第六十四話 神谷司希という人間
未来は変わった
俺の能力によりネルと零は助かった
あんな荒波の中でネルが零を見つけるというもしもを叶えた
だが、もちろん二人共怪我は負っていて
二人共入院していた
ネルは重傷でまだ意識も戻ってないらしい
まぁでも...
司希「俺の能力が不発なんてありえないから、いずれ回復するんだろうけどな」
誰にも聞こえないぐらいの声量で呟きながら
俺はそのドアを開けるのだった
司希「よ、生きてるか?」
俺がそう声をかけると、そいつは気まずそうに目を逸らす
司希「何目逸らしてんだよ」
零「な、何話せばいいか分かんなくて...」
司希「ま、そうだろうな」
司希「人殺したんだって?」
零「.....はい」
零は申し訳なさそうに言ってきた
ただ...
そんな苦しそうな表情をする度に俺の胸は痛んだ
俺の零に会いたいというエゴがどれだけこいつを苦しめていたいたのか実感する
司希「それで、全部を終わらせるために死のうとしたのか」
零「これが1番綺麗に終わると思ったんですよ」
司希「で、結果死に損なってルルにブチギレられたのか」
零「....なんでしってるんですか」
司希「さっきちょうど廊下でルルに会ってな」
司希「あんなにブチギレてるルル初めて見たな」
零「.......」
司希「まぁ、なんでもいいが...」
司希「お前が退院するその日まで俺達は待つ」
司希「それしか俺達にはできないからな」
本当に...俺にはそれしかできない
もう...
能力は使えないんだからな
そんな事を思いつつ、俺は零に背を向ける
零「もう、行くんですか?」
司希「あぁ、顔見にきただけだしな」
司希「早く体治せよ」
俺はそれだけ言って
零の病室を後にするのだった
そして....
零の退院の日
ネルと零を除いた五人がこの場には集まっていた
ルル「なぁ...一」
一「....なんですか?」
ルル「これから、神谷に事情を話してもらう」
ルル「だが....」
ルル「お前には何があっても途中で口を挟んで欲しくない」
ルル「神谷が何か決断を下すその時まで、黙っていてくれないか?」
ルル「私からのお願いだ」
そう言ってルルは頭を下げた
一「.......」
司希「ハッ」
俺はその言葉を聞いて思わず笑っていた
司希「あれだけキレてたのに結局神谷の事大事に思ってるんだな」
ルル「あくまでこの場を穏便に済ませたいだけだ」
司希「そうかい」
俺達がそんな会話をしていると...
ガチャリッ!
そんな音と共に生徒会室の扉が開かれた
全員の視線がそちらに向く
やがてそこに現れたのは...
ルル「.....来たか」
零だった
零「....まず一ついいですか?」
ルル「あぁ、なんだ?」
零「生徒会メンバー全員が集まった状態で僕は話すと聞いていました」
零「この場にはネルはいません」
零「それでもいいんですか?」
ルル「.......」
ルル「ネルをこの場から消したのはどこのどいつだ?」
零「.......」
ルル「私だって生徒会メンバーが全員集まるまで待ちたかったさ」
ルル「しかし、先週生徒会選挙が行われた」
ルル「もう、引き継ぎや片付けとかも終わらせててな」
ルル「この生徒会は今週で解散なんだ」
ルル「ネルが退院するのは1ヶ月後、生徒会ができるのは今週いっぱい」
ルル「そりゃネルにもいてほしかったがしょうがない」
ルル「ネルには私から説明しておく」
ルル「私達だけでも事情を聞く権利はあると思うが?」
零「.....そうですね」
零「.....では、話します」
零「僕が人を殺した経緯、僕の全てを」
零「あれは———」
零「あれは僕が小学六年生の時でした」
零「僕達の家はとても裕福な家とは言えませんでした」
零「でも、僕はあの生活が大好きでした」
零「かっこいい父がいて、優しい母がいて、大好きな弟がいる」
零「たとえお金なんてなくても、僕の人生は幸せでした」
零「でも....」
零「僕の生活は一夜にして全て壊れた」
零「今でも鮮明に思い出せます」
零「あれはいつものように僕達家族四人で夕食を食べていた時」
零「玄関の方から物音がしました」
零「両親は少し見てくるから待っててと言い、玄関に向かった」
零「そして両親が向かった数秒後....」
ザシュッ!!!
