第四十二話 能力以外の<何か>
悠「.....」
伊織「....」
砂浜でお互いに剣先を向け
どちらかが動けば戦闘が始まる
そんな状態
そして先に動いたのは...
悠「っっ!!」
伊織さんだった
伊織さんは能力なんて使わずとも人外レベルの速さで詰め寄り
その拳を俺の腹部目掛けて振り抜いた
悠「あがっ!!」
俺はその攻撃をもろにくらいよろけた
プレデターがそんな隙を見逃してくれるわけなく
バアアアアアン!!
伊織さんに右足で蹴り飛ばされ
俺は数メートル吹っ飛ばされるのだった
砂浜に膝をつく俺に伊織さんはゆっくりと歩を進め
伊織「これで、終わり?」
伊織さんは俺の胸ぐらを掴み空中に持ち上げた
悠「ぁ....」
息が...
伊織「.....」
それをみた伊織さんはつまらなさそうにその手を離した
悠「はぁ...はぁ...はぁ...」
俺が視線を上げると
そこにはゴミを見るような目で俺を見る伊織さんがいた
伊織「君...もういいよ」
伊織「私は君に可能性を感じてた」
伊織「でも君は結局私の期待には応えられないどころか....」
伊織「最低ラインにすら到達できなかった」
悠「....」
伊織「君は全然分かってないんだよ」
伊織「何を勘違いしてるのか知らないけどさ」
伊織「私が言ってんのは能力を使うなって事じゃない」
伊織「能力を使わずして勝てる<何か>を身につけろって事だった」
伊織「私のこの格闘技、みたいなね」
その瞬間
悠「がっ!」
俺の腹部に強烈な蹴りが突き刺さった
俺がうずくまろうがお構いなく言葉を続ける
伊織「それを勘違いして、能力を封じ込めて無謀にも挑んでくる君は....」
伊織「能力者失格」
無情にも現プレデターにその現実を突きつけられる
伊織「君は...怠惰の罪だったけ?」
俺は言葉を発さずコクリと首を縦に振った
伊織「そっかぁ」
伊織「可哀想だよ」
伊織「君なんかを選んだ7つの大罪の能力がさ」
悠「そんなことっ!———」
伊織「あるから君が今倒れ私は立っている」
伊織「違う?」
悠「.....」
伊織「もういいよ月城悠」
伊織「早く死んで」
その言葉と共に俺の右足に鋭い痛みが走った
右足を見てみると...
ナイフが俺の右足を簡単に貫いていた
悠「...あ...」
悠「あぁぁぁぁっ!!」
俺は今生身の人間
そんな体でナイフが刺されば痛くないはずがなかった
俺は声にならない声で叫ぶ事しかできなかった
伊織「....」
私の目の前の少年は足を押さえ悶えていた
私は月城悠からナイフを引き抜き
悠「あぁっ!!」
ナイフを回収した
私はゆっくりと体を翻し
伊織「さよならだね」
伊織「船が来たら命だけなら助かるんじゃない?」
伊織「ま...それまで意識があるかどうかだけどね」
私はゆっくりとその場から一歩一歩と歩を進めた
しかし...
伊織「!?」
後ろから気配を感じ
振りむいた
その瞬間
シャキイン!!
そんな金属音が聞こえてきて
目の前には...
ナイフを持った月城悠がいた
私はすぐに回避行動を取ったが...
伊織「.....」
頬にじんわりと熱を感じ
頬を触ると...
伊織「痛いなぁ...」
そこには血が付着していた
私は距離を取り
ナイフの剣先を再び月城悠に向けた
伊織「...よく立ち上がったね」
伊織「痛くないの?」
悠「....痛くないように見えますか?」
伊織「...見えないね」
月城悠は足を引きずりながら歩いており
右足から血が絶え間なく垂れていた
その足で私との距離を一歩また一歩と近づけてき
伊織「ねぇ...」
伊織「君はなんでまだ立ち上がるの?」
伊織「勝てないって分かってるよね?」
伊織「なんで?」
悠「.....」
返事はなかった
荒い呼吸をしながらゆっくりとこちらに歩み寄ってくるだけだった
伊織「そっか...」
伊織「なら....」
伊織「心か体が壊れるまでボコボコにしてあげるよ!!!」
私はナイフを握り直し
そして私は思いっきり地面を蹴った
月城悠との距離を一瞬にして詰め
腹部に強烈な拳を叩き込み
宙に浮いた体を回し蹴りを後頭部に叩き込み地面に叩きつけた
地面にうずくまる彼に
伊織「諦めてたら死なないですんだのにね」
私はそう言って腹部にナイフを突き刺した
体はもうボロボロで
致死量の血が体からは溢れ出ていた
だが...
悠「......」
月城悠はそれでも立ち上がった
伊織「本当に...」
伊織「呆れるしつこさだね」
私はすぐさま月城悠の胸ぐらを掴み
殴る
蹴る
地面に叩きつける
ナイフを振るう
何度も
何度も
何度も
何度も
しかし....
その都度月城悠は立ち上がった
伊織「なんで....」
伊織「なんであなたは立ち上がるの?」
伊織「もう...心体共に限界でしょ」
伊織「そんな状態で...なんで?」
私はただ疑問だった
頭の中が?でいっぱいだった
私はその理解の及ばない存在に...
伊織「っ!?」
私...今何した?
私が...後退した?
私の足は無意識のうちに月城悠から距離を取っていた
あぁ、そうだ
怖いんだ
私は今、理解の及ばない月城悠という存在に恐怖を抱いているんだ
悠「......」
月城悠はそれに気づいたのか
悠「なんで立ち上がるか、ですか」
悠「そんなの簡単ですよ」
月城悠は一拍おき
悠「神谷零と約束したからです」
そう告げてきた
悠「一緒にプレデターに上がるって...約束したんです」
その約束はあまりにも軽い約束であり
あまりにも...重たい約束だった
伊織「......」
私はその言葉を聞いて
月城悠の評価を改めさせられた
伊織「悪かったね」
悠「?」
伊織「君には能力以外何もないなんて言って」
伊織「君はしっかりあったよ」
伊織「君のその<諦めない精神>は能力以外の<何か>だった」
伊織「私は君を認める」
悠「!!」
伊織「そんな君に敬意を払って」
私はナイフを一本月城悠の足元に投げ
伊織「早く拾いなよ」
伊織「じゃないと...」
伊織「死ぬよ?」
私は月城悠との距離を詰め
私が振り上げたと同時に月城悠はナイフを拾い
キイイン!!
そんな金属音を立てながらナイフ同士は衝突し、火花を散らした
そしてその1時間後
長い長い戦いの勝者は決するのだった
第四十二話 終了




