第五十七話 唯一奪えなかったもの
司希「.......」
俺はその古びたドアノブを捻り上げた
そして
この足を中に踏み入れるのだった
中に入ると、そこは異様な光景だった
会議室だと言うのに、物は一つも置かれていない
机も椅子も
何もなかった
そんなだだっ広い空間のど真ん中に
一人の青年が立っていた
その青年は白衣を羽織っていて
黒髪に茶色い瞳
そんなどこにでもいるような青年だった
一つだけ違う点があるとするならば....
首に首輪が取り付けられており
その首輪には
最高傑作 No.769
と、書かれていた
司希「....倒れていたテロリストはお前がやったのか?」
俺は部屋の中央にいるそいつに声をかけた
No.769「.......」
そいつは何も言葉を発さず、ただこちらを睨んできていた
司希「質問を変えよう」
司希「お前は何者だ?」
No.769「質問の意味が...分からない...」
そいつは言語は話せるが
知能がないのか感情がないのか
どうにも会話ができるような相手ではなかった
司希「残念ながら....」
司希「疑わしきは罰せよ」
司希「それが俺のポリシーだ」
そう言って俺は懐からナイフを取り出した
一瞬でそいつとの距離をゼロにして....
そのナイフを胸元に刺した
司希「任務は、終わりだ」
そう呟いた
次の瞬間
No.769「....吸収」
そいつはそんな謎の言葉を呟いた
俺は身の危険を感じ、一度距離を取る
そして数秒後...
No.769「反転」
そんな言葉と共に
ヒュンッ!!
ナイフが俺の心臓部目掛けて、ものすごいスピードで飛来してきた
司希「!!」
俺は咄嗟に回避行動を取るが...
頬にじんわりと熱を感じた
司希「チッ」
司希「相手からきた攻撃を跳ね返すっていったところか?」
司希「しょうもねぇ戦い方だな」
No.769「なぜ...怒る?」
司希「あ?」
No.769「なんで...君は...怒る?」
司希「.....さーな」
司希「少なからず....」
司希「本人を前にして陰口言う趣味はないんだよ!」
俺はそいつの腹部に蹴りを叩きこんだ
しかし...
そいつは俺が瞬きをした一瞬のうちに
俺の腹部に強烈な一撃を叩き込んでいた
司希「あがっ!」
俺は数メートル吹っ飛ばされ、壁に激突する
俺はゆっくりと立ち上がる
司希「中々に面白い能力だ」
司希「まぁただ...」
司希「こちとら実力主義の学園のトップなんでね」
司希「俺も負けないぐらい面白い能力持ってんだよ」
俺はナイフを構えてそいつとの距離を詰め
能力を発動する
司希「もしも....」
司希「俺がお前の後ろに立っていたら」
俺がそう言葉を発した次の瞬間
司希「....!!」
俺はそいつの後ろに立っていた
完全に死角
ここからじゃ能力は間に合わない
俺はそんな事を考えながらナイフを振るう
そして...
ザシュッ!
俺はそいつの横腹を切り裂く事に成功していた
俺はすぐさま距離を取る
確かに俺のナイフはそいつの横腹を切り裂いていた
しかし....
No.769「.....吸収」
そいつがそう言葉を発した瞬間
俺は目を見開いた
司希「消え...た...」
俺がさっきつけたはずの傷が最初からなかったように消えていた
No.769「....反転」
そいつがそう言った瞬間...
司希「ッ!」
俺の横腹に鋭い痛みが走る
俺がそちらに視線を向けると
俺の横腹に切り傷が刻まれていた
司希「...ハハッ」
司希「攻撃だけじゃなくてダメージも跳ね返せんのかよ....」
司希「なら....」
司希「俺は直接手は下さない」
司希「....もしも、あいつの場所の天井が崩れたら」
俺が能力を発動した瞬間
天井が轟音を立てて崩れる
No.769「....吸収」
そいつのその一言で、天井の崩壊は一瞬にして直る
No.「反転」
....察していた
俺はすぐさまその場から避けた
だが....
それを完璧に避ける事なんて俺にはできず
司希「あがっ!」
俺は落ちてきた瓦礫に下敷きにされていた
司希「......」
俺は瓦礫をどかし立ち上がる
司希「攻撃もダメージも事故も全て反転する」
司希「お前には何ができないんだよ」
No.769「....分からない」
No.769「攻撃を吸収して...反転する...」
司希「....会話ができない奴に時間を割くほど俺も暇じゃない」
司希「もしも....」
司希「俺の掌から炎が出たら」
ザァッーー!!
火炎放射器のように炎が射出される
しかし...
当たり前のようにそれは返ってくる
司希「......」
司希「....もしも、この攻撃が反転したら」
次の瞬間、俺に向かってやってくる炎は急激に方向を変えた
やがてその炎はそいつに直撃し...
No.769「あ....つい...」
そいつに、初めて攻撃を与える事に成功していた
司希「お前はたしかに何かの最高傑作なのかもしれない」
司希「だけどな....」
司希「悪いが、俺も学園の最高傑作なんだ」
司希「お前にできて俺にできないわけないだろ」
俺はいまだに苦しみ続けるそいつに言葉を投げかける
やがて立ち上がったそいつは
No.769「攻撃の反転を感知」
No.769「これより、二度目以降の攻撃も反転」
そう呟いた
司希「.....まさか」
俺はそいつに再び炎を放った
そいつは俺に返し、俺もそいつに返す
さっきはその攻撃がそいつに直撃した
だが....
No.769「吸収」
No.769「反転」
そいつは二度目の攻撃も返してきた
俺はこのままこいつに返しても無駄だと思い
司希「....もしも、俺が炎を放っていなかったら」
そして、炎は俺の目の前で消えた
司希「......」
勝てない....
俺はその時、負けを悟った
初めての経験だった
俺が放った攻撃が全て跳ね返される
まさにチート能力
理論上、こいつに勝てる奴など誰もいなかった
強欲の能力はもしもを叶える
しかし.....
もしも、この勝負に勝ったら
もしも、相手が大ダメージを負ったら
そんな、漠然とした願いや現実性のない願いを叶えてくれるほどこの能力は万能ではなかった
小さな可能性を掴む
俺の能力ではそれが限界だった
司希「.....疲れた」
能力の連発により俺の体力も気力も削がれていた
俺はその場で膝をついた
初めてだった
司希「ハハッ...」
学園最強がこの様か
No.769「......」
司希「......」
気づけばそいつは俺の目の前に来ていた
No.769「もう...たたかいは....おわ...り?」
司希「.....」
俺はただ静かに首を縦に振る
俺にはもう立つ事もできなかった
立ったところでダメージが与えられず先に俺が力尽きる事は目に見えていた
何十時間、何百時間やりあってもこいつには勝てない
ならば、そんな無駄な事せずに負けを認める
No.769「そう....か...」
そいつはそう言って、片腕を振り上げた
司希「....」
俺が死を覚悟したその時....
バァン!!!
扉が勢いよく開かれた
俺がゆっくりとそちらに視線を向けると...
零「兄さん!!」
そこには....
俺の実の弟がそこにはいるのだった
第五十六話 終了