零「そんな耳を塞ぎたくなるような音が家中に響いた」
零「僕と一が慌てて玄関に向かうと...」
零「そこは地獄絵図でした」
零「腹部を抑える両親、刃物を持つ強盗、辺りが真っ赤に染まっている玄関」
零「僕はまだ小学6年生」
零「どうすることもできずにただパニックに陥っていました」
零「しかしそんな時...」
「走るよ!!」
そんな声が聞こえてきました
零「そして僕達兄弟は両親に手を引かれ玄関から逃げた」
零「近くのお店目掛けて僕達は走った」
零「しかし強盗も見逃してなんてくれるわけなく」
零「血眼になって僕達家族を追ってきました」
零「そして」
零「そして.....」
零「僕達家族は追いつかれ、捕まってしまった」
零「怪我をしてる大人、そしてまだ義務教育も終えてない子供、そんなのが大の大人に勝てるわけなく、僕達はあっさり捕まってしまいました」
零「僕は子供ながら<死>を悟りました」
零「でも....」
零「僕はそれでもいいと思った」
零「この家族揃って死ねるのならそれ程までに幸せな死に方なんてないと思ったから」
零「僕は縋るような眼差しで両親を見ると、両親の口が動いた」
「子供達はどうなっても構いません!!!どうか私達の命だけは助けてください!!!」
「...........は?」
零「次の瞬間僕の中の何かが切れた」
零「僕の視界は真っ黒に染め上げられ僕は意識を失った」
零「そして次に意識が戻った時には...」
零「全てが終わってた」
零「滅多刺しで倒れている両親、滅多刺しで倒れている強盗、隣で泣きじゃくる弟、そして....」
零「刃物を持っている僕」
零「近隣住民の人が通報したのか、警察は案外早く来た」
零「僕達は警察署まで連行され取り調べを受けた」
零「だがもちろん小学生の僕達にまともな受け答えなんてできず」
零「僕達は泣きじゃくる事しかできなかった」
零「そのため警察は現場検証をする事で真実に辿り着いた」
零「僕は3人を殺害した容疑者として児童相談所に送られた」
零「でも....」
零「僕は当時11歳だった」
零「その年齢もあって、僕は法で裁かれることはなかった」
零「未成年である事、状況が正当防衛の部分があった事なども考慮され」
零「僕はすぐに解放された」
零「僕達にはもう親はいないため、父方の祖父母の家に預けられた」
零「僕は人を殺したのに、未成年であったから普通の生活に戻れた」
零「でも....」
零「それを良く思わない人物がいた」
零「それが...」
零「僕の弟、神谷一だ」
零「一はその日から僕をひどく嫌った」
零「お前のせいで俺のこれからの人生何もかも変わったと」
零「お前のせいで両親は死んだのになんでお前は生きているんだと僕をひどく責め立てた」
零「その日から一はこう考えるようになった」
零「お前が両親を殺した事で俺の人生は全部壊された、じゃあ次はお前の番だと」
零「法が捌けないのであれば、社会が捌けばいいと、そう考えるようになった」
零「社会的に殺して自殺に追いやる、それが一の願い」
零「一のその悲願は7年の年月を経て叶えられようとした」
零「でもそれをネルが止め、一の悲願は叶わず、僕は今ここで息をしてる」
零「......」
零「これが僕の全てです」
司希「........」
俺はそれを聞いた時...
酷く絶望した
ただの子供が強盗からナイフを奪い大人三人を殺害
そんなの...
できるわけないだろっ!!
