第六十二話 もう一人の主人公
この世界にも大分慣れてきて
生徒会メンバーともクラスメイトとも普通に話せるぐらいにはなった
この世界で生活して、俺は気づいた事がある
能力というものは本来、体内にあるエネルギーを消費して発動している
まぁ...
寝たら回復するから、エネルギー切れを起こしてる奴を俺は見た事がない
だが...
俺は何日経っても、何週間経ってもエネルギーが蓄えられている感覚がない
理由はすぐに分かった
今の俺の体はあの世界で生きてきた「神谷司希」の体じゃない
この世界に存在していた「シキ」の体だ
シキは能力者なんかじゃない
強欲の力を持っていたわけでもない
普通の人間だ
だから、今の俺には本来能力なんてものはない
けど....
俺が死ぬ間際に願った最後の願い
零と幸せに生きたい
その願いが俺をこの世界に導いた
その願いのせいで本来繋がるはずのないあっちの世界とこっちの世界を繋げてしまった
それによりあっちの世界での俺の能力がこっちの世界の俺にも少し反映されているのだろう
弱体化が入っているとは言え、実力主義の学園のトップ
きっと今の俺は戦闘能力も運動神経も世界トップだろう
強欲の能力だって使える
でも...
その能力を使うためのエネルギーはもう回復しない
俺に残っているのは、任務により能力を連発した日の体に残っているエネルギーの残りカスだけ
俺は残りカスのエネルギー分しか今世で能力を使えない
回数にして...
残り四回分
だが...
俺はそのうちの二回分の使い道は決めていた
一つは、全てが終わった後本物のシキに体を返す事
そしてもう一つは、シキに体を返した後
俺はもう一度だけ....あっちの世界の神谷零に会いたい
蘇らせてくれなんて事は言わない
いや....
きっと言ったところで強欲の力はそれを叶えてくれないだろう
それはあまりにも強欲すぎるから
でも....
一瞬だけならきっと、許してくれるだろう
その願いが叶った時、俺は本当の意味で死ぬんだろうな
もう魂が宿る肉体もないんだから
司希「あークソ」
司希「こんなに考えないといけないならあの日あんなに能力連発しなければ良かったぜ」
俺は自分の部屋で一人、そう呟くのだった
どうやらこの世界にはイベントというものがあるらしい
体育祭や学校祭、修学旅行など俺の聞いた事がない事をする事が当たり前の世界らしい
そして....
今日は体育祭だった
2年である俺が体育祭を知らないのはおかしな話なので
俺は不審がられないために、一年生向けに説明されている体育祭の説明を2年である俺が本気で聞いていた
説明を聞いているうちに分かった事がある
体育祭は事前に選んでいた個人種目とクラスリレーをやるようだった
俺はよく分からなかったため、100M走を選択していた
放送「続いて、3年100M走です」
放送「該当の生徒は誘導係の指示に従って、レーンに並んでください」
俺は誘導係に任せ、自分の番が来るのを待った
やがて俺の番になり...
審判「オンユアマーク」
審判「セット」
バーン!!
そんな銃声音が鳴り響く
俺は少し嫌な記憶を思い出していた
俺が呆然としていると、俺の周りにいた奴が走り出していた
俺は100M走のルールの趣旨を理解し
遅れてスタートした
だが....
遅れてスタートしようがこの世界の住民である以上、俺に敵うはずもなく...
数歩踏み込むだけで俺は先頭に躍り出て、半分を過ぎた頃には数十Mの距離がひらいていた
俺は気づけばゴールテープを切っていて
俺はぶっちぎりでゴールをしていた
一位を取った事により、生徒会企画への出場が決まったとルルから伝えられた
俺はその後
クラス対抗リレーと生徒会企画で走らされたが...
結果なんて言うまでもないだろう
時は過ぎ...
今は夏休みだった
そして俺は今日
生徒会メンバーと夏祭りに来ていた
俺がこの世界に来てから10ヶ月程が経過しており
俺はこの世界の事をほとんど把握してきていた
やがて、生徒会メンバーで射的をやろうという話になったが....
全員絶望的だった
景品はを一個も取れないまま交代
シキ「お前達下手すぎなんだよ」
あまりにも下手すぎて俺は口を出した
ひより「ふーん??」
ひより「そんなに言うならお手本みせてほしいなー!!」
シキ「あぁいいぞ」
そう言って俺は流れるように店主にお金を渡しコルクを受け取る
シキ「射的はな...」
シキ「こうやってやんだよ!!!」
バンッバンッバンッバンッバンッ
俺はあっちの世界で少しだけ扱った事のある銃の経験を頼りに
景品に狙いを定め景品を乱獲していた
それもゲーム機やらモデルガンなど本来なら取るのが難しいものでも難なく取れる
....後で売って金にするか
零「す、すごい...」
零「全弾命中....」
零は感嘆の声を漏らしていた
店主「お、おめでとう....また来てね....」
店主は無理やり笑顔を作り、俺に景品を渡してくれた
その様子を見た俺は....
