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灰色の街で、光を拾う  作者: 秦はるま
第一章『ロウフォグ』
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第11話 奮起する時


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 ルカがミナトたちと離れ離れになってから数日が経っていた。


 何もしていなかったわけではないので具体的に言えば何の進展も得られていなかった、というのがこの数日の間であったことである。

 そもそもあの灰色の集団がどこをねじろにしていて、どの辺りでよく出没するかなんてこの街の住人であるミナトでさえ知らないのである。見かけたのもあの日ミナトの家の前で調査しているのが初めてで、その後何度も出会う──なんてことはなく霧の中で出会った限りである。おそらくこの街の住人ではないルカの方が彼らに一番遭遇しているであろう。


「おう、まだ考えてんか」


 なすすべもなく、しかしグレイウォッチに縁がありそうな老人宅であれば情報が一番手に入りそうと動けずにいた。──あれから特に話の進展はないが。そんな中今日もと言わんばかりにカイが話しかけてきた。


「……ルカが居ないとあの家を抜けてここまでやってきた理由が特になくなってしまうから。それにあの時ボクをかばってくれた結果がこれだからね」


 あの時のことを考えるとどうしても情報の波が押し寄せるかのように思考が鈍くなる。本来なら考えなくて良いことまで考えてしまう。

なんでかばってくれた──。

攫ったグレイウォッチは許せない──。

あの蹴りをくらうのは動けなくなるから嫌だ──。


「お前自身を責めんのは勝手だけどよ、悩んだって変わるもんじゃねえだろ」


「……」


 ミナトは何も発せなかったが状況が答えを物語っている。ルカが居なくなった今ブレイクスルーとなる案が急に生まれることもない。

 外に行っても霧だらけ、カイのおかげである程度は遠くに行けるも限度がある。中に居ても「ほっほ」と言いあごひげを撫でるだけで攫われた日に聞いた情報以上が得られない。八方ふさがりになりもはや諦めて帰るのが正しいのかもわからない。


「今日も悩んでいるようじゃな。一緒にラジオでも嗜もうではないか、気分が爽やかになるかもしれんぞ」


 昨日までこの時間は外に行っていたので珍しいと思い、せっかくならと老人が提案をしてやってきた。

 そのまま暖炉の反対側に近づき何かを操作し始める。昔に一度だけ父親がラジオの話をしてくれたので知識としては存在していたが、家に置いてあるわけではなかったので実際にモノを見るのは初めてである。

 少し距離がある中でもモノが見えるので大きさはそこそこあり、灰色のボディに茶色のまだらが所々についているようなものであった。──ミナトは錆を知らないわけではなかったが、初めて見る素材すら定かでない物に対してそこまで正確な解を出せるわけもない。


「ちょうどこの時間は街の出来事を伝える番組がやってるでの。このときに聞き逃してしまうと、再び夜が明けたこの時間まで待たねばなるまい」


 すると突然雨でも降ってきたかのような音が室内で鳴り始めた。窓を覗くが雨が降っている様子は一切見受けられない。そもそも家の中から聞こえるので外を見たところで意味がないのだが、かといってそう簡単に納得できるものでもない。


 見渡してみると音の発生源は今も老人が何かしているラジオからするようであった。少し見ていると雨音から「え──」や「の──」と人が話している声が聞こえてきだした。目星がついたのか老人が離れだすタイミングでははっきりと何を言っているか聞き取れるようになった。


『──街への配達もお任せを、淡雪乳業です』


 話には聞いていたがその場に居ない人の声が聞こえてくるのは衝撃的だった。遠くからの声を届けさせる方法はいくらかはあった、しかしそれは姿が見える程度には近くないと基本的に聞こえないものである。

 だが今の声はどこから届いたかなんてわからない。知識はあっても頭の処理が追いつくものではなくミナトは呆然としだす。


 一方のカイは内心驚いているのを隠して冷静を装っているのだろうか、ラジオの一連の流れに大きく反応する素振りは見られなかった。いつも通りの白湯を飲んで「けっ」と愚痴でも言いたそうな感じでラジオの方へと顔を向ける。


『ただいまから本日の街の連絡事項をお話いたします』


 いくつかの企業の紹介の後、街の情報番組が始まった。


『本日は2つお話いたします。まずは、明日の昼の九つに大広間にて公開処刑を行うことが決まりました──』


 白昼の時間に処刑するなど穏やかじゃないなと思った直後、衝撃の言葉を耳にした。


『──名前は伏せられていますが、齢は15程度、白い髪の少女で霧に不用意に近づいたとのことです』


 視線がラジオから離せなくなった。──間違いなくルカだ。頭にそのような言葉がよぎる。

 ラジオから放送されている内容はまだ話題が移っていなかったが、そのようなことはミナトには関係なかった。早くしないとルカとは二度と会えなくなってしまう。でも奴らには敵わないかもしれない。かといって静観するのか。


 耐え切れずにその場から立ち上がりドアへと近づこうとしたが、強い力に阻まれた。


「おいおい、今から出てったとこでどこにいるかもわかんねえんだろ」


「でも──」


「むしろチャンスじゃねえか、大広間でやるっつってんだろ」


 確かに明日になればルカの居場所が探すまでもなくわかる。それに今探したところで体力を使い果たしてしまえば、明日なすすべなく見守るしかできなくなる可能性もある。こんな状況でも冷静なカイに心の中で感謝をする。


「ってか、お前がリーダーの代役やるってのは意外すぎたぜ」


「リーダーの代役なんてなったつもりはないよ……」


「飛び出したってこたあ、ルカお嬢を助けるって決めたことだろ。そうなりゃミナトがリーダーやるしかねえっつうの、俺様はついてくだけだ」


 ミナトにとって決断というものは縁遠い言葉であった。多少の意志はあったかもしれないがその場の雰囲気に合わせて、もしくはより必要なのはどちらか、そんな自分のことは二の次にするような選択しかしなかった。

 それが、周りは関係ない下手したら自分まで処刑されてしまうはずの道を選択しているのである。自我を押し通してことを成し遂げたいと思っている。おそらくそんなことをカイも気付いて、はやし立てたのかもしれない。親友に恵まれたものである。


 それにルカから言われたこと──『霧を晴らす鍵』というのが気になる。彼女の悲願である霧の解消を自分が果たせるのであれば行くしかない。そして一緒にこの街の霧についてまた調査を行いたい。


「おぬしたちの道を指し示す羅針盤はラジオじゃったか。ワシも善行を重ねられるとはたゆたう残響となっても心配ないかもしれんの」


「そおだぜ、じいさんがラジオつけてくれなきゃなんにも知らねえまま処刑されてたってことだかんな」


「ありがとうございます」


「若人の役に立つのも先駆者の務めであるからの。感謝される──、それだけで報われるというものよ」


 そうして「ほっほ」と聞きなれてきた言葉を残し、少し冷めてしまった白湯の入ったカップへ手を伸ばす。謎多き老人であるのは未だに変わらないが、とても頼りになる情報をくれるのはありがたい。


 この燃える気持ちをそのままに英気を養っていくことになった。

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