俺は歯を食いしばる
零がなぜそんな芸当ができたのか?
答えは簡単だった
俺が...この世界に来たから...
この世界戦の零はきっと11歳の頃に家族全員揃って死んでいたのだろう
でも...
俺がこの世界に来た事により、零が傲慢の力を持つ過去に造り替えられ
零は傲慢の力で強盗と親を殺害する未来に分岐した
零にとって家族全員揃って死ぬのか
弟に恨まれながら生きるのか
どっちが幸せだったかなんて俺には分からない
でも...
零が一に恨まれるこの現状は...
零が人を殺してしまった原因は...
零が罪を抱えながら生きていかなくきゃいけなくなったのは...
....全て俺の願いのせいだった
俺はその事実に酷く絶望した
でも、能力が使えない俺にはどうする事できなくて...
ただ拳を握る事しかできないのだった
全てを話し終えた零は...
零「僕は自主退学してこの学校を去ります」
そう言葉を吐いた
一はルルとの約束を守ってか今まで何も言わなかった
しかし...
零が自主退学という決断をしたため
一はやっと口を開いた
一「てめぇ!」
一「お前また転校して、別の学校で何もなかったように生きるつもりかよ!!」
零「するわけねーだろ」
一「.....?」
零「僕に学校生活なんて最初から無理だったんだ」
零「僕はこれからその日の日銭を稼いで密かに生きていく事にする」
零「僕はもう学校なんて通わない、幸せな人生なんて目指さない」
零「僕は一人でこの命の灯火が消えるその時まで罪と向き合い続けるさ」
零「今まで悪かったな、一」
零はみんなの方に向き直り
零「生徒会のみなさん、今まで迷惑かけてすみませんでした」
零「こんな僕が皆さんと過ごせて最後に幸せを感じる事ができました!」
零「本当にありがとうございました」
零はそう言って深々と頭を下げてから
ドアに向き直り、歩を進めた
そしてドアノブに手をかけ
開けた
その瞬間.....
零「なっ....」
そこには....
ネル「全部....聞いてたよ....」
ここにいるはずのない少女がそこにはいた
零「な...なんで...」
零から出てきた言葉は率直な疑問だった
ネル「担当医にお願いして、外出を許可してもらったの」
よく見ると、ネルの体にはあちこちに包帯が巻かれていたりボロボロだった
ネルはおぼつかない足取りで零に歩みよる
ネル「ねぇ零...」
ネル「なんで離れようとするの?」
ネルは一歩また一歩と零に歩み寄る
零「や..やめろ...」
零はそれに合わせ一歩また一歩と後ろに後ずさった
零「僕は人殺しなんだ...」
零「ここにいちゃいけない存在なんだ....」
零「じゃないとみんなにも迷惑がかかる...」
零「だから....」
ドンッ!
その瞬間
ネルが零の胸に向かって飛び込んだ
ネル「私はそれでもいいって言ってるのっ!」
ネル「言ったじゃん...私はあなた以外と幸せになるぐらいならあなたと地獄をみたい....」
ネル「私はあなたから離れない!!」
ネル「離れたくないっ!」
ネル「クラスが...学校が...社会があなたを拒絶しても...」
ネル「私だけはあなたの隣にいる!!」
ネル「自主退学なんて許さない!!」
ネル「絶対に!!」
零「.......」
零はネルのその言葉を聞いて....
零「悪いな....ネル」
ネル「ど...うして...」
ネルを拒絶した
零は抵抗できないネルをイスに丁寧に座らせ...
ドアの方に向き直った
零「無理なんだよ....」
零「おかしいだろ....」
零「お前は何もしてないのに、僕のせいでお前まで後ろ指指される」
零「僕はそんなの...耐えられない....」
零「もう十分だネル」
零「お前の気持ちは伝わった」
零「お前はもう、僕のために傷つかなくていいんだ」
零「今までありがとう」
零「じゃあな」
零がそう言って、生徒会室の扉を開けた時...
