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第三十七話 さよなら、勇者

零「.....ここは?」

僕が次に目を覚ますと

そこは....

何もない真っ白な空間だった

そんな時....

???「負けた、か」

背後から声が聞こえてきた

零「....勇者?」

ゆっくりと後ろに振り返ると

そこにはいつもの勇者がいた

零「勇者なのか?」

勇者「うん、しっかりとな」

零「て事は、僕はまだ死んでな——」

僕が言い切る前に勇者は口を開いた

勇者「残念ながら、だよ」

零「......」

勇者「今回は俺は呼び出していない」

零「なら...ここはどこなんだよ」

零「本当に天国なのか?」

勇者「なんでもかんでも聞いたら答えが返ってくると思ってるのか?」

勇者「俺はあくまであの精神世界を作っていただけ」

勇者「俺は全知全能の神じゃない」

勇者「こんな世界俺は知らない」

勇者「まぁ...一つだけ言える事があるとしたら...」

勇者「ここは俺がお前を呼び出した世界じゃない」

勇者「それすなわち」

勇者「お前は魔王に2度目の敗北を喫して死んだんだ」

零「あ...あぁ...」

僕は思わず膝から崩れ落ちた

零「そっか....僕、負けたんだな」

零「嬉しいなぁ」

勇者「.....なぜそう思う?」

零「この勇者の呪縛からやっと解放されるんだ....」

零「うれしくないわけないだろ....」

勇者「.......」

勇者は僕を数秒見つめた後

ゆっくりとこちらに歩み寄ってきた

勇者「嘘つくなよ」

零「嘘なんかじゃっ!」

勇者「じゃあ....」

勇者「これはなんだよ?」

零「あっ——」

勇者は気づけば僕の目尻から溢れていた雫を指で掬い上げた

零「な...なんだよこれ!」

僕は服の袖で素早くそれを拭った

勇者「......」

勇者「悔しいんだよな....」

勇者「お前はずっと魔王を殺す事を目標として生きてきた」

勇者「魔王を殺す事が自分の唯一の生きがいだと思っていた」

零「.....まれ...」

勇者「お前は魔王を倒す事で認められたかった」

勇者「自分の存在意義を感じたかった」

勇者「生きた証が...生きる理由が欲しかった」

勇者「違うか?」

零「だまれ....」

零「黙れ黙れ黙れ黙れ!」

零「黙れえええ!!!」

僕は気づけばその男の胸ぐらを掴んでいた

零「お前に!!!」

零「僕の!!!」

零「何が分かるって言うんだよ!!!」

僕は腕を振り上げ拳に力を込めて放った

零「え——」

僕は避けられると思っていた

しかし....

ドオンッ!

そんな鈍い音を立て僕の拳は勇者の右頬に突き刺さった

零「な....んで...」

勇者は僕を見てフッと微笑んだ

勇者「.....分かるからだよ」

勇者「ずっと言ってきたはずだ」

勇者「俺はお前だって、さ」

勇者「だから....俺はお前の気持ちを痛いぐらい分かってやれる」

次の瞬間

零「あっ——」

勇者は僕の事を優しく抱きしめた

勇者「ごめんな...何もしてあげられなくて...」

勇者「お前は良く頑張ったよ...」

零「う.....」

零「うっ....あぁ...」

僕は嗚咽を溢しながら勇者の胸の中で咽び泣いた

零「悔しいんだよっ!」

零「なんで僕がっ!」

零「僕は正義だったんだよ....」

零「正義は悪に勝つのが普通なんじゃないのかよ...」

零「僕は魔王を殺したかった...」

勇者は僕の頭をそっと優しく撫でた

僕は勇者になら全部を吐いていいと思えた

だから....

この言葉が嘘だと分かっていても....

自分の心が楽になるために言ってしまった

零「僕があんな奴に負けるはずないのに....」

零「僕は...人類最強なんだ...」

零「おかしい...おかしいよ...」

僕がそう言った瞬間

勇者の腕がピタリと止まった

零「.....?」

僕は勇者の顔を見た

すると、勇者は嬉しそうな少し寂しそうな顔をしていた

勇者「そっか....その道を辿るんだな...」

勇者はゆっくりと立ち上がり

勇者「お前に聞きたい事がある」

零「?」

勇者「お前は自分が弱いと思うか?」

零「....おも...わない」

勇者は笑った

勇者「そうだよな」

勇者「自分は人類最強で、誰よりも強くなれると信じていた」

勇者「それが勇者という...」

勇者「神谷零という人間の生き方だ」

その瞬間...

バッ!と勇者の掌から光球が浮かび上がった

勇者「お前にこれをやる」

零「....これは?」

勇者「<能力>だ」

零「能力?」

零「なんで今になって...」

勇者「んーそれは少し違うかな」

勇者「今じゃないと渡せなかった、が正しい」

零「そっか...」

勇者は数秒深呼吸をし...

勇者「さて...じゃあそろそろ卒業式でも執り行うとするか」

そんな事を言ってきた

零「卒業式?」

勇者「あぁ....」

勇者は僕にゆっくりと近づいて

掌にある光球を僕の胸に押し当てた

勇者「俺の力はこの能力と半端な剣の力」

勇者「俺はお前に剣を貸し出していた」

勇者「だが...お前は俺のこの能力まで覚醒させた」

勇者「もう、俺がお前にあげられるものは何もない」

零「待って...じゃあ...」

零「お前はどうなるんだよ?」

勇者「卒業式だって言ってるだろ」

勇者「卒業式はお互いが別の道に歩んでいく儀式だ」

勇者「安心しろよ」

勇者「俺が消えるだけだ」

勇者「お前はこれからも自分の人生を歩んでればいい」

零「何が安心しろだよ!!」

零「できるわけねーだろ!!」

零「俺はまだお前に聞きたい事が....」

勇者「能力はあっちの世界に戻ったら全部理解してる、安心しろ」

零「まだ話したい事だって...!」

勇者はフッと微笑み

勇者「俺はもう十分だ」

零「っっ!!!」

零「なんで....」

僕は膝から崩れ落ちた

勇者は再度僕を優しく抱きしめた

勇者「やっぱりあの言葉訂正するわ」

勇者「お前は俺だってやつ」

勇者「やっぱ....」

勇者「全然違う」

勇者「俺は俺で、お前はお前」

勇者「この剣も能力もお前にやる」

勇者「だけど...力の使い方はお前が決めるんだ」

勇者「お前はもう勇者であろうとしなくていいんだ」

勇者「お前はその勇者の力を持って...」

勇者「神谷零として生きろ!!」

パキッ!

世界に亀裂が入る

勇者はゆっくりと立ち上がった

零「待ってくれ...まだ言いたい事が...!」

勇者は僕が見てきた中で一番の満面の笑みを浮かべ

勇者「行ってこいよ!」

勇者「人類最強の——」

勇者「神谷零!」

そうして...

その世界は消滅するのだった


第三十七話 終了


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