シキ「クックックッ」
シキ「また来てね?何寝ぼけてんだよ店主」
店主「え?」
シキ「これはどちらかが折れるまで終わらない、そんなデスゲーム」
シキ「つまり...」
俺は店主にお金を渡し...
シキ「倍プッシュだ!!!」
そう告げた
ルル「....ほどほどにしろよ」
ひより「じゃ、私達先行ってるから、終わったら合流しよー」
俺は生徒会メンバーが離れて行くのを横目で確認しながら、景品に銃口を向けるのだった
司希「チッ」
司希「出禁で強制終了食らった」
司希「まぁ、いいか」
司希「欲しいものも取れたしな」
俺は零が取ろうとしていたクマの人形を見つめる
司希「あいつら、どこ行ったんだ?」
俺は探す
やがて...
俺は人集りができているのを見つけた
俺は何事かと思って近づくと...
司希「.....!!」
人集りの中心に零がいた
....警察に取り押さえられている状態で
俺は咄嗟に近づき、近くにいたネルに声をかけた
司希「ネル、何かあったのか?」
ネルは涙ぐんだ声で...
ネル「零が...私達を守ろうとしてくれて...」
ネル「ナンパを撃退してくれたんですけど...」
ネル「零に何回呼びかけても....反応なくて...!!」
ネル「零がナンパしてきた人を殴り続けて...」
ネル「それで...!!」
司希「......」
俺はもう一度、現場に視線を送る
そこには...
零に半殺しにされたであろうDQNが二人伸びていた
しかし....
俺はその現場に違和感を覚える
あまりにも...
あまりにもそのDQN達には外傷が多すぎた
これ程までの威力の攻撃
一般人の零が出せるのか...?
俺は少し胸騒ぎがした
いやこいつはきっともう一般人なんかじゃないのだろう
こいつは...
俺はそんな事を考えていたが
零が警察に連行されていく姿が見え
俺はすぐさま思考を打ち切り
そして....
司希「こんな未来....」
司希「あっていいわけないだろ!!」
俺は胸に手を置く
司希「もしも...」
司希「俺が暴力事件が起こる前に駆けつけらていたら」
俺は久しぶりに能力を発動した
だが....
それでも俺の能力はうまくいった
世界が造り替えられる
司希「......!!」
俺はコルク銃を手にしていた
スマホを手に取る
時刻は事件が起こる10分前を指していた
俺は零が欲しがっていたクマのぬいぐるみを一瞬で取り
司希「悪いな、おっちゃん」
司希「俺行かないといけない所できたから、行くわ」
俺はそう言ってコルク銃を台に置き
踵を返して走り出した
走って
走って
走って
さっきの現場に到着した
俺は現場に目をやると
一人のDQNが倒れ
もう一人のDQNが零になぐりかかろうとしていた
司希「......!!」
ここで止めないと、さっきと同じ事になるだろうが!
俺は一瞬でDQNとの距離をつめ
勢いを殺さずに、飛び蹴りをしていた
司希「俺が少し目を離したらこれだもんな....」
ひより「....シキ!!!」
俺は全員を庇うように腕を広げる
シキ「.....悪かったな神谷」
シキ「もう大丈夫だ...」
シキ「大丈夫だから、お前は下がってろ」
零「......」
俺がそう言うと...
零の意識はプツンっと切れるようにその場で倒れた
シキ「.....」
シキ「....さーて」
シキ「お前ら?」
シキ「俺のグループに手出したって事がどういう事かわかってやってたんだろうな??」
DQN1「ひっ!」
DQN2「やっ!やめっ!」
俺は即座に男達の懐に入り、腹部な強烈な一撃を叩き込み男達を沈静化させた
久しぶりの戦闘で体は鈍っていたが
どうやら戦闘スキルはあまり衰えてはいないようだった
俺は自分の掌を見つめる
司希「後、三回...」
誰にも聞こえないぐらいの声量で
俺はそう呟く
シキに体を返すのに一回
最後に零に会うのに一回
俺が後、自由に使える能力の回数は
一回だけだった
第六十二話 終了