一「あぁもう!クソッ!」
一「おい!待てよクソ兄貴!」
零は振り返る
零「?」
一「俺はお前から全てを奪ってやりたかった」
一「でも....お前から居場所は奪えなかった...」
一「お前の事を好いてくれる人がいる」
一「地位や名誉は奪えても、居場所だけは奪えなかった」
零「......何が言いたいんだよ?」
一「だからな....」
一「俺はお前からもう何も奪わないって事だ」
零「.....は?」
零「何言って....」
一「俺達は周りを巻き込みすぎた」
一「もう俺達兄弟だけの問題じゃないんだよ」
一「だから俺はもうお前から何も奪わない」
一「ただ勘違いすんな」
一「俺はお前を許したわけじゃない」
一「俺は一生お前を許さない」
一「ただな...」
一は零に笑みを浮かべ
一「長かった兄弟喧嘩も今日で終わりだ」
一「後は好きに生きろよ」
一はそれだけ言い残し、零の隣を通り抜け生徒会室から出て行った
生徒会室は一瞬静まった
しかし少女がある事に気づき..
ネル「聞いたでしょ!?」
ネル「もう零は自由に生きていいんだよ!!」
ネル「自主退学する必要なんてないんだよ!!」
ネル「ねぇ零....」
ネル「もういいんだよ...」
ネル「ここにいてよ....」
零「......」
零はネルにそう言われた
しかし....
零「違う....」
零はそれすらも否定した
零「僕が人を殺したという事実は変わらない」
零「一が僕を許そうが一の発言がなかった事になるわけじゃない」
零「一が僕を許そうが、社会が僕を許さないんだ」
零「僕はこれからも白い目で見られ続ける」
零「ネルとはどう足掻いても一緒に居れないんだよ」
零「その未来は変えられない」
ネル「.....」
零はそれだけ言い残し、生徒会室を出ようとした
だが....
ルル「じゃあ社会的に許されればいいんだな?」
ルル「じゃあ....」
ルル「裁判するか?」
ルルがそんな楽観的な提案をした
零「は?」
訳が分からないと言った声が響く
零「何言ってるんですか?」
零「小さい頃にそれができなかったから今こうなってるんでしょうが...」
ルル「お前は別に公的に捌かれる必要なんてない、あくまでお前の過去を知ってるのはこの学校だけだ」
ルル「だから、この学校から許されればいいんだ」
零「でも...そんな事できるわけ...」
ルル「ここに宣言しよう」
ルル「私、一条ルルは....」
ルル「明日、生徒総会を開く!!」
ルル「議題は今話題の神谷零を在学させていいか否か」
ルル「この生徒総会で賛成票が多かった場合、神谷零の在学を認める」
ルル「ただ、反対票の方が多かった場合はお前はこの学校を去れ」
ルル「いわば...」
ルル「学校裁判だ」
零「.......」
零はルルのその提案に数秒固まる
零「好きにしてください....」
零「やったとしても結果なんて変わりませんよ?」
零「僕の退学を1日伸ばす、それがルルさんのやりたかった事なんですか?」
零「それでもいいってなら勝手にやってください」
零「じゃあ、もういいですか?」
零はそう言って生徒会室を出ようとする
俺はそんな零を見て
司希「.....なぁ、神谷」
気づけば声をかけていた
そして俺は一つの決断をし
司希「案外未来ってもんは...」
司希「信じてればなんとかなるもんだぞ?」
零にそう言葉をかける
零「.....シキさんらしくない発言ですね」
零はそう言い残し
今度こそ生徒会室を後にするのだった
....零の言う通りだ
本当に俺らしくない
でも...思っちゃったんだから仕方ないだろ
俺はたとえ...
自分を犠牲にしてでも神谷零を救いたい
その願いは何度時空を超えたって変わる事はないんだろうな
さぁ...そろそろ終わらせないとな
この...
——兄弟の物語を——
第六十四話 終了




