警備をする不満を漏らしたが、賛同して一緒に抜け出してくれるという仲間はこの場にはいなかった。

 ──するとこちらに向かってくる人影が見える。


「あれ、なんスか」


「ん?」と糸目の男が見たときにはもう姿がはっきり見えるところまできていた。

 そのタイミングで突撃をするミナトとカイにも先ほどは確認できなかった相手の顔が見えてくる。


「おっ? 見た顔がいんな。もう一人もヒョロいし余裕だろ」


 カイはヒョロ男にタックルを決めて道をあける。ヒョロ男はタックルを受け流せないまま勢いよくその場に倒れこんでしまう。どうにか抵抗しようともがくが何も武器を持っていないためダメージを全然与えられない。


 その間に糸目の男と接近していたミナトであったが、口の端を軽く上げたまま何もされずすんなりと目の前を通れてしまった。


「ワイはここに立ってろって言われただけや。何もせえへんで──」


「ワイはね」


 そう言い残すと急にミナトの視界が暗くなった。上に視線を向けると階段の上りはじめのところに何かが迫ってきていた。あのルカを攫われた時の山みたいにそびえる大男が突如現れたのである。


 想定していなかった接敵にミナトは足を止めてしまう。階段を通ろうにもネズミひとつ通さないほどの横幅で、強引に突破しようとしても返り討ちにされてしまうだろう。


「そこどいてろ」


 後ろからの声に振り向くとカイが目の前までやってきてくれていた。先を通れるように少し横にずれるとこっちに向かう勢いのままカイは大男に突撃した。スピードがついたことでパワーがさらに上がり、さすがの大男もバランスを崩して階段の端から地面に落ちてしまった。


 カイの助けのおかげで道が開かれたので進もうとしたミナトだったが、足を掴まれて転んでしまう。何に足を取られたか見てみると先ほどカイにタックルを受けていたヒョロ男の姿がそこにあった。


「面倒くさいっスねぇ、こんなガキ捕まえないといけない仕事なんて」


 お互いに力が拮抗しているのかその場から動くことができない。せっかく開けてくれた道を再度妨げられ唇をかむ。


「何やってんだよ、うちのリーダーさんは」


 その声が聞こえたあとに足が解放される。またしてもカイに助けられたようで、足を捕まえていた手をはがしてもらったミナトはどうにか抜け出せた。


「俺様がいねえと何もできねえな。早く助けにいってやれ」


 その言葉に応えるようにミナトは先に向かう。カイはもう力が尽きかけていたヒョロ男をポイと投げ捨てる。

 ヒョロ男をどうにかできたカイはミナトの後を追おうとするが、突如地面を見ることになった。大男が回復してカイを押さえつけていたのである。


「丁重にしときや。粗相があったらどうなるか責任持てへんで」


 糸目の男がそう言うと内臓が押しつぶされるほどの圧迫はなくなったが、変わらず身動きをとることは許されなかった。何度もミナトを助けることで体力もなくなり、なすすべなく捕らわれてしまう。そうして手を縛られてカイはミナトを追うことは叶わなかった。